第百五十話 女神様と王の力
「どうぞ、その椅子に座ってください」
「あ、はい」
いろいろ疑問があるが、とりあえず女性の言うとおり空いていた二つの椅子に俺とマモンは腰掛ける。
「どうぞ、お茶です」
「うおっ!」
突如机から中にお茶の入ったティーカップが生えてくる。そう、出現したとかではなく、木製の机からティーカップが生えてきた。
「さて、あなた達も疑問がつきないでしょう。ここはどこなのか? 私は誰なのか? ですね」
「そ、そうです」
混乱する俺をよそに、マモンは机からはえてきた怪しいお茶を臆せずグイっと飲む。
「とりあえず二つの説明をしましょう。ここは死後の世界、の手前です。そして私は神です」
「……なるほど」
整理のつかない俺の代わりにマモンがそう言う。そもそも、ここが死後の世界の手前だとすると、俺はこれからどうなるのだろうか。そして目の前の女性。なるほど。神といわれても納得出来る美貌だ。
「質問していいか?」
「ご自由に」
俺が頭で話しを整理していると、マモンが自称神様に質問する。
「私達はどうなる?」
「あなた達はまだ死んだとはいえません。私の一存で生き返る事もありえます。完全に死んだら生き返るのは不可能ですが」
「私達はなぜ死んだ?」
「あのスライムに殺されたようです」
「お前は本当に神なのか?」
「ええ。女神といえます」
ふむ。女神様の話を整理すると、俺達は無双進撃に殺されたが、まだ完全には死んでおらず、女神様なら生き返らせる事が出来る、か。自称女神様の言っている事が本当ならばだけど。
「……お前は私達になにをさせる気だ?」
マモンが油断無き鋭い目つきをしながら女神様に聞く。
「……災厄の討伐。つまり、あなた達には【無双進撃 スライムゴッド】を討伐してもらいたい」
「「…………」」
この女神様はなにを言っているのだろう。俺達が無双進撃になにも出来ずに負けたのを知らないわけではあるまい。
「私は、あなたになら倒せると思っていますよ。バベルさん。いや、八谷爆也さん」
「っ!」
それは俺の前世の名。俺以外知らないはず。エルにも、桜にも、ニャルカにも、マモンにも言った事のない俺の前世の名。目の前の女性が知っているということは、本当に女神なのだろうか。
「なぜ、私達に倒して貰いたいのだ?」
「……あの世界の人類は、1000年ごとに滅びます。それは自然災害だったり、強大な魔物の攻撃だったり。かならず死に絶え、文明は破壊されます。わずかに残った人々がまた一から文明を築き、また破壊される」
……千年前、古代魔法文明よりさらに昔の事なんて俺は知らないから、事実は確認出来ない。しかし、神様ならとめられるんじゃないかな。
「なぜか人類は1000年ごとに滅ぶ。私もとめようとしましたが、神が世界に介入しすぎると世界のバランスが壊れる恐れがあるため、人類の全滅を止める事は出来ません」
「なるほど」
神は世界というものにあまり介入出来ないか。
「千年周期で私を信仰している人々が死ぬのを見るのは辛かった。なので、私は対策しました」
「対策?」
「ええ。私はユニークスキルを授ける神です」
「へえ」
そういえばユニークスキルって神様が授けてくれるんだよな。教会でやったし。
「そこで、王の力というものを人々に授けました。王の力とは、特別なユニークスキルです。必殺スキルを越える、奥義スキルを発動出来る特別なユニークスキル……」
「奥義スキルですか?」
「ええ。奥義スキルとは必殺スキルの組み合わせです。必殺スキルが単体では使えなくなる代わりに、二つ揃うと絶大な効果を発揮する」
「っまさか」
俺は必殺スキルを使えなかった。そして女神様の説明からすると……。
「あなたが王の力を持つ存在。王の力とはユニークスキルがLV10になって始めて真価を発揮します。バベルさんも、LV10になれば使えるようになります。必殺スキルを越えた奥義スキルを」
「「…………」」
絶句。ただそれだけ。いきなり変な廊下にとばされたと思ったら、女神様が出てきてお前はものすごい力を持っていると言われたのだ。混乱するしかない。
「まあ、あなたはもともとあの世界に来る予定はなかった」
「え?」
「私は、王の力を夜月菖蒲という者に渡しました」
「え!」
また驚く。夜月菖蒲。それは桜の姉の名だ。桜が十歳のころ死んだ姉の名。
