第二十二話 剣聖
「うーん。今日も成果なしか」
俺は小豚亭のベットの上で呟く。時刻は夜の八時位。外は既に真っ暗だ。しかし、部屋の中だけは、この前買ってきた明かりを点ける魔道具で結構明るい。
「何が成果なしなの?」
隣のベットで、桜とボードゲームをしていたエルが聞いてきた。
「ああ。爆虫にスリ吉の事を探らしているんだけど、見つからないんだよ」
「難しいでござろう。爆虫は元々探知ではなく攻撃よりの能力でござるから」
ボードゲームをしていた桜も、話に参加してくる。
「そうなんだよな。何かスリ吉の持ち物が有れば、追跡型で追いかけられるんだけど」
「証拠も残さず誰も正体を知らないんでしょ。そんな人を捕まえるなんて難しいよ」
「そうなんだよなー。しょうがない。一人で見つけたかったけど、答えを聞こう」
「どう言う意味?」
「明日になれば分かる。俺は寝るからお前達も寝ろよ」
「分かったでござるよ。エル殿もう一勝負!」
「いいよ」
エルと桜がボードゲームで遊ぶ声を聞きながら、俺は眠りに落ちた。
◇
「あのお爺さんが!」
俺は小豚亭107号室で、エルと桜にスリ吉の捕まえかたを説明した。
「確かにあの人は普通ではない気がしたでござるが……」
「この宿屋のお爺さんなら、たぶん知っている」
小豚亭の宿屋の爺さんは、絶対に何かを知っている。
「どうしてそう思ったの?」
「あのお爺さんは、情報が入ったとか言ってたし、裏系統の事知ってたじゃん」
「でも、それはここで生きていく為の能力じゃないの?」
それもそうだ。路地裏で生きてるなら、そう言う事を知るのも大事なことだ。
「そうだな。俺も最初はそう思って特に気にとめてなかったんだが、2度目に取られたときに、お爺さんが少しヒントをくれたんだ」
「ひんと、でござるか」
「ああスリ吉は白い鉢巻きを巻いているとか。目つきが悪いとか。茶髪だとか」
「正体が不明と言われてるのに、結構なヒントだね」
「だろ。それを聞いて、爆虫にいろいろ探らせたが、足取りすら掴めないんだ。仕方ないし、お爺さんに知ってる事を聞こうと思って」
町には百匹近く放ったんだけどな。
「なるほど」
エルと桜が納得した所で、俺達は部屋を出る。そして下に行くと、お爺さんが掃除をしていた。
「おや。お客さんおはようございます」
「おはようございます。お爺さんに聞きたい事があるんですが……」
「ほう。なんでしょうか?」
「スリ吉を捕まえたいので、情報を下さい」
俺がそう言うと、お爺さんは右手を出してくる。
「これでいいですか?」
「……良いでしょう。スリ吉ですね。確か、昨日捕まったはずですよ」
「え? もう一度言ってください」
「昨日のお昼頃に捕まったはずですよ」
昨日のお昼と言えば満足亭で桜とご飯を食べた時だ。そんな事があったなんて。
「詳しく」
「昨日のお昼に満足亭という大衆食堂で、食い逃げをして捕まったそうです。衛兵が取り調べをした処、スリ吉だという事が分かったのです。今は留置場に居ますが、あと七日ほどで王都の刑務所に行くでしょう」
「じゃあ、俺の金は……」
「返ってきませんね」
何故だ。俺も昨日満足亭に居たのに。……一歩遅かったか。
「ふふふ。ありがとうございました。それでは」
俺はお金が返ってこない絶望と、今までの苦労を思いながら、小豚亭を出て行くのだった。
◇
「それで、お爺さんは何者ですか?」
バベルが出て行き、エルと桜とお爺さんだけが残った小豚亭。そこでエルはお爺さんに疑問をぶつける。
「……わたしは小豚亭の主で、ただの情報通ですよ」
お爺さんはしれっと答える。
「嘘はつかないでほしい。お爺さんの雰囲気は、可成りの強者だと分かるでござる。この雰囲気を出せるのは、月光国でも二人しか居ないでござるよ」
「……月光国ですか。その二人とは“殲滅将軍”と“剣豪”ですか?」
「知っているのでござるか?」
「ええ少し」
お爺さんは桜を興味深そうに見ながら答える。
「ふむ。もしかして貴方のお父上は栄一郎という名前ではありませんか?」
「父上を知っているのでござるか!?」
「桜ちゃんのお父さん?」
「……そうですか。あの人の娘さんなら、話しても良いでしょう。他言無用でお願いします」
お爺さんは、少し考えた後、話すことを決めたようだ。
「わたしのフルネームは、アーサー=スペル。この国の元騎士です」
「アーサー!」
エルは、アーサーという名前に驚く。
「アーサーといえばあの“剣聖”!」
「そう呼ばれていた時期もありました。まあ、今は引退した老騎士ですよ」
「剣聖が何でこんな所に……」
剣聖と呼ばれていたなら、お金は一杯有るだろうし、貴族なのだから老後も安泰なはずだ。
「……この国の腐敗を見てられなかったのですよ」
「腐敗?」
「ええ。この国は腐っています。この都市では分からないでしょうが、王都に行けば分かります。今代の王は筋金入りの馬鹿です」
「ば、馬鹿」
騎士が王をそう呼ぶなどあってはならない。しかし剣聖と呼ばれ、英雄騎士がそう言うのなら、どれだけの王なのか分かるだろう。
「他にも貴族の横暴などが目立ちます。特に今代の公爵家は……。これでも国が保っているのは優秀な宰相のおかげでしょう。もし良い胃薬が有ったら紹介してください。彼に渡しますので」
「はあ」
エル達はジョークだと思ったが、アーサーは真剣に良い胃薬を探してそうだ。
「話を戻します。今の王を見ている事が出来ず、引退してこの宿を経営しながらひっそり暮らしているのですよ」
「そうですか。この国でそんな事が……」
「ですが、悲観する事ばかりではありません」
「え!」
「わたしはこの国の第一王女、エリミナ様に期待しています」
「エリミナでござるか」
いきなり王族を呼び捨てにするのも、桜クオリティーだろうか。
「5年前に奴隷制度があった事はご存じですか?」
「あ、はい」
エルはずっと村に居たためあまり聞かなかったが、5年前に奴隷制度が廃止された事は知っていた。
「異種族を奴隷にするという物だったのです。この国に異種族が少ない原因でしょうね。それで、それを廃止したのがエリミナ様です」
「おーエリミナは凄いでござるな」
「あの、王族の方なので呼び捨ては……」
「ならエリミナちゃんでござる」
王族をちゃん付け出来るのも桜だからだろう。
「もう良いですよ。……この国を立て直せるのはエリミナ様だけでしょう。民からの支持は高いですが貴族の人気は今一なので難しいですが……」
「そうですか。そんな事が……」
「国の未来はあの方に掛かっています。……お客さん栄一郎さんに会ったらよろしくお伝えください」
「はい」
アーサーの話を聞いたあと、エルと桜も小豚亭を出るのだった。
エル「なんで、剣聖なんて最強の護衛が居るのに、盗みとかがあるんですか?」
アーサー「もちろん私はほおって置いてるのでね」
エル「なんで!」
アーサー「もちろん面白いからに決まってるでしょう」
アーサーもこっち側の人だったか。




