第二十一話 満足亭
俺は今、農工都市から南に行った所に在る森に来ていた。
「さて、ここら辺で良いかな。『爆虫の図鑑』」
そう、新しく追加された最後の爆虫を見る為だ。最後の一匹は、名前からして外で召喚した方が良いと思い、ここまでやって来た。
「……誰も居ないな。サモン『爆虫(大型)』」
誰も居ない事を確認して、そう唱える。すると、俺の目の前に全長1mほど、黒色で、丸鍋をひっくり返した様なフォルムの爆虫が召喚された。
「でかいな。これほどの爆虫だと爆発したらどうなるんだろう」
矢っ張り大型は、魔力100消費と可成り使う。あまりホイホイ召喚はできない。
「……ん? 待てよ。これ位大きければ乗れるんじゃないかな」
全長1mの爆虫の背中は少し丸いが、乗れない訳じゃない。
「……試してみるか。――よいしょ」
試しに爆虫に乗ってみる。この爆虫は羽が付いておらず、魔力か何かで浮かんでいるし、乗るときには地面に下りてくれたので、結構楽に乗れた
「お、これは良いな。ロープを付けて、手綱代わりにしよう」
手持ちの物をいろいろ付けて、爆虫の乗り物が完成した。
「良し、名付けて爆虫戦艦一号くろまめだ。くろまめ! ヘベーラに迎えー」
俺がそう命令すると、くろまめがヘベーラに向かって飛んで行った。
その時俺は分からなかった。くろまめが、他の爆虫と違い、知性ある瞳を宿していた事を。
◇
「通してくれませんか」
「そんな怪しい乗り物を通すことは出来ないよ……」
「そこを何とか」
「馬なら兎も角、大きな虫はちょっと無理だね」
俺は門の前で、衛兵と押し問答をしていた。
「……これは馬です」
「それで納得するのは無理だよ!」
「ほら、全ての乗り物は馬に通ずるとか言いませんか」
「言わないから! 誰も言ってないから!」
「そもそも馬の定義とは……」
「ちょっと哲学っぽく言っても通せないよ!」
「馬はうまい」
「それ今関係ないよね! しかも寒いし」
これ位でふざけるのは止めにしとこう。
「こいつは、ユニークスキルで召喚した物ですから大丈夫ですよ」
「はあはあ。そ、そうかな?」
「衛兵さん。何か疲れていませんか?」
「この疲れの9割は君が原因だから!」
「9割の責任が俺なら、残り1割は貴方の責任です」
「うわー。殴りたい。凄く殴りたい!」
この門番さんは何に対して怒ってるんだろう。
「後ろもつっかえてるし、早く通してください」
「君が変な物に乗ってるからだよ! はあー、それで。危険はないのかな?」
「ありません! 俺が命じない限り……」
俺が命じたらその限りではないが。
「自分が連れて来たペットや召喚獣が問題を起こしたら、飼い主の責任だからね」
「分かりました。聞きたい事があるんですが、召喚系のユニークスキル持ちは、町に入るのにこんなに苦労するんですか?」
「それはないよ。あまりにも怪しい物や、でかすぎるもの以外は」
「うちのくろまめは怪しくもありませんし、丁度良い大きさですよ」
「それを言えるのは君だけだよ。と、言うかくろまめ?」
「ああ。この子の名前です」
「君、ネーミングセンスないね」
「ぐは!」
その衛兵さんの言葉は、俺の心にクリティカルした。
◇
「お、ここの飯屋は美味しそうだな」
俺は爆虫に乗りながら、町を観光していた。道行く人が俺をガン見したりする以外は、特に何事もなく、お昼の時間帯になった。
「ここにするか」
「す、すみません。お客さん」
「ん?」
店の扉を開けようとしたら、店員らしき女性が話しかけてくる。
「なんですか?」
「あのー。そういうペットはお客さんが寄りつかなく為りそうですので、ご遠慮ください」
「え!」
……確かにくろまめは人によっては食欲がなくなるかもしれない。だけど一度召喚すると戻せないんだよな。
「プー。プー」
少し困っていると、くろまめが、鳴きながら俺の手を突いてくる。
「何だ? 爆虫は鳴かないはず何だけどなー」
「プープー」
くろまめはその次に、自分を示した。
「手とくろまめ? ……もしかして! 『爆虫の図鑑』」
「プープー」
爆虫の図鑑を出すと、くろまめが本に近づく。
「プッウー」
くろまめは、助走をつける。そして、本に飛びつき、そのまま吸いこまれていった。
「くろまめ!?」
慌てて、本を開く。すると、八ページ目に新しく何か描いてあった。
そこには、名前くろまめ。召喚魔力なし。などと描かれており、付いていた装飾品も描かれたくろまめのイラストがあった。
「……こんな機能はしらないな。何が条件なんだろう。そうだ。これで入っても良いですか?」
「は、はい。ごゆっくり~」
店員さんの許可が出た処で、中に入る。中を見ても、至って普通の大衆食堂だ。だけど、この肉を焼く匂いが、食欲をそそる。
「ん? あいつは桜」
店を見渡してると、奥のテーブルに、桜が居た。取り合えず、桜の元まで行く。
「なあ、桜」
「ん? あれ、主殿ではござらぬか。ご飯を食べに来たでござるか?」
「そうだが」
「主殿も一緒に食べようではござらぬか」
「良いけど。おごらないぞ」
「ガーン」
そんな話をしながら、桜の反対側に座る。
「せっしゃのおすすめは、鶏肉のしちゅーと春野菜さらだのせっとでござる」
「じゃあ、それで。すみませーん」
「はい、注文ですか?」
「鶏肉のシチューと春野菜サラダのセットを」
「せっしゃはめにゅーのここからここまで全部でござる」
桜がいきなりぶっ込んできた!
