第三十三話 図書館と正体不明と吸血鬼
「うーむ。矢っ張り目立つのかな」
俺は、大通りをくろまめに乗って進んでいた。他の人が俺を見る目は、完全に怪しい者を見る目だ。
「にゃー。たしかに漆黒の虫は見ていると闇に引きこむものだ」
「うーむ。まあ、気にしなければいいか」
周りの視線は、気にしない方が良い。その方が楽だ。
「にゃ! バベル。我はあれを所望するにゃ」
歩いて入ると、頭に乗っているニャルカが一店の露店に、肉球を指す。
「サンドイッチか……銅貨二十枚だし、買うか」
「――サンドイッチを一つ」
「い、いらっしゃい。サンドイッチだね」
その店の者は、くろまめをガン見しながら用意する。
「はい、銅貨二十枚ね」
「ほい」
「毎度ありー」
歩きながら、サンドイッチを食べる。
「美味い」
この、シャキシャキと食感は薬草だ! 薬草を回復目的ではなく、野菜として栽培する事で、シャキシャキとした食感は、長続きする。その代わり回復効果はないが。
「よし、これを挟んでみよう」
俺はあの蛙に貰った下位竜の干し肉をサンドイッチに挟む。
……美味い! けど、下位竜にインパクトを持って行かれ、支配されている気がする。
「にゃー。いい加減我によこすのだ。早くするのだ」
俺の頭から身を乗り出す猫。
「ほい。こぼすなよ」
「分かってるにゃ」
ニャルカも一口食べると、微妙な顔をする。
「……この肉に味を支配されてるにゃ。それに、辛くないにゃ」
そう言うと、ニャルカは小瓶を取り出して、サンドイッチに振りかけた。
「な、何するんだ!」
「辛くないと、やってけにゃい」
真っ赤に染まったサンドイッチに、ニャルカはかぶりつく。
「美味いにゃ」
「はー、全く。お、着いたぞ」
「にゃ? ここに来たかったにゃ?」
俺達が来たのは、図書館だった。王都に来る前、ヘベーラでとある人に教えてもらって、行きたかった場所だ。
「入るぞ」
扉を開けて中に入る。少し埃っぽく、薄暗い。インクの匂いが良い雰囲気をかもし出している。
「こんにちは。王都レベリウク図書館へようこそ」
そう言ってきたのは、司書らしきお姉さん。
「貸し出しですか? 調べ物ですか? それとも押し倒しますか?」
「いや、押し倒すってなんですか」
「え! 普通にドンッって」
「何を?」
「私を」
「嫌だ」
「え! 私は駄目なんですか?」
上目遣いでウルウルと見てくるが、この人が何でこんな事を言うかも、分からないが何か面倒な事が起こりそうだ。
「駄目。と言うか、何でそんな事を言うんだ?」
「聞いてくれますか? 聞いてくれますね。聞かないと恨みます」
こ、こえー。何なのこの人は。凄く恐いんだが。
「私の父は親バカで、娘は嫁にやらんなんて言うんです。私だって結婚したいんです。周りは結婚して私だけは独身。分かりますか! この気持ちが!」
「はいはい分かりません」
取り合えず、掴みかかってくるこの人に適当な事を言っておく。
「そうですよね。分かってくれ……あれ? まあいいや。そこで、もう既成事実を作ってしまおうといい感じの男に声を掛けてるのです」
「それなら、今までの人とさっさと結婚すればいいじゃないですか」
「それが、何故か誰も取り合ってくれないのです」
あー。分かった。あれでしょ。図書館の窓から凄い形相で睨んでくるあの男の人が父親でしょ。視線で人を殺せそうだよ。あんなのに睨まれたら誰も関わりたくないよ。
「じゃ! 俺は影ながら応援だけしておきます」
「うわーんまたふられた」
お姉さんの泣き声を尻目に、図書館の奥へと入っていった。
『縄抜けの方法十選』『簡単に貴族邸に忍び込む方法』『世界の犯罪者辞典』『世界一辛いシュナの粉』などがあり、少し怪しい本もあるが、取り合えず『世界に犯罪者辞典』は取っておこう。危険人物は知っておいたほうがいい。
「お! これは」
俺が手に取った本は、『吸血鬼について』と、言う本だ。
「……思えば、俺は吸血鬼についてあまり知らないな」
前世の記憶から大体は分かるが、知らない事の方が多い。
「これにしよう」
取り合えず、『世界に犯罪者辞典』と『吸血鬼について』を持って、椅子に座る。
まずは『世界に犯罪者辞典』から。
何々、もっとも危険な人物として挙げるなら“正体不明”でしょう。大きな事件として“清牙帝国の要人暗殺事件”“封印されし最高レベルの呪剣強奪事件”そして、最も有名な“オワリナ王国崩壊”が挙げられます。現在六つの最強盗賊団の一つにソロとして挙げられ、実力はSランク冒険者なみでしょう、っか
「凄い奴もいたもんだな」
えーと、もう一つが六大盗賊団でしょう。六つの最強盗賊団で、Aランクパーティまでもが壊滅している。『義賊ブレーメン』『百匹のカラス』『化け物屋敷』『死霊団』『絶影法団』『正体不明』には注意が必要。
「関わりたくないが、Sランク冒険者に成るなら関わる事になりそうだな」
「にゃ~」
ニャルカはあくびをしながら相づちをうってくる。
「次は『吸血鬼について』か」
吸血鬼。血を吸うことで生きていく種族。処女の血が好み。本物を吸血鬼は一〇〇〇年前の古代文明崩壊時に全滅し、今は血を受け継ぐ者が少数いる。この情報も、古代遺跡に描かれていたため、詳細は分からない。詳しい情報を求む。……か。
「にゃ! 吸血鬼にゃ。あれは闇の種族にゃ。関わらない方が良いにゃ」
「ん? 吸血鬼について知ってるのか」
「知ってのとおり、妖精族は長寿にゃ。族長とかは一〇〇〇年前の古代文明を知っているそうにゃ」
「ふーん。それで」
「我も詳しくは知らにゃいのだけど、真祖の吸血鬼は一体で一軍に匹敵したそうにゃ。それも古代文明崩壊で全滅したけど」
古代文明か。確か1000年前の文明だったはず。今の及ばない魔法技術を持っていたけど、一夜にして崩壊したそうだ。何故崩壊したかは、分かっていない。
「なあ、何故崩壊したのか知らないのか?」
「にゃー。族長も話したがらにゃいにゃ」
「そうか」
吸血鬼は全滅したのか。エルの他にも、血を受け継ぐ者は居るのかな。……それに、ここに書いてある一文は本当なのだろうか。




