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爆虫の召喚士  作者: 天野 雪人
第五章 月光国編
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第四十六話 マモンとリンクと天ぷらと

「聞いてたとおり、アルバス王国と違うね」

「そうだな」


 俺達は、月光国の城下町に来ていた。桜の家はいわゆる貴族街に在るので、そこを越えて今は平民が多く住み、大小さまざまな店が並ぶ大通りを歩いている。

 矢張り、月光国は昔の日本。江戸時代と似たような風景が広がっている。


 ――そして、アルバス王国とは決定的に違うのがあれだな。


 ――あ! マモン。


 ――さっきぶりだな、バベル。


 ――そうだな。


 ――まあ、あの事は水に流そうではないか。


 ――はあ。分かったよ。それで、決定的に違う所ねえ。


 マモンの言葉に周りを観察すると、少し違和感がある。


 ――……なるほど。確かに違うな。


 ――だろ。


 違和感の正体は、町に普通に融け込んでいる獣人の姿だ。アルバス王国では獣人の数(という異種族)が少なく、少しギスギスしていたが、この国では普通に住人として風景に融け込んでいる。


 ――だが、獣人だけなんだな。


 ――ふむ、この国には獣人しか居ないのか?


「あ! バベル君。あれ食べようか」

「にゃ! 我はあれにゃ!」


 マモンと脳内で会話をしていると、エルとニャルカが同時に叫ぶ。

 指を指した方を見てみると、エルがおでんらしき物。ニャルカが焼き魚を指している。


「自分の金で買ってこい」

「うん」

「にゃ!」


 二名とも、店の方に走ってゆく。


 ――なあ、お金の価値は同じなのか?


 ――ん? ああ。これは栄一郎さんが持たせてくれたお金だよ。


 ――そうか。


「んー。俺はあれにするか」


 俺は天ぷらと書かれた屋台に向かう。


「おやじさん。天ぷら一皿」

「あいよ」


 俺はそう言って、お金と皿を渡す。おやじさんはそれを受け取ると、揚げたての天ぷらを皿に盛る。


「ほれ」

「ありがとう」

「まいどありー」


 天ぷらの入った皿を受け取り、近くの椅子に座る。


「うまそうだな。いただきます」


 まずは、海老エビだな。

 サクッ――! 美味い。サクサクとした衣。プリッとしたエビの食感。二つの組み合わせがかみ合わさり、とてつもない旨みが駆け巡る。一口食べると、海の中の風景を思い浮かべてしまう。


 ――ゴクリ。美味そうだな。なあなあバベル。私とリンクしてくれないか?


 海老天を食べていると、マモンが声を掛けてくる。


 ――リンクってなんなんだ?


 ――リンクとは、私とバベルの感覚を共有する物だ。バベルと味覚をリンクすれば、私もエビを味わえる。


 ――……いつも気になってたけど、古代兵器ってなんだ。古代兵器ってのはエビを食べるために、感覚を共有する馬鹿なのか。


 ――ば、馬鹿とはなんだ。私は古代兵器“強欲”。歴とした古代兵器だ。お前は私と感覚を共有してくれればいいのだ。


 ――はー。分かった。ただし、今度は無償で力を貸せよ。


 ――分かった。では、共有するぞ。


 グッ。マモンがそう言うと、頭の中からさまざまな器官に、何かを繋がれる様な、気持ち悪い感覚が襲ってくる。


 ――よし、終わったぞ。


 ――はあ。可成り気持ち悪いな。


 ――まあ良いではないか。じゃあ、食べろ。


 残っていた海老天を、口に入れる。


 ――ん。美味い。


 ――だろ。


 この少し残っている海老を、少し盛ってある塩に付ける。


 美味い。サクサクプリッとした海老に、少量の塩を付ける事で、また違った味になる。


 ――はあ~。海老って最高だな。


 マモンも海老の美味しさに、のぼせている。


 次はサツマイモの天ぷら。

 サクッ――美味い。サクッとした衣に、甘い芋。この紫の芋は、甘みの天国に連れて行ってくれる。


 ――おい、バベル。もっと噛んで食べろ。私はそっちの方が良い。


 ――なに! 飯はな、ササッっと食べるんだ。チンタラ食っていては、桜に全部盗られるぞ。


 ――たしかに桜ならやりかねないのかな?


