第四十二話 月光国へ
五章開始。
「マズイ事になった」
俺はあれから一夜明けた宿の部屋で、そう言った。
「どう言う意味ですか?」
「今女将に聞いたんだが、月光国行きの船が、五日後しかないんだ」
「え! そこまで待ったら、指名手配の情報は回るでしょ」
エルの言うとおり、この世界は中世時代的な世界だが、魔法とかユニークスキルとかがあるから、いろいろとチグハグな部分がある。その最もたるは、情報伝達速度だろう。ユニークスキルで、遠くから情報を送るスキルもあるため、悠長に五日も待っていられない。
「どうするの。月光国行きはとりやめ?」
「いや、一つ手がある」
「それは?」
「密航だ」
「「密航?」」
「そうだ」
月光国行きの客船が出ないというだけで、商船は出るらしい。
「それに密航するの? 頼んだら乗せてくれるんじゃないかな?」
「俺もそれを検討したが、女将がいうには、今日出る商船にそんな余裕はないらしい」
「……これも仕方ないね。刑務所にも入ったし、脱獄もした。今更密航ぐらい大丈夫だよね」
そうだよな。人間として大切な何かを失っている気がするが、今更だ。俺達は密航する事に、まるで抵抗がない。
「すぐに準備しましょう」
桜のその一言で、待ちあわせの場所を決め、俺達は密航の準備を始める事になった。それと、俺はこの時からずっと考えていた、ござるの語尾を付けない桜は違和感しかないと。
◇
「バベルはにゃにを買うにゃ」
「少し保険をな」
「保険?」
いくら何でも、保険も掛けないで密航するなんてただの馬鹿だ。俺は見つからない様に、様々な道具を買おうと思っている。
「これはにゃんだ?」
「煙幕だ」
市場や冒険者用品専門店を巡りながら、道具を買う。煙幕は、もし見つかった時に逃げ出すための道具だ。
煙幕の他にも、カギフックが付いたロープ。迷彩布などを買う。
「うーん。これで一通り買ったかな」
「にゃ。待ちあわせ場所は港にゃ。そろそろ準備をしないと、ヤバイにゃ」
ニャルカの言うとおり、そろそろ行かないと商船が出航してしまう。
俺は目立たない様に、港に向かった。
「おーい」
待ちあわせ場所には、すでにエルと桜が来ていた。
「バベル君、来たね」
「ああ。いよいよ密航だ」
俺は短く言葉を交わし、港に停泊している商船に、エルがユニークスキルを使いながら、抜き足差し足忍び足で乗船する。
「甲板まで来られた。隠れるのは船の中でいいかな?」
隠れるのは船の中で探す事にし、ハシゴを下り船内へと入る。
この船は比較的大きく、船の中も広い。俺達は、隠れやすそうな場所を探すため船の中を歩きまわる。途中、船員や水夫とすれ違うたびに、見つからないかヒヤヒヤしたり、魚人族を見つけて悲鳴を上げそうになりながら、終にいい感じの場所にたどり着いた。
「ここは倉庫ですか?」
「そうだな」
キリリとした桜には違和感しかないけど、それは置いておこう。倉庫は木箱が一杯置いてあり、エルのユニークスキルと木箱の影に隠れられれば、これほど良い隠れ場所はないだろう。
「ふむ、ここで良いか」
俺達は隠れ場所をこの倉庫に決めると、木箱が入り組んでおり、入り口から見えない位置に、腰を下ろす。
「ふう。入る事は出来たね」
「だな」
商船に忍び込む事は出来たし、あとは月光国に着いた後の脱出だな。
「出航まで待とうか」
「そうだな。月光国はここからしか行けないし、エンシャル帝国から行けないのが少し傷だな」
「そうですね」
調べて分かった事だが、月光国に行く唯一のルートが、この港町しかない。エンシャル帝国側からのルートは、【海王 ビッグバンホエール】のナワバリに為ってるし、他のルートも渦潮が渦巻く危険地帯だったり、他の二つ名持ちのナワバリだったりで、唯一このルートだけが危険地帯ではない。エンシャル帝国から行けるなら、そこから行くのだがな……。
「サモン『くろまめ』」
俺は出航までの時間をつぶすために、くろまめを召喚し、そこに横になる。
そして、ローブから本を取り出してひまつぶしに読み出した。
「……ん? 今普通に流しけど、何でバベル君が本を持ってるの!?」
俺が本を読み出して数十秒後にエルがツッコんでくる。
「いや、さっきあのデブ貴族に復讐しにいった“爆虫戦艦二号指揮型船ちゃきい”が帰ってきてな、そこで本を借りてきて貰ったんだ」
「ネーミングセンスの事はまあ置いておくとして。それって借りパクじゃないの!?」
「……とあるガキ大将はこう言った。『お前のモノは、俺のモノ。俺のモノも俺のモノ』と」
俺はこの言葉を名言だと思っている。
「……それっていけない理論だと思うな」
「それはあまいぞエル。ハニートーストにメープルシロップと白砂糖を掛けて、虫歯になる事を漠然と想像しながら食べるよりあまい」
「……前半は兎も角後半の意味が分からないんだけど」
エルがじと目を向けてくるが、気にしない。
「……たしかに一般的視点から捉えれば、行けない言葉という可能性は半分位ある。しかし、俺はちゃんと返すつもりだから、良いんだ」
「…………そうなのかな?」
取り合えずこの話はうやむやにしておこう。
そういえばちゃきいは爆虫の図鑑に収納したが、未だに他の爆虫を収納する事は出来ない。くろまめとちゃきいみたいに、名前を付けるのも条件じゃないし、何なんだろうか。
「まあいいや」
俺は考えるのを止め、本を読み出す。倉庫には、本のページをめくる音だけが響き渡った。




