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爆虫の召喚士  作者: 天野 雪人
最終章 二つ名持ち編
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第百四十八話 個体名……は……ました

バベルもいますが、三人称です。

「なぜ、お前は必殺スキルが使えないんだろうな」


 戦神達が分体と戦っている頃、マモンはバベルに向かってそう言った。


「そりゃあ魔力が足りなくて召喚出来ないんだろ?」


 バベルのLV5必殺スキル『爆虫王召喚』。バベルはそれを無人島の時の一度しか使用していない。爆虫王でかぽんは不完全なままで召喚され、魔力を消費しすぎてバベルは死にかけた。


「だったら、今は使えるんじゃないか? 今お前は魔力が数十万あるだろう?」

「……そういえばそうだったな」


 バベルにはエルから吸い取った五十万以上の魔力がある。結構使ったが、まだ十万以上は残っているため、昔失敗した爆虫王を召喚する事が出来るかもしれない。


「だけど、無理だ。直感だけど、足りない」

「……十万以上あるのに足りないのか?」

「ああ。直感だが、百万でも足りない。アレを完全な状態で召喚するのに、世界中から魔力を集めても足りないかもしれない」

「それは、本当に必殺スキルなのか?」


 ユニークスキルとは持ち主にもっともあったものが発現する。発動にリスクがあるユニークスキルもあるが、死を代償としたり、絶対不可能な条件を代償に発動するスキルなんて存在しない。世界中から魔力を集めて発動する必殺スキルはありえない。


「……そういえば、マスターも必殺スキルは使えなかったな」

「マスタ-? 大賢者か?」

「そうだ。マスターはLV5の必殺スキルを使うと死にかけた。だけど、必殺スキルは使えた」

「どういう意味だ?」

「組み合わせの話だ。マスターはLV5の必殺スキルと――」


 マモンはそこから先の言葉を言う事が出来なかった。突如として襲ってきた地震によって声を出す事が出来なかった。


「バベル。話は後だ。二つ名持ちが、動き出した!」


 分体を全て倒された【無双進撃 スライムゴッド】は、自ら羽虫(戦神達)をはらうために動き出す。



 ◇



「あ、コレ本格的にヤバイよ」


 動き出した無双進撃の覇気を感じ、エルニスは無双進撃の強さを一瞬で理解する。


「トール。勝率は?」

「LV10ノ必殺スキルヲ使ッタトシテモ約30%」


 トールの言葉を聞き、エルニスは息をのむ。一人で戦ってもまだ30%の確率で勝てる。しかし、無双進撃の能力はいまだ大部分が不明のままだ。さらに能力が明かされていけば勝率は下がっていくだろう。


「これは逃げる準備しといたほうがいいかもね」

「数千キロ先ニ“竜の森”ガ在ルノデ、イザトナッタラソコニ逃ゲマショウ」


 無双進撃の特性上、他の二つ名持ちのナワバリまでは攻撃しないと予測したトールはいざとなったら竜の森に逃げる為に密かに準備する。


「桜ちゃん達にも逃げる準備するよう伝えて」

「了解シマシタ。小型偵察船ヲ向カワセマス」


 トールは取り付けられている小さな虫の姿の小型偵察船を二機機動させ、バベルと桜達に伝言を届ける為に向かわせた。


「さあ、本気でいくよ。必殺スキル『戦の王』」


 エルニスは無双進撃と戦う為に、自身のLV5の必殺スキルを発動させる。



 ◇



「ぐっ!」


 魔導王フウタは無双進撃の攻撃で吹き飛ばされる。正直、予想外だった。ここまで強いなんて。


「ふう。“癒しの波動”」


 フウタは水の上級回復魔法“癒しの波動”を使い、傷を治療する。しかし、無双進撃は敵が回復しているあいだ傍観しているほど油断していない。すぐさまスライムのような体を剣のような形に変化させ、フウタを攻撃する。


「っ“大風”」


 フウタはさらにもう一つ魔法を発動させた。それは風の中級魔法“大嵐”。バベルの得意とする魔法を、フウタはうまくつかって無双進撃の攻撃を受け流す。


「ゴガアァアアアアァアァアァァッ!」

「くっ!“爆炎封殺”」


 無双進撃は剣のような形に変化させた身体でフウタの頭上から攻撃する。フウタも負けじと、火の上級魔法である爆炎封殺を使用して相殺した。


「アレを使うときでしょうかね」

「アアアアアアアア!」


 フウタも奥の手を使おうとするが、無双進撃もそれをゆるしはしない。すぐさま連続攻撃をフウタにたたき込む。


「ほんと、マズイですよ。“風の結界”」


 フウタは無双進撃の連続攻撃を風の結界で受け止めた。

 フウタがあせる理由として、必殺スキルを使えないことだろう。フウタの必殺スキルは強いが、再度使用出来るまで年単位の時を必要とする。フウタは数ヶ月前に二つの必殺スキルを使ってしまい、今は本当の強さを出せない状況だ。


「最悪、逃げますかね」

「それがいいね」


 その言葉は、フウタの上空から聞こえて来た。無双進撃に警戒しながらフウタが空を見上げると、そこには一機のロボットが居た。


「エルニスさん!?」

『うん。あ、来るよ!』


 会話しているあいだほっといてくれるほど無双進撃はあまくない。フウタは無双進撃の攻撃を風魔法で受け流し、再度エルニスに話かける。


「どうしたんですか?」

『今回ばかりは協力しないとやばそうだから来た!』

「そうですか」


 ロボットから聞こえて来るエルニスの声にフウタは納得する。

 なぜエルニスがロボットに乗っているのか、それはLV5の必殺スキル『戦の王』の効果だ。戦車型のトールが二足歩行のロボに変形し、所有者はそれに乗り込んで戦う事が出来る。


