第五十一話 子鉄の鍛冶屋
「……桜はどうなるんだろうな?」
「分からない。それに、それはボク達が決める事じゃないよ」
俺とエルは月光国の大通りを進みながら、そんな会話をしていた。
月光国に来てから日数が経ち、現在九の月15日目だ。そろそろ冒険者ギルドのノルマが近づいている為、エンシャル帝国に行こうかという話を果てなき夢のみんなでしていたのだが、桜だけどうにも返事の歯切れが悪い。もしかしたら、桜は来ないかもしれない。
「ま、桜ちゃんがどんな選択をしようがボクは受け入れるよ」
「はあ、それしかないよな」
幾ら俺達が騒ごうが、最終的に決めるのは桜だ。
「なあ、エル。いつ月光国を去る?」
「うーん。Cランクのノルマが一ヶ月に一度依頼を受けて達成だから、20日には出たいね。その時船が来る予定だし」
「20日か」
船に乗るのも、顔を隠して乗らないとな。似顔絵だと思うから、あまりばれないかもしれないけど。
そんな会話をしながら歩き、俺達は広場の方に出た。
「じゃあ、俺は行く所があるから」
「うん。じゃあねー」
広場でエルと別れて、俺は通りを歩く。
――ふむ、ここら辺じゃないか?
――お! ここだここ。
マモンの言葉に辺りを見渡すと、目的地が見えた。
「ここが“子鉄の鍛冶屋”」
俺がやって来たのは、鍛冶屋だ。ここには、俺と同じ魔法貴族の家系だった子鉄という人が居たらしい。居たらしいというのは、もう死んでいるからだ。桜が6歳の頃死んだと聞いた。桜が言うにはこの鍛冶屋では子鉄さんの弟子が今でも剣を打ち続けているとか。
俺は、ここで1000年前にいたといわれる魔法貴族について聞こうと思ってやって来た。
――マモンは本当に魔法貴族の事知らないのか?
――私が昔の時代で生まれたといっても、私は兵器として生まれた。世間のことはからっきしだ。
――そうか。
そこでマモンとの会話を終わらせて、子鉄さんの鍛冶屋の扉に向き直る。
「ごめんください」
そう言いながら、扉を開けて中に入る。
中は外見からは想像もつかない洋風の店内だ。メインは刀だが、その他にもアルバス王国などでおいてある剣なども売っている。中はがらんどうで、客も従業員も居ない。それもそのはず。俺がやって来たのは朝早くだからな。
「すみませーん」
「――なんだ。まだ営業してねーんだぞ」
そんな荒っぽい言葉を吐きながら店の奥から出てきたのは、ハンマーを担いだ一人のロリッ娘だった。
「もしかして小人?」
「そうだぞ」
「でも、小人はこの国にいないはずだけど」
この国には人間と獣人しか居ないはずだ。
「あたしは師匠に連れてきてもらって、この国に来たからな。それで、今は開店時間ではないが、何しに来た?」
「俺は、多分ここに居た子鉄さんと同じ古代魔法貴族だ。その事について聞きたくて来た」
俺が古代魔法貴族の末裔だというのは剣聖のお爺さんから聞いた話。だけど、図書館で調べようとしたが資料がほとんどなかった。
「……お前は魔力が見えるのか?」
疑り深い視線を向けながら、ロリッ娘は聞いてくる。
「ああ」
「なるほど。じゃ、嘘だといけないからテストをしよう。――これが何の形か分かるか?」
「ッッ!」
ロリッ娘が魔力で作り出したのは、ハンマー形をした魔力。そもそも、魔力を体外で扱うのとても難しい。普通は属性魔力に変換して体外に放出するが、変換させずに素の魔力を扱うのだと、体内だけが精一杯だ。属性魔力ではなく、素の魔力を扱う魔法を、無属性またの名を投与魔法と言う。
「なあ、どうしたんだ固まって」
「ああ。無属性の魔法をここまで上手に扱うのを、感動していたんだ」
「もちろん。あたしは師匠の一番弟子だ。師匠までとはいかないけど、投与も二つまで出来る」
効果を二つも投与出来る時点で、さまざまな国からひっぱりだこにあうぞ。投与師の数じたい少ないし、普通投与出来るのは一つまでだ。三つも投与出来た子鉄さんがおかしい。 かく言う俺も、無属性の魔法は扱えない。と言うか体内で操るだけの身体強化も苦手なのだ。
「それで、何に見える?」
「ハンマーだろ」
どう見ても、多分ハンマーにしか見えない。
「正解だ。これは、師匠と同じ魔法貴族の出なのか?」
「俺もよくしらないんだ」
「うーん。矢っ張り怪しいな。師匠に聞いたもう一家の魔法貴族の生き残りなら、いろいろ知っているんじゃないのか?」
「……それは」
「まあいい。お前が悪い奴じゃない事は分かる。あたしが知っている事で良いなら話してやるよ」
「ありがとう」
――悪い奴じゃないってバベルは充分金の亡者だろう。
――うるさい。俺の何処が金の亡者なんだ?
