第四十三話 これを密航と呼べるのだろうか?
「……そろそろか」
くろまめに横になって本を読んでいると、上が慌ただしくなる音が聞こえる。
「そうだね」
時間的にもそろそろ出航の時間だろう。
「……みんなに確認しておく。これは密航という悪い事だ。それでもやるか?」
「今更ですね」
「にゃっはっは。正義に臆する我ではない。我は我の道を行くにゃ」
「やるよ。ボクは月光国に行きたいしね」
三人とも覚悟は出来てるみたいだ。
「それでこそだ。じゃあ、月光国に行こうか!」
「「「おー」」」
俺達を乗せた商船は、月光国に向かって進み出した。
◇
船が進み出して数時間ほど経過した。俺は本を読み、桜とエルはちゃきいの背に乗せて、ボードゲーム。ニャルカはくろまめの背で昼寝している。信じられないかもしれないが、これでも密航してるんだぜ。はたから見たら、絶対密航中とは分からないだろうが。
「にゃ! 我のセンサーに、近づいてくる者の気配がするにゃ」
「うん。ボクも気配を感じるよ」
「私もです」
「え! まじか。だけど、隠れるのめんどくさいな」
今までゴロゴロしていたから、急に隠れるのも面倒だ。
「しかたにゃい。冥界七大魔道具“迷彩の布”。これは、景色に融け込む効果を持つ布にゃ」
「いいじゃん。それを使おうよ」
大丈夫なのだろうか。魔力も見えないし、それってニャルカの手作りだろ? まあいいや。もしもの時は、ニャルカに記憶操作してもらえば良いから。
「じゃあ、つかうにゃ」
ニャルカは布を、俺達に被せる。
すると、そのすぐ後、男が二人入って来た。
「おい、樹酒は入っているか?」
「はい、瓶で三本ほど。ちゃんと入っています」
「よし、あれは月光国のお偉いさんに献上する物だから、傷付けない様にしろよ」
「はい、分かっています」
荷物を確認して、男二人は倉庫を出ていった。
「こっちまで来なかったね」
「そうだな」
あの二人は俺達が隠れている場所まで来なかった。荷箱を確認して、さっさと帰っていった様だ。
「にゃんだ。使わなかったのか」
ニャルカはそう言って、布をがまぐちに戻す。
「ふあ。寝よう」
俺も眠くなったので、くろまめに乗って、眠りについた。
「ん? あれ」
俺が眠りから目を覚ますと、ちゃきいの上に食事が置いてある。エルと桜は毛布にくるまり寝ていて、ニャルカだけは、ちゃきいの上にある食べ物をあさっている。
「……なあ、ニャルカ。何があったのか、簡潔に三行以内に答えろ」
「にゃにゃにゃ。バベルはおきたにゃ? それに、三行以内にゃんてむりだにゃ!」
シュナの粉で真っ赤に染まった肉の欠片を口に付けたまま、ニャルカは答える。
「何でも良いから、説明してくれ」
「にゃー。バベルが寝てから、もう夜に為ったにゃ。その間に、エルと桜が食堂でご飯を盗ってきたりして、今は寝ている所にゃ。我はエネルギーが切れたので、現在補給中にゃ。バベルも食べるにゃ?」
「あ、ああ」
盗ってきたって。食堂から金も払わず持って来たのか。そのくせ、ものすごく無防備だな。俺達って本当に密航しているのか?
「まあいいや。いただきます」
ちゃきいの上にあるビーフシチューに手を付ける。
ほろり――っ美味い。この部位は頬肉か? 口に入れるとホロリととろけるトロトロの頬肉。そして、このデミグラスソースは絶品だ。冷めているビーフシチューも、充分美味しい。
このビーフシチューは、星三つだ!
「美味しかった」
他にもサラダやパンなどを食べ、俺のお腹は満腹になった。
「ごちそうさまでした」
俺は皿をちゃきいの上にのせる。
「さて、ニャルカはどうするんだ?」
「我は休眠に入るにゃ。暫くおこすでにゃい」
ニャルカはそう言うと、くろまめに付いている椅子で丸くなった。
「俺はどうしようかな」
さっきまで寝ていたのもあり、目が冴えてる。暫く眠れそうにない。
「そうだ。船の中を探検しよう」
――なあ、お前って馬鹿なのか?
俺が船を探検しようと決断すると、マモンがツッコんでくる。
――ふ、心外だな。俺の何処が馬鹿だというのだ。
――全部だ。なぜ、エルフィルが目覚めるまで待たない。あいつの協力がない限り、船の探検は絶望的だぞ。それに、ニャルカが居れば、もし見つかっても記憶を改ざん出来る。そもそも、密航中に探検するなどという発想が出る時点で、お前は馬鹿だ。
――さんざんだな。俺のハートにクリティカルヒットしたぞ。
――ふん。事実を言ったまでだ。
――まっ、マモンが何を言おうと、俺が船を探検するのは変わりない。
――そうか。なら、私は止めん。好きにしろ。
――ああ。好きにさせてもらう。
マモンとの会話が終わり、俺は倉庫を出る。
倉庫を出ると廊下が続いており、所々扉も付いている。今は夜なので、最低限の人数を残して寝ているのだろう。人の気配がない。なので、大っぴらに動き回っても大丈夫だ……多分。
少し廊下を進むと、大きな扉が在る場所まできた。
「……ここは立派だな」
この扉は、他のより立派だ。
「ふむ、入ろう」
少し悩んだ後、俺は入る事にした。
扉を開けると机と椅子があり、少し豪華だ。中を見た限り、船長室だろうか。
「ふむ、なにかないかなー」
こんな豪華な部屋に入ったからには、持って行く品を吟味しないといけない。……あれ? 俺って泥棒思考に成っているような……。まあいいや。
「お、方位磁石だ」
机の引き出しを開けると、方位磁石を見つけた。三つも入っている事から、予備だと思う。
「よし、貰っていこう」
三つも有るから、貰っても良いよね。良いに違いない。一応お金を代わりに入れておく。
さすがに海図や航海日誌を持って行くのは止めておこう。他にも携帯食や本などもあるが、特に必要ないので、持って行くのは止めよう。
「あとはこれかな」
よく使いそうな白紙は数枚。インクも結構な数あるので、一本持って行く。さすがに羽ペンを持って行くわけには行かないので、自作しよう。もちろん買うわけがない。
「ふう。可成りの収穫だった」
俺は今までパク……貰った物をそこで手に入れた布に包んで、船長室をあとにした。
その後も少しだけ探検して、倉庫で眠りについた。
――後に、船の中で気付いた時に物がなくなっていた事件を【妖精の拝借】と言われるようになった。一応バベル達の中には妖精族が居たので、あながち嘘ではないが、その妖精族は盗みをしなかったので、この名称はどうなのだろうか……。