 そんな会話をしながら、俺達は城下町を歩きまわるのだった。




「ふう。楽しかったね」

「そうだな」


 エルの言葉に、俺はそう返す。空を見るとすでに夕方なっており、急いで桜の実家に走っている所だ。(もちろんペース配分を考えて)

 ここまで来ると、周りには豪華な日本式の屋敷が建ち並び、身分の高い者が住む様な高級な雰囲気が漂っている。


「お、着いたにゃ」


 走っていると桜の実家にたどり着いた。

 中からでも漠然と分かっていたが、桜の実家は外から見るととてつもなくでかい。なんかヤバイぐらいでかい。

 それに、この場所から良くドラマとかで観る、日本式の城が建っているのが見える。この上に月光国の王が居るのだなーと、この近くに国庫が在るのだな―と、考えてしまう。


 ――王と国庫を同列に語れるお前が凄いよ


 ――ん? 俺が考えてること分かるのか?


 ――今はリンクしているからな。漠然とだが分かる。


「バベル君。行こう」

「おっと。そうだな」


 マモンとの会話を終わらせて、俺達は桜の実家に入って行った。




「涼しいねー」

「にゃ!」


 広すぎて、もうなんだか分からなくなった廊下を俺達三人が歩く。桜はまだ見ていないが、この屋敷に居ることは確かなのだろうか。

 長い長い廊下の突き当たりが見えてきた。左に行くと、俺達の部屋に行くので、左折する。すると、ドンッという音がし、何かにぶつかってしまった。


「なんだ」


 前を見ると、桜を一回り大きくした様な、人物が倒れていた。


「いったー」

「だ、大丈夫ですか!?」


 角で曲がった時に、ぶつかったのだろうか。俺は桜もどきさんに、手をさしのべる。


「あ、ありがとうございます。私は急いでいるので、これで」


 桜もどきさんは、起こしてあげるとすぐに廊下の向こうに消えていった。


「……バベル君。あの人はなんだろう?」

「うーん。桜の姉かな?」

「そうじゃにゃいか」


 あそこまで似ているなど、姉妹しかあり得ないだろう。それに、急いでいた様だが何だったんだろう。

 そんな事を考えて歩いて入ると、部屋にたどりつく。


「夜ご飯まで暇だし、何かするか?」

「じゃあ、リバシーをやろう!」

「そうだな」


 リバシーとは、白い駒と黒い駒で遊ぶボードゲームだ。ルールはオセロそのまんま。取り合えず名前だけ変えておくか感が凄いボードゲームだ。

 そんな会話して、自分の部屋の襖を開けると、中には桜が居た。


「「…………」」


 たしかに、桜が居たのだが、凄く違和感がある。


「バベル君バベル君。本当に桜ちゃんだよねえ」

「多分そうだと思う。だが、四割の確率で違うとしても、俺は信じる」

「メッチャ変わったにゃ」


 そう、その違和感の正体は、桜が着物を着ているのだ。それだけなら何時もと同じだが、今桜が着ているのは、豪華で、とても動きやすそうではない見た目重視の物だ。何時も着ている動き易さを重視したいかにも女侍といった格好ではなく、お淑やかさを醸し出した桜は新鮮だ。


「あのー。主殿にエル殿?」

「は! 桜ちゃん変わったね」

「はい。似合ってますか」

「似合ってるんじゃないかな? 着物を着ている桜は新鮮だな」

「そ、そうですか」


 矢っ張りすげーギャプだ。まあ、こっちの桜もありだと思う。


「そうだ! 桜って姉が居るのか?」

「え……!」


 あそこでぶつかった人は桜の姉じゃないかと、思って聞くが、桜の雰囲気が何か変わった。


「……姉上は、もう居ません」

「「え!」」


 姉がもう居ない。そう言った桜の表情は、悲しみに溢れていた。


「ご、ごめん」

「いえ。そ、それより! 夜ご飯の事で、来たんですよ」

「夜ご飯?」

「はい、夜ご飯は、すき焼きです!」

「な!」


 す、すき焼きだと。何て物を夕飯にだしてくるんだ。


「ねえ、すき焼きってなに?」

「いうなれば、この前食べた、鍋料理みたいな物だ」

「「な!」」


 俺の言葉に、ニャルカもエルも絶句する。


「……戦争だにゃ」

「桜ちゃん。変えることは出来ないの?」

「私も何度も止める様に言ったのですが、親睦を深めるには、一緒の鍋をつつくのが一番だと」

「はあ。それで、戦争が起こるとは考えなかったんだな」

「にゃはは。バベル。我は、手加減しにゃいぞ」


 ニャルカは、そう宣言すると、部屋を出て行く。


「ボクも牙を研がないといけないから、これで失礼するよ」

「わ、私も少し用事があるので……」


 そう言って、二人とも部屋を出て行く。


「ふう。今回は、荒れるな」


 部屋には俺の呟きが、広がった。

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