第三十二話 記憶消去
「まずは宿を決めようか」
俺達は、ウルルさんとの食事の後、宿屋を探すために裏通りを歩いていた。
「予算はどれ位だ」
「うーん。ニャルカは小さいから、三人部屋の一泊銀貨五枚かな」
「それぐらいだな」
俺達の貯金は金貨五枚ほどあるが、何か癖になり銀貨十枚と見ると、高く見えてしまう。これでも可成り直った方だ。最初は銀貨三枚の宿で高いと思ってたからなー……。
「あれ? ……みんな誰に向かって跪いてるでござるか?」
「ん? 本当だ」
桜の言葉で道を見渡すと、他の人達は、道の脇で一斉に膝をつき、目線を下に向けてる。
「にゃんにゃのだ?」
「おい! そこの庶民。なぜ膝を突かない」
疑問に思っていると、俺達の目の前には後ろに三名の騎士らしき人を連れた、いかにも貴族の坊ちゃんらしき人物が居るのが目に入った。
「……暫く歩いて、良い宿を探そう」
「そうでござるな。夜は食べ放題に行きたいでござる」
「そうだ、おやじに言われたラーメン屋にも行ってやれよ」
「そうでござるね」
目の前の貴族はめんどくさそうなので、まるっと無視して、宿の話を続ける。
「矢っ張り安い事が最低条件」
「おい! そこの平民」
「我は闇が広がる漆黒の寝床がいいにゃ」
「おい! 待て!」
「ご飯は美味しいのがいいでござるよ」
「まてと言っているのだ! 死刑にするぞ!」
「はあー。何なのさっきから、かまってちゃんなの? そんな構って欲しいならゴブリンの巣に突っ込むぞ。あそこなら一杯構ってくれるからな。もしくは太平洋に浮かべてやろうか? 寒いギャグを吐く蛙のエサにするのも良いぞ。それが嫌ならさっさと帰れ! この、貴族の穀潰しが!」
このかまってちゃんな貴族に、暴言を吐きまくる俺ことバベル。
「おい! 俺が誰か分かってるのか!」
「はいはい貴族サマでしょ。貴族サマ」
「な! こいつらを引っ捕らえろ! 不敬罪で死刑にしてやる!」
「ほお、売られた喧嘩は買ってやるぞ。やれエル!」
「アイアイサー」
エルは騎士の攻撃をかわしながら、手を触れていく。すると、騎士の姿は次々と消えていった。
「せっしゃでござる」
桜は消えていった騎士が居た場所に、夜桜の峰で攻撃していく。
「な! おい、騎士ども! 何処に消えた」
今のは、エルがLV2に成った事で手に入れたサブスキル『共に消える者』だ。
「最後にこいつでござるな」
「お、おい! 俺に手を出すと後悔するぞ。死刑だ。それが嫌ならさっさと消えろ!」
「逃がしても絶対死刑になりそうだから、逃がすわけにはいかないな」
「な! 貴族に手を出すとどうなるか分かってるのか」
「武器を抜いたから死刑だろうな。だが、俺はお前を貴族と認めん!」
貴族とは、民のことを第一に考え、身を粉にして働くことで、民の血税で贅沢出来るのだ。こんな奴は貴族じゃない。
「ここじゃなんだから、あっちに連れて行くね」
エルと桜はあの馬鹿貴族を引いて、路地に入っていく。
「じゃあ、ニャルカ頼む」
「にゃはははは。闇の誘惑にはあらがえない。『催眠波動』にゃ」
ニャルカは波動ビームを、見ていた人に当てていく。
「お前達はにゃにも見ていない。ただの日常が過ぎていくだけにゃ。それと我を崇め……イタッ」
「何、条件を追加しようとしている。今の記憶を消すだけで良いから」
「にゃー」
ニャルカには今見た事を消して貰っている。ここが裏通りだから良かったが、大通りだったら人が多くて凄い事件になっただろう。それにしても、今までの惨状に声をだしたり止めに入った者は居なかったな……。
「にゃ、終わったにゃ」
「ん? ごくろう」
俺達は仕事を終わらせ、エルと桜が入った路地に入った。
「庶民ども! 何をしたのか分かっているのか!」
路地裏に貴族の声が響くが、外に漏れる事はないだろう。あいつの後ろにいた騎士も、横で気絶している。
「うーんどうするでござるか? にゃるかに記憶を消して貰うでござるか」
「それは無理にゃ。我が闇の誘惑は、暫く休息にはいったにゃ」
要するにクールタイムか。それは不味いな。どうしよう。
「そうだ! 知ってる、人には記憶を消せるツボがあるんだって」
「なるほど、その手があったか」
「ふーむ。盲点でござった」
「早く寝たいにゃ。さっさとやるにゃ下僕ども」
「な! 何をするつもりだ! 平民の分際で、俺に触るな。貧乏がうつる!」
ニャルカは叩いておき、目の前で叫き散らしている貴族に、人間にあるという記憶を消す方法を試してみる事にした。
「あれだけやれば、記憶も消えるでしょ」
「そうでござるな。記憶が消えるだけでなく、アホになるかもしれないでござるが……」
「まあいいよ。臨時収入があったし」
あの貴族からスッ……貰ってきたお金が、金貨十枚と、俺達の全財産を軽く越える額が手に入った。
「……話だけしか聞かなかったから分からなかったけど、王都に入って良く分かったよ。この町は、空気が重い」
「そうだな。貴族があんな事するなんて、……この国は十年と保たない」
「そうでござるな。エリミナちゃんが人気なのがよく分かったでござる。やっぱり凄いでござるな」
王族をちゃん付けに出来るお前の方が凄いよ。絶対大物になると思う。
「うーん。矢っ張り此所かな?」
「まあ、此所が一番良いが」
裏通りを歩きまわって、吟味した結果、この“時雨亭”って所が一番いいと思う。三人部屋で銀貨四枚。食事は別だけど、掃除も行き届いており、人気もありそうだ。
「ここにするにゃ! 我の寝床に相応しい」
話会いの結果、満場一致で此所に決まった。
「ふむ、良いな」
借りた部屋に入ると、ベットが三つあり、小さな机に椅子。それにタンスも置いてある。
「じゃあ、これからは自由行動で……」
「そうだねー。王都で依頼を受けるのは明日からかな?」
「我は一緒にいくにゃ」
ニャルカはそう言って、俺の頭に飛び乗ってくる。
「ボクもいろいろ行きたい所があるから……」
「せっしゃもでござる」
「じゃあ、解散」
そう言うと、二人とも宿を出て行き、ニャルカと二人っきりになった。
「にゃー。お前は何処に行くにゃ」
「なあ、いい加減そのお前っての止めてくれないか?」
「にゃ! じゃあ、下僕一号で」
「怒るぞ」
「にゃにゃにゃ。分かったにゃ。バベル」
「ありがとな」
「にゃ! にゃにゃにゃ」
最後は何か照れてたが、何か照れること言ったかな?
「よし、俺は王都に行ったら行きたい所があったんだ」
「にゃ! 行くぞバベル」
俺達も、宿を出て、目的地に向かうのだった。
貴族「は! ここは何処? 私は誰?」
てな事になったりした。(十分後にあらかた記憶を取り戻したけど)




