第百五十一話 爆虫の召喚士
空を走る。爆虫を設置し、それを蹴って、空を走る。マモンと同化した俺は、小さな虫を踏んで跳ぶことが出来た。
――マモン、目標は?
――あと百メートル。奴も気づいているぞ。
無双進撃はじっと俺を見つめている。そして、強化された俺の視力はさまざまなものをとらえた。
無双進撃の横にたたずむボロボロのロボット。その横で満身創痍で倒れているフウタさん。傷だらけの宇宙亀とベゴさんと桜。そして三人を治療するエルとニャルカ。その手は震えている。
――バベル。
――ああ。
無双進撃は空を走ってくる俺に向かって、自分の身体を剣に変形させて攻撃してくる。それはあまりに単調な攻撃。すぐそれを避け、足下に爆虫を召喚してそれを踏み、無双進撃へと向かう。
――やるぞ!
――分かった。
俺は爆虫の図鑑を開いてくろまめを召喚し、その上に立つ。
「サモン『爆虫』ミックス!」
俺の周囲からさまざまな爆虫が現れる。小さいのから大きいの。飛べるやつから飛べないやつ。弱いやつから強いやつ。すべての種類の爆虫を、ただ大量にだした。その数累計千以上。虫嫌いが見れば気絶するような光景だ。
「ほんと凄いなLV10の必殺スキルというのは」
俺が使っているのはLV10で手に入れた必殺スキル、『無限召喚』。それは魔力を使用せず好きなだけ爆虫を召喚出来るというもの。『無限召喚』の効果で、爆虫は好きなだけ召喚出来る。
「いけっ!」
爆虫は一斉に飛んだ。飛べないやつは飛べるやつに運んでもらい、数千の爆虫は無双進撃へと突撃する。
「ゴアアアアアアアアアア!」
「これでどうだ『連鎖爆破』!」
無双進撃の身体に群がり、張り付いた爆虫は一斉に爆発する。その爆発力は連鎖爆破で強化され、とてつもない威力となる。
「ああ。……駄目か」
それでもやはり二つ名持ちは越えられない。ただ、少し傷付けただけ。その傷も、みるみるうちに塞がっていく。
「挑戦のつもりだったんだがな。……やるか。必殺スキル『爆虫王召喚』!」
それは最強の爆虫を完全な姿で召喚する。でかぽんのように不完全ではなく、完璧な、爆虫の王を召喚した。
俺自身もびびる。その大きさにだ。
「でかすぎだろ」
召喚された爆虫の王は、無双進撃の頭上に居た。その巨体は無双進撃を越え、空をその体で埋め尽くしている。その姿はまさに王と呼べる。
「キシキシ」
その声は天から聞こえた。間違い無く爆虫の王が発した。
「キシシ。gj」
「……お前か。お前が、爆虫の王だったのか」
爆虫の王の声は知っていた。化け物屋敷との戦いで出てきた普通とは違う爆虫。あの時の爆虫は王だったのだろう。爆虫の王が助けてくれた。
「ゴアアアアアアア!」
突如頭上に現れた爆虫王を無双進撃が放っておくはずがない。身体を剣に変えて、その腹を攻撃する。が、爆虫王には傷一つついていなかった。
無双進撃は連続攻撃をたたき込むが、爆虫王はキシキシと笑っている。さっきまで俺達を苦しめていた二つ名持ちの姿はない。今あるのは、さらに強大な存在を前にして焦るスライムだ。
「ゴアアアアアア!」
「キシシ」
無双進撃は自身の体のほとんどを使い、巨大な剣を作り出す。それを天に掲げた。多分無双進撃はそれを頭上に居る爆虫王に突き刺すつもりなのだろう。先ほどよりさらに巨大で作り込まれた剣を見ると、爆虫王も無傷ではすまない気がするが、どうにも不安はない。
「ガアアアアアアア!」
無双進撃は剣を天に居る爆虫王に向かっておもいっきり突き刺した。だが、やはりと言うか、爆虫王の腹に傷はなく、剣は刺さる事なく受け止められている。
「キシシ」
爆虫の王は笑っていた。小物を見る眼で無双進撃を見ながら。
「爆虫の王。そろそろ終わらせよう」
「キシシ。ac」
「サモン『爆虫』」
俺はもう一度爆虫を召喚する。さまざまな種類の爆虫を万と。召喚された万の爆虫は王にかしずく。
「キシ。gb」
爆虫王は俺にそう言うと、無双進撃に向かってゆっくりと下りていく。爆虫達も王を追って、一緒に行く。
無双進撃は、下りてくる爆虫王に攻撃するが、なんの意味もない。
「キシシシシシシシシ!」
爆虫の王と爆虫達は一斉に爆発する。それは優しい爆発。爆虫王と爆虫達は、【無双進撃 スライムゴッド】だけを静かに消滅させ、消えていった。そこには変わらず平原が存在している。まるでさっきの戦闘がなかったかのような平和な平原が。
◇
爆虫王が爆発した時、世界の強者達は一斉に同じ方向を向いたという。もちろんその方向は爆虫王が爆発した方向。
桜は見た。最強になるために最後に越えなければいけない壁を。
エルは見た。過去の自分すら越える怪物を。それを制御する仲間を。
ニャルカは見た。鳥肌がたつようなワクワクする光景を。
古代竜王は感じた。自身を越える怪物の誕生を。
海王は知った。弱者が怪物を制御するという事実を。
暴牛はワクワクした。自分に挑みに来るであろう強者の気配を感じて。
真の強者達達は知った。本当のユニークスキルを持つ者を。
神は十万年ぶりに笑った。1000年ごとに来る災厄を始めて撃破出来て。
世界は呪縛から解き放たれた。何者かが掛けた呪縛から。
そして人々は知るであろう。自分達を助けてくれた英雄の名を。その者は人々にこう呼ばれた。『爆虫の召喚士』と――
次回、エピローグ