――じゃあ聞くが、路地裏で人が襲われていたらどうする?
――格好や雰囲気を見て、金を持ってそうで、襲っている奴に勝てそうなら助けてお礼をふんだくる。
――お前は矢っ張り悪人だ。
そうかな。
ロリッ娘はハンマーを台に置いて、近くに在る椅子に腰掛ける。
「古代魔法貴族は、1000年前。古代文明が在った頃に居た。魔力を目で見られて、さまざまな魔法の能力を持ったと聞く。まあ、そんな奴らも古代文明の終わりと同時に死んだ。そこで、生き残ったのが今は居ないが師匠の家系と、エンシャル帝国で魔法の公爵家と言われている家系だ。お前はそこの奴だと聞くが、本当か?」
「剣聖に聞いた、状況証拠しかないがな」
「なるほど。剣聖か……」
剣聖のお爺さんは、こう言っていた――。
『絶句してる様ですね。実は約十数年前魔法の公爵家の次女が、庭師の青年と駆け落ちしたという事があったんですよ。それに、18年ほど前に、この農工都市でその二人らしき人達が冒険者をやっていた。なんて話しもありますよ』
『え?』
『もしかしたら、貴方はその家系かもしれません』
父さんはユニークスキル【草喰い召喚】を持っていると言っていた。聞いた限りだと、庭師にぴったりなユニークスキル。それに、農工都市で父さん達らしい二人組を見かけ、その近くの村で二人が居た。さらに、母さんも魔力が見える力は弱いらしいが、持っている感じだった。そして、二人ともかたくなに過去を話したがらない。状況証拠だけだが、その話を聞いたとき俺は母さんが公爵家の次女で、父さんがその庭師なのでは? と、考えていた。
「まあいい。師匠は魔力を見る目を魔眼と言っていた。今じゃその魔眼を持つ奴もその公爵家の者だけだ」
「子鉄さんの家系は?」
「師匠は結婚もせず、常に刀を打ち、投与をし続けた。師匠はあの五本の刀を打った後『最後の一仕事だ!』って言って。部屋に籠もったまま死んだよ」
ロリッ娘は目に涙を溜めたながら言う。
「あたしは、もっと師匠と刀を打ち続けたかったんだ!」
「……そうか」
俺達の間には、そのまま沈黙が訪れる。
「はあ。そろそろ店を開けるから、さっさと帰れ」
「分かった。俺も帰る。その前に一つ聞かせてくれ」
「なんだ?」
「ずっと気になっていたんだが、五本の刀って名前なんていうんだ?」
「ああ。たしか、血桜、妖桜、魔桜、死桜、殺桜って名前だったはずだ」
「え? 夜桜ってのはないのか?」
「夜桜? んー。聞いたことあるような、ないような。……少なくとも五本の内の一つではない」
ロリッ娘はそう言って、俺を店から追い出した。
「……どういう事だ?」
桜が言うには、夜桜も子鉄さんの最高傑作となった五本の内の一本だと言っていた。証拠としてサインも入っていると言って、見せてくれたし……。だけど子鉄さんの一番弟子のロリッ娘はそんな刀はしらない?
「……気持ち悪いな」
少し悶々とした物を感じながら、俺は月光国の町並みを歩いた。