「そ、そんなに」
「食べきれるでござるから」
「か、かしこまりました~」
店員さんめっちゃ困っていたぞ。
「なあ、桜。このペースで食べて、金は大丈夫なのか?」
「これ位じゃないと、お腹いっぱいにならないでござるよ。それにここは安くて美味しい、大丈夫でござるよ」
「そうか。泣きついてきても、金は貸さないぞ」
「そんな事はないでござるよ」
店内を見渡すと、既に店は満席だった。俺が入った時には空いていた席も既に埋まっており、外を見るともう数名ほど並んでおり、ここが人気の店だと分かる。
桜と会話をしながら、待つ事数分。店員さんが注文していた料理を持って来た。
「お待たせしました~。鶏肉のシチューと春野菜サラダのセットです」
「おいしそうだな。じゃあ、先にいただくぞ」
「いいでござるよ」
「いただきます」
鶏肉のシチューが、良い香りをたてている。スプーンでシチュー掬い、一口食べる。
「……美味い!」
とろける様なシチューに、柔らかく煮込まれた人参やジャガイモが絡み合い、と口の中で崩れていく。そして、このシチューの主役の鶏肉は、ハーブの香りがして、臭みがない。ハーブの良い香りが鶏肉の味を引き立たせている。
……次はパンも食べよう。
パンを二つに割ると、中からふわふわとしたパン生地が顔をだす
「どれ」
パンを一口食べてみる。
……柔らかい。フワフワとしたパンにほんのりとバターの香りがする。
「このパンは美味いな」
「そうでござろう。そのパンを目当てに貴族が来店した事もあると、聞いたでござるよ」
「そうなのか」
桜は既に五枚の皿を積み重ねてたりしたが、今は食事に集中しよう。
次にサラダ。春キャベツに新ジャガ。キヌサヤにトマトといった春に農工都市で採れる野菜を使ったサラダだ。
「どれ」
ジャク。……美味い! 新鮮な野菜の食感。それに、甘いトマトがとても美味しい。それに、このサラダを引き立ててるのは、上にかかっているドレッシングだ。少し酸味と甘みがあるドレッシングはサラダとマッチし、美味さを引き立てている。採れたてをそのまま使えるのは農工都市だからだろう。
そして、残っているパンをシチューに浸け、食べる。
……美味すぎた。このふわふわとしたパンにシチューがしみこみ、いくらでも食べられる。
「ふう。美味かった。ごちそうさま」
「せっしゃもごちそうさま」
ふと桜を見ると、一五枚ほど皿を積み重ねていた。
「一杯食べたな」
「もっと食べたいのでござるが、これ以上は予算の都合で……」
まだ食べられるのかよ! そう心の中でツッコんだ俺は悪くない。本人は15歳と言っているが、14、いや、13歳でも通じる体の何処にあの量が消えていくのだろうか。
「ふう。じゃあ、行くでござるか」
「そうだなー」
会計を済ませて、店を出る。外にはまだ並んでいる客が居るが、どの顔を見てもこの匂いだけで、何時間でも立っていそうだ。
「満足亭か。覚えておこう」
それにしても、何であんなに安いんだろう。あのセットで大銅貨一枚と銅貨二十枚は安いと思う。桜も全部で銀貨一三枚位だったし。あれならもっと高くても客はくる。
「じゃあ。せっしゃは行く所があるのでこれで失礼するでござる」
桜はそう言って、路地裏に消えていった。
「俺も行くか。サモン『くろまめ』」
そうすると。様々な装飾品を付けた、くろまめが現れた。
「じゃあ。くろまめ。町を観光だ」
「プープー」
俺は、くろまめに乗って。町に繰り出すのだった。
余談だが。今日だけで三回ほど、衛兵に声を掛けられ、そのたびネーミングセンスがないと言われたりした。解せぬ。
門番=ツッコミ役だと思う。