「しかし、過ちを犯してしまった。その者の運命を見ると、十五歳で死ぬ予定でした。それを知ったのは王の力を授けた後。王の力とは絶大な力をほこりますが、それは世界のバランスを壊すギリギリ。千年に一度だけしか授けられません」
なるほど。桜の姉は死に、あと千年経たなければ王の力を授けられない。しかし千年待っていたら人々はもう一度死に絶える。なんとも絶望的な状況だ。
「千年待てばいい。しかし、私は千年待てなかった。なにか手はないか考えていた時、あなたの魂を見つけました。私が授けた訳でもないのに、王の力を持つ。あなたを」
「…………」
俺を転生させたのは女神様だったのか。それに、俺の持つ王の力。もともと俺は凄い力を持っていたといわれても、前世では特に何かが得意だったわけじゃないし、正直まだ状況が飲み込めていない。
「私は転生させました。最後の希望をたくして、あなたを」
「なるほど。分かりました」
俺はもともと王の力というものを持っていた。そして、死んだ俺の魂を見つけた女神様が、俺を転生させたと。……はあ。いくら整理しようが、まだ俺の頭は混乱している。今の話を一瞬でのみこむ者なんて天才しかおるまい。
「バベルに、王の力とやらをつかって倒して欲しいのだな? 無双進撃を」
「ええ。そうです」
俺にとても凄い力があり、それを使えばあの化け物に勝てると言われても正直ピンとこない。というか恐い。
「それを拒否すれば?」
「私は泣いてあなた達は完全に死にます」
神様でも泣くのか。受け入れなければ俺は死ぬ。受けいれたら生き返れるが、無双進撃を倒さなければならない。
「俺が倒さないと世界はどうなるんだ?」
「人々は死に、また一から始まります」
人々は死ぬという事は、エル達も死ぬのだろうか。あんな化け物のすぐ近くにいたら真っ先に死ぬ対象なのかもしれない。
「やる」
「……受け入れてくれますか?」
「ああ。あそこには仲間が居る。家族が居る。友達も居る。どうせもう二回死んだ。俺がやらなかったから仲間が、家族が、友達が死ぬのは嫌だ」
桜は心の枷を破壊して、エルを助けてくれた。俺も、俺が仲間を助けられるならやろう。無双進撃という二つ名持ちを倒す。
「ありがとうございます」
「マモン? 良いか?」
「私も生き返れるのだな?」
「ええ」
「だったら一緒に行くぞ。最後まで一蓮托生だ。お前が死ぬなら私も死ぬ。お前が生きるなら私も生きる」
俺は、とても良い仲間をもったようだ。
「行くか」
「ああ」
「では、生き返らせますね」
体が光に包まれる。不快ではなく、愛に包まれているよう。そして俺は生き返る――
「一体なぜなのか」
バベルとマモンが居なくなった部屋のなかで、女神は椅子に座ったままそう呟いた。
「1000年の周期でかならず何かしらの原因で滅ぶ人々。誰がそうしたのか」
女神が物心ついたときから自分の見守る世界はそうだった。なにかしらの原因で、誘導されたように人々は死に行く。自分を信仰してくれる人々が、絶望しながら死んでいく。それは女神には耐えられない事だった。女神はそれを千回以上見続けた。
「大賢者は老いのせいで王の力をうまく使えず、菖蒲は死んだ」
王の力を与えた者はなぜか、誘導されたかのように上手く発揮出来なかったり、死んだりする。ナニカが世界を救われる事をとめるように。
「ですが、今回、変わるかもしれない」
数十万年変化しなかった女神の顔が、ほんの少しだけ動いた。
「期待していますよ」
女神はそう呟くと、無機質な部屋から姿を消した。
◇
「ああ。帰って来た」
多分生き返ったのだろう。俺が居るのは元居た丘だ。
しかし、まるでさっきの話は夢みたいだ。もしかしたらずっと寝ていただけで、俺は神様とは会ってないのかもしれない。いや、やはりさっきのことは現実なのだろう。俺の身体がどこか変。これは、ユニークスキルがレベルアップした時の感覚。
「マモン」
「む? なんだ?」
俺の横にはマモンが居る。
「一緒に来てくれるか?」
「愚問だな。二度も言わせるな。行くに決まっているだろう」
「ありがとう」
俺とマモンは無言で手を繋ぐ。同時に深呼吸して、一つになった。
「行くか。必殺スキル『無限召喚』」
なぜユニークスキルのレベルが10になったのだろう。それは分からない。女神様の餞別か、死という体験をのりこえたからか。まあどうでもいいや。
俺の数㎞先には無双進撃が居る。あれを倒してからゆっくり考えればいい。震えはない、ただ確信だけある。俺は、勝てる。という。




