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爆虫の召喚士  作者: 天野 雪人
第三章 イレギュラー編
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第二十三話 イレギュラー

「ドギャアアアア!」


 とある森の奥深く。一匹の大蜘蛛ビックスパイダーが、悲鳴を上げていた。

 何かが自分に取り憑いて、体を破壊し、変化させる。それが途方もなく気持ち悪い。


 大蜘蛛は、十分間悲鳴を上げ続けた末に、終に変化が終了した。黒だった色は赤に変わり。体も一回りほど大きく為る。そして、能力を手に入れ、パワーアップ果たした。

 しかし、それと引き替えに、思考を何かに支配されて何かを壊したくて仕方がない。


「キシャ」


 南西の方向に人の気配を感じ取ったのか、顔を向ける。


「キシャシャシャシャー!」


 獲物に狙いを定めた大蜘蛛は、南西に。“農工都市ヘベーラ”に向かって歩み出した。



 ◇



 スリ吉が捕まったと聞いてから一ヶ月が経過した。俺達はあれから何事もなく、Dランクの依頼を達成する日常が続いている。

 そんな日常のある日、俺達はギルドの酒場で料理を注文し、会議を開いていた。


「他の宿に移るか」

「いや、ここは貯金だよ」

「ご飯を一杯食べるでござる」


 そう、あれからお金もまあまあ貯まり、その使い道を相談しているのだ。


「宿は小豚亭で良いでしょ?」

「うーん。じゃあ必要な冒険者用品を買って貯金かな?」

「ご飯でござるよ」

「それで良いと思う」


 お金の使い道が決まった所で、野菜炒めを注文する。


「矢っ張りご飯でござろう」

「いや、お前は既に一杯食ってるだろ!」

「もっと食べられるでござるよ」

「一体いくら入るんだ。俺達が貯金してるのは、八割方お前の食費だぞ! この、超人(脳筋)やろー!」

「ガーン」


 桜がショックを受けてるが、多分すぐ復活する。


「あ、これは美味しいでござるよ!」


 ほら、復活した。

 桜は既に皿を二十枚積み重ねているが、ここは冒険者ギルドの酒場なので、安い。しかも農工都市というだけあり、野菜中心のメニューが多く、どれも銅貨二十枚とお手頃だ。


 そんな何時もの冒険者ギルドに、一人の冒険者が飛び込んできた。


「大変だー! はあはあ」

「どうしたんだい?」


 その冒険者に、買い取り受付の筋肉のおっさんが声をかける。


「はあはあ。イレギュラーが出現した!」

「な!」


 その冒険者の一言に、筋肉のおっさんも。他の冒険者も言葉を失う。


「何のイレギュラーだ!」


 筋肉のおっさんも声を荒げて叫ぶ。


「遠くから見ただけだから分からないが、多分、大蜘蛛ビックスパイダーだ!」

「大蜘蛛か……Dランクだが何ランク上がったんだ……」


 俺は隣で唖然としているエルに聞く。


「なあ、イレギュラーってなんだ?」

「……バベル君本気で言ってるの?」

「ああ」

「ギアルさんも言ってたじゃんイレギュラーには気をつけろって」

「言ってたっけ?」


 俺は記憶を辿るが、思い出せない。


「はあ。イレギュラーってのは普通の魔物の突然変異と言われている物だよ」

「もぐもぐ、突然変異でござるか?」


 この話に桜も食い付いてくる。


「イレギュラーに成ると、色が変わり、強化されたステータスと何か一つ特殊能力と引き替えに、破壊しか考えなくなる魔物に変わるんだよ」

「それは……」


 それはもう別の魔物じゃないか?


「そもそもいれぎゅらーとは何でござるか?」

「分からないんだよ。何故イレギュラーに成るかは。誰も見たことがないないからね」


 そういう物は誰かが見てそうなんだけどな。


「それで、イレギュラーはどれ位強いんだ?」

「うーん普通の魔物の二つ三つほど上のランクと考えればいいかな? 有名な話だと、隣国のエンシャル帝国に現れた地面人形アースゴーレムは町を三つ破壊し、帝国の一軍を壊滅させたとか」

「地面人形って確かCランクだろ? そこまで強くなるのか」


 普通の地面人形アースゴーレムは、Cランク冒険者のパーティでも居れば、楽に討伐出来る程度だ。


「いや。普通はそこまで強く無いよ。この地面人形は地面を吸収して復活し続けるような能力を持ってたから、倒しきれなかっただけだよ」

「いや、それどうやって倒したんだよ」

「それはねー、帝国のSランク冒険者“大切断”と“迷宮王”が合同討伐したそうだよ」


 なるほど、Sランク冒険者には敵わなかったと見るか。Sランク冒険者が出動する事態になった事に驚くか……。


「そんなのが近くに現れたのか」

「実は、イレギュラーにはもう一つ特性があるんだよ!」

「他にもあるのか」

「うん。今度は嬉しい特性なんだけど、イレギュラー討伐は、ユニークスキルのLVが上がりやすいんだ。ウルルさんもこれでLV10に成りSランクに上がったらしいから」

「それは嬉しいな」


 ユニークスキルのLVは最高10だ。ここまで到達出来た者は世界中でも二桁ほどしか存在しない。そもそもLVが上がる条件もまだ解明されてない。分かることは、LV4からは上がりにくくなるという事位だ。


「でしょ。まあ、欲をかいた低ランク冒険者はすぐに死ぬけど」

「大変そうだな。でも多分Bランクの依頼だろ、俺達には関係ない」

「そうだねー。ん? 桜ちゃんどうしたのさっきからボーっとしてるけど……」

「ん? ああ、エル殿。何でもないでござる」


 今日はそんなこんなで一旦お開きに為った。イレギュラーの討伐なんて多分Bランクの依頼に為るだろう。もしかしたら緊急依頼に為るかもしれない。そんな事を考えながら、くろまめに乗り、冒険者ギルドを後にした。

店員A「メニューの端から端まで二個づつ追加でーす!」

料理人「ヒー。あの冒険者の少女はいくら食べるんだー!」

店員A「……我々は、嵐が過ぎ去るのを待つしかないんだ」

料理人「クッ、それしかないのか」

店員B「オーダーはいりまーす。今度は野菜炒めを十皿!」

料理人「またかよ! 嵐よ早くすぎさってくれー!」


冒険者ギルド酒場の厨房で、そんな会話があったとかなかったとか。

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