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爆虫の召喚士  作者: 天野 雪人
第三章 イレギュラー編
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第二十二話 剣聖

「うーん。今日も成果なしか」


 俺は小豚亭のベットの上で呟く。時刻は夜の八時位。外は既に真っ暗だ。しかし、部屋の中だけは、この前買ってきた明かりを点ける魔道具で結構明るい。


「何が成果なしなの?」


 隣のベットで、桜とボードゲームをしていたエルが聞いてきた。


「ああ。爆虫にスリ吉の事を探らしているんだけど、見つからないんだよ」

「難しいでござろう。爆虫は元々探知ではなく攻撃よりの能力でござるから」


 ボードゲームをしていた桜も、話に参加してくる。


「そうなんだよな。何かスリ吉の持ち物が有れば、追跡型で追いかけられるんだけど」

「証拠も残さず誰も正体を知らないんでしょ。そんな人を捕まえるなんて難しいよ」

「そうなんだよなー。しょうがない。一人で見つけたかったけど、答えを聞こう」

「どう言う意味?」

「明日になれば分かる。俺は寝るからお前達も寝ろよ」

「分かったでござるよ。エル殿もう一勝負!」

「いいよ」


 エルと桜がボードゲームで遊ぶ声を聞きながら、俺は眠りに落ちた。



 ◇



「あのお爺さんが!」


 俺は小豚亭107号室で、エルと桜にスリ吉の捕まえかたを説明した。


「確かにあの人は普通ではない気がしたでござるが……」

「この宿屋のお爺さんなら、たぶん知っている」


 小豚亭の宿屋の爺さんは、絶対に何かを知っている。


「どうしてそう思ったの?」

「あのお爺さんは、情報が入ったとか言ってたし、裏系統の事知ってたじゃん」

「でも、それはここで生きていく為の能力じゃないの?」


 それもそうだ。路地裏で生きてるなら、そう言う事を知るのも大事なことだ。


「そうだな。俺も最初はそう思って特に気にとめてなかったんだが、2度目に取られたときに、お爺さんが少しヒントをくれたんだ」

「ひんと、でござるか」

「ああスリ吉は白い鉢巻きを巻いているとか。目つきが悪いとか。茶髪だとか」

「正体が不明と言われてるのに、結構なヒントだね」

「だろ。それを聞いて、爆虫にいろいろ探らせたが、足取りすら掴めないんだ。仕方ないし、お爺さんに知ってる事を聞こうと思って」


 町には百匹近く放ったんだけどな。


「なるほど」


 エルと桜が納得した所で、俺達は部屋を出る。そして下に行くと、お爺さんが掃除をしていた。


「おや。お客さんおはようございます」

「おはようございます。お爺さんに聞きたい事があるんですが……」

「ほう。なんでしょうか?」

「スリ吉を捕まえたいので、情報を下さい」


 俺がそう言うと、お爺さんは右手を出してくる。


「これでいいですか?」

「……良いでしょう。スリ吉ですね。確か、昨日捕まったはずですよ」

「え? もう一度言ってください」

「昨日のお昼頃に捕まったはずですよ」


 昨日のお昼と言えば満足亭で桜とご飯を食べた時だ。そんな事があったなんて。


「詳しく」

「昨日のお昼に満足亭という大衆食堂で、食い逃げをして捕まったそうです。衛兵が取り調べをした処、スリ吉だという事が分かったのです。今は留置場に居ますが、あと七日ほどで王都の刑務所に行くでしょう」

「じゃあ、俺の金は……」

「返ってきませんね」


 何故だ。俺も昨日満足亭に居たのに。……一歩遅かったか。


「ふふふ。ありがとうございました。それでは」


 俺はお金が返ってこない絶望と、今までの苦労を思いながら、小豚亭を出て行くのだった。



 ◇



「それで、お爺さんは何者ですか?」


 バベルが出て行き、エルと桜とお爺さんだけが残った小豚亭。そこでエルはお爺さんに疑問をぶつける。


「……わたしは小豚亭の主で、ただの情報通ですよ」


 お爺さんはしれっと答える。


「嘘はつかないでほしい。お爺さんの雰囲気は、可成りの強者だと分かるでござる。この雰囲気を出せるのは、月光国でも二人しか居ないでござるよ」

「……月光国ですか。その二人とは“殲滅将軍”と“剣豪”ですか?」

「知っているのでござるか?」

「ええ少し」


 お爺さんは桜を興味深そうに見ながら答える。


「ふむ。もしかして貴方のお父上は栄一郎という名前ではありませんか?」

「父上を知っているのでござるか!?」

「桜ちゃんのお父さん?」

「……そうですか。あの人の娘さんなら、話しても良いでしょう。他言無用でお願いします」


 お爺さんは、少し考えた後、話すことを決めたようだ。


「わたしのフルネームは、アーサー=スペル。この国の元騎士です」

「アーサー!」


 エルは、アーサーという名前に驚く。


「アーサーといえばあの“剣聖”!」

「そう呼ばれていた時期もありました。まあ、今は引退した老騎士ですよ」

「剣聖が何でこんな所に……」


 剣聖と呼ばれていたなら、お金は一杯有るだろうし、貴族なのだから老後も安泰なはずだ。


「……この国の腐敗を見てられなかったのですよ」

「腐敗?」

「ええ。この国は腐っています。この都市では分からないでしょうが、王都に行けば分かります。今代の王は筋金入りの馬鹿です」

「ば、馬鹿」


 騎士が王をそう呼ぶなどあってはならない。しかし剣聖と呼ばれ、英雄騎士がそう言うのなら、どれだけの王なのか分かるだろう。


「他にも貴族の横暴などが目立ちます。特に今代の公爵家は……。これでも国が保っているのは優秀な宰相のおかげでしょう。もし良い胃薬が有ったら紹介してください。彼に渡しますので」

「はあ」


 エル達はジョークだと思ったが、アーサーは真剣に良い胃薬を探してそうだ。


「話を戻します。今の王を見ている事が出来ず、引退してこの宿を経営しながらひっそり暮らしているのですよ」

「そうですか。この国でそんな事が……」

「ですが、悲観する事ばかりではありません」

「え!」

「わたしはこの国の第一王女、エリミナ様に期待しています」

「エリミナでござるか」


 いきなり王族を呼び捨てにするのも、桜クオリティーだろうか。


「5年前に奴隷制度があった事はご存じですか?」

「あ、はい」


 エルはずっと村に居たためあまり聞かなかったが、5年前に奴隷制度が廃止された事は知っていた。


「異種族を奴隷にするという物だったのです。この国に異種族が少ない原因でしょうね。それで、それを廃止したのがエリミナ様です」

「おーエリミナは凄いでござるな」

「あの、王族の方なので呼び捨ては……」

「ならエリミナちゃんでござる」


 王族をちゃん付け出来るのも桜だからだろう。


「もう良いですよ。……この国を立て直せるのはエリミナ様だけでしょう。民からの支持は高いですが貴族の人気は今一なので難しいですが……」

「そうですか。そんな事が……」

「国の未来はあの方に掛かっています。……お客さん栄一郎さんに会ったらよろしくお伝えください」

「はい」


 アーサーの話を聞いたあと、エルと桜も小豚亭を出るのだった。

エル「なんで、剣聖なんて最強の護衛が居るのに、盗みとかがあるんですか?」

アーサー「もちろん私はほおって置いてるのでね」

エル「なんで!」

アーサー「もちろん面白いからに決まってるでしょう」


アーサーもこっち側の人だったか。

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