第四十七話 鍋戦争
「あ! バベル君」
「お! エル」
夕飯の準備が出来たと聞いたので、俺は、その部屋に向かっていると、エルとばったり会う。
「……覚悟は出来てる?」
「もちろん。エルこそどうなんだ?」
「出来ているに決まっているだろう。これから起こるのは、戦争だよ」
「そうだな」
そこで会話が途切れ、二人とも無言になる。
「……ねえ。桜ちゃんは姉が死んだって言っていたけど、あそこでぶつかった人は、何なんだろう?」
「……姉じゃないんなら、母親かな?」
「ないよ」
「だよな」
あそこでぶつかった桜もどきさんは、桜を一回り大きくしたぐらいで、とても母親とは思えない。
「……じゃあ、幽霊?」
「……その可能性もなきにしもあらずだな。十中八九そうだと思うけど」
「……そうなのかな?」
あの人は桜のお姉さんの幽霊ではないか。と、いう話しをエルとしていると、指定された部屋にたどり着いた。一応侍女さんが案内してくれると言ったが、そんなのは慣れないから丁重に断り、場所だけ教えてもらったので、うろ覚えなのだが、多分此所だと思う。
襖を開けると大きな座卓と、座布団があり、座卓の上ではすき焼きが乗っている。すでに、ざぶとんには桜とニャルカ。栄一郎さんと咲野さんが着いており、その横には桜もどきさんが居る。ん? 桜もどきさん?
「「…………」」
俺とエルは桜もどきさんをガン見して。
「「幽霊だ~!!」」
一斉に悲鳴を上げた。
◇
「え! 桜の母親?」
「はい。夜月朱奈と申します」
完全に桜を一回り大きくしただけの、幼妻にしか見えない桜の母親は、丁寧に挨拶をしてきた。
「ビックリしたよ。幽霊だと思ってた」
「幽霊、ですか?」
「あ、はい。完全に桜の姉かな~? と、思っていたので」
「……そうですか」
桜の姉の話をすると、完全に空気が暗くなる。
「た、食べましょうか」
桜の言葉に俺達もざぶとんに座り、すき焼きが始まった。
「なんか、とても将軍家の食事風景とは思えませんね」
前世歴史の本や、ドラマとかで見たものだと、食事の準備をする侍女や、毒味役などが居るイメージだ。それに、雰囲気も家族で和気藹藹と食事をする様な感じで、とても将軍様の食卓だとは思えない。
「それは、家の先祖代々の風習でござる。バベル殿、それに、拙者も堅苦しいのは昔から苦手でござるからな」
俺の疑問に栄一郎さんが説明してくる。だが。
「それが今回は仇になったな」
「そうですね。私もそう思います」
これが侍女さんが直々によそってくれるなら、戦争が起こらなかったかもしれない。
「ふう。では、食事を始めましょう栄一郎さん」
「はあ。では、いただきます」
「「「「「「いただきます」」」」」」
そして、風が起こった。
三つの箸と、一つのフォークがすき焼きの鍋に向かう。そう、今戦争が起こっているのだ。
――第一次鍋戦争が起こったのは、俺達が王都に居るとき。全員で大きな鍋をつつくなら、安くすむんじゃないか? という俺の考えで、普段行かない鍋物の店に行き、戦争が起こった。
全員が相手をだしぬこうと、こそくな手を使う。桜は力尽くで。エルは消えて変幻自在に。ニャルカは催眠を駆使してあいてをミスリードする。そんな中で、俺が生き残れたのは、マモンの力があってこそだろう。マモンが俺の気付かない場所まで見ていたから、俺もなんとかついて行けた。鍋が終わり、気付いたら、人が居ない店内。半壊した店が在った。安くすませるつもりが、その弁償で高く付いてしまった。あの時から、もう鍋料理(全員で一つの鍋を食べる料理全般)を止めようと、したのだが、こんな所で戦争が始まるとはな!
――こら、よそ見するなバベル!
――すまん。それで、今の戦況は?
――桜が肉の大半を確保。エルとニャルカはその他めぼしい物を。お前はシイタケに菜っ葉か。
――すこし休戦だ。
新しく食材が投入されるまでは、確保した食糧を食べる。ふと横を見ると、夜月家の三人がポカンとしていた。
「桜、はしたない」
朱奈さんがそう言うが、もともとこんなもんだと思う。
「外に出た事で桜に悪影響が……」
あんたの妹さんは会ったときからこんな感じでしたよ。
「面白そうでござるな。拙者も混ざるでござる!」
矢っ張り貴方は桜の父親だわ。
「にゃにゃにゃ。そろそろ開戦にゃ!」
「拙者も参戦するでござる」
栄一郎さんも混ざって、戦争が開始された。
余談だが、朱奈さんと咲野さんはまた別の机ですき焼きを食べていた。
◇
「はあー。生き返る-」
俺は桜家のお風呂につかりながら、そう言った。
あのすき焼き戦争は栄一郎さんの圧勝で幕を閉じた。栄一郎さんは強すぎる。箸を伸ばそうとしたら手が急に重くなったりするので、鍋の前に到達する事すらろくに出来なかった。
夕食の後は栄一郎さんがお風呂にどうだと言ってくれので、あの戦争の疲れを癒す為にもお風呂につかっている。
それにしても、ここのお風呂は広すぎる。前世の大きめの銭湯の風呂と言えばいいだろうか。兎に角広い。俺はその風呂にニャルカと一緒に入っている。ニャルカは風呂桶に入って、風呂の上を漂いながら寝ている。ニャルカは風呂が嫌いなので逃げようとしたが、俺が捕まえて風呂の中に放り込んだ。
「ふにゃー。風呂もいい物かもしれんにゃ」
「そうだろうそうだろう」
エルは先ほどの戦闘でダウンしたので、先に部屋で寝ているし、桜も朱奈さんとどこかに行った。
なので二人きっりだ。
「……なあ。少しだけ気になっていたが、ニャルカって男? 女?」
「にゃはー。知りたい?」
「知りたい。教えなかったら……」
「こ、恐いのにゃ。その続きはにゃんにゃのだ」
桶の中で震えるニャルカに一睨みすると、すぐに話し始める。
「わ、我は男でもあり、女でもあるにゃ!」
「は? どういう意味だ」
「我は少し特殊でにゃ。いろいろあるんだにゃ」
「ふーん」
特殊か。夢見がちな馬鹿を投棄する岬で話さなかった事は、みんないろいろあるのかもしれん。
――そうだな。人間全ての秘密を話そうとはしない物だ。
――そうなんだろうな。俺も話したくない秘密ぐらいあるし。
――私にもあるしな……。
――ん?
マモンの最後の言葉だけ、聞き取れなかった。
果てなき夢の鍋るーる(桜直筆)
第一条 人が取った物は盗らない。(それは泥棒でござる)
第二条 正々堂々は騎士にでも食わせろ(人を傷付けなければ、なんでもありでござるー)
第三条 修理費はわりかん(店の修理代金はみんなで払うでござる。主殿だけ安いのはなんででござるか?)
第四条 ちゃんと出来上がるまで手出しはだめ(生焼けは嫌でござるよ)
第五条 みんな仲良く鍋をしよう(いつも戦争になるでござるが……)