「といわれても僕は協力が苦手でしてね」


 身体強化で身体を強化したフウタが無双進撃の攻撃を避けながら言う。


「それはあたしも、だけど、一人で居るよりはいいと思ってね」

「そうですか。……エルニスさん、時間稼ぎしてもらってもいいですか?」

「ぜんぜんOKだよ!」


 エルニスはそう言うと、ロボットのトールを操縦してフウタの前に立つ。


「さあ、少しだけあたしがお相手するよ」


 トールの拳と無双進撃の剣がぶつかり合う。




「ふう。神の一撃。降臨せよ――」


 フウタは目の前で起こっている怪物同士の戦いを忘れたかのような穏やかな気持ちになりながら、魔法を詠唱する。それはフウタの魔法の中で二番目に威力のある魔法。詠唱が最短でも一分はかかり、しばらく目をつぶって集中しなければならないというかなり一対一の戦いでは向かない魔法だ。


「――神の怒りは天から降る。天誅よ、人々を襲う災厄を攻撃せよ! “天から降るただ一撃の神の怒り”」


 空が曇った。一瞬うねりをあげ、無双進撃の頭上から雷が降ってきた。真っ白い、神の怒りを体現したような魔法。それは魔導王にしか使えない一点集中でなら最強の攻撃だった。


「アガアアアアァァアアァアアア!!」


 無双進撃は始めて悲鳴を上げた。身体の中央にフウタの攻撃によってくぼみが出来、そこに核のようなものが露出する。


『やっぱ核があったよ!』

「そうですか。おねがいします!」

『うん。必殺スキル『最終兵器・零キャノン』」

『了解シマシタ。砲台ヲ出シマス』


 ロボットの腹部が開き、そこから一台の砲台があらわれる。それこそが、戦神を世界最強火力といわしめた一撃を放つ砲台。世界でもっとも大きい森をたった一撃で更地にしたという砲撃を、無双進撃に向けて放つ。


『一点集中でおねがい!』

『ハイ。核ダケヲ狙イマス。……準備完了。発射シマス』


 ロボの腹部に在る砲台に光があつまり、露出している無双進撃の核に向けて放たれた。しかし、その砲撃は効かなかった。

 

「ボアアアアアアア!!」


 無双進撃は気合いをいれ、一気に消失した身体を回復させる。それは戦神の攻撃が届くギリギリのところで核を覆い尽くすまでに回復した。戦神の攻撃は再生した身体に当たるが、本気で防御している無双進撃には通じない。


『あちゃー。トールどうしよう?』

『っ! 来マス。防御ノ体勢ヲトッテ下サイ』


 エルニスはよく分からなかったが、すぐさま防御の構えをとる。次の瞬間、衝撃が走った――



 ◇



 ほんの少しだけ時はさかのぼる。


 ベゴニアは嫌な予感がした。百五十年海王のナワバリで鍛えた事で強化された勘が全力で警報をならしている。


「俺の後ろに居ろ」


 ベゴニアは確信した。とてつもない攻撃が来ると。そのため、守らなければならない。桜達を。桜達はLV10とはいってもなりたてだ。だから、まだ足りない。数十秒後来る攻撃を受けるには早すぎる。


「いやでござる」


 しかし、桜は断った。覚悟を決めた目で、無双進撃の居る方向を見る。


「言ったでござろう。足手まといにはならないと」

「っ!」


 猶予はない。ベゴニアは言葉を紡ぐ事なく、防御態勢にはいった。


 ニャルカが波動でベゴニアたちを強化し、エルがストックしてある血で壁を作る。桜とベゴニアとエリカはエルとニャルカの前に立ち、これから来るであろう攻撃にそなえた。


「アアアアアアアアアアアア!!」


 無双進撃は雄叫びを上げ、身体を辺りに散らした。猫が体を震わせて水滴を飛ばすように、無双進撃も体を震わせ、自身の身体を水滴のようにして散らす。その速度は音速は超えていた。


 エルニスとトールは最大限出来るだけの防御対策をして、無双進撃の攻撃をしのいだ。

 フウタは時を止め(・・・・)、無属性の結界を数千枚はり、なんとかしのいだ。

 逃げる準備をしていたストックは一瞬で地下にもぐってしのいだ。

 戦いを眺めていたベゴニア達は協力して生き延びた。


 しかし、バベルは? バベルはろくな防御手段を持っていない。守護の腕輪を使えば、あるいは赤と青の炎を使用すれば死にはしなかったかもしれない。しかし、バベルは人間だ。いくらユニークスキルを持とうが、役立つ魔道具を持とうが、バベルの身体は同化していなければ常人と同じ。そんなバベルがはたして音速で飛んでくる物体を知覚して防御出来るのだろうか? 答えはノーだ。バベルはどこまでいっても人間だ。バベルの周りに今助けてくれる人が居たか? それもノーだ。バベルの周りには今マモンしかいない。そして今は同化していない。ならばバベルは――




 ――小高い丘の上では、バベルとマモンが倒れていた。


《……個体名バベル……は……マシタ。……てんそ……します》


 どこからか無機質な声が聞こえる。ノイズがはしり、ところどころ聞き取れないその声は、どこからか聞こえて来た。しかしその声は誰にも聞こえない。数秒後、バベル達が倒れている丘ではそよ風がふく。バベル達が起き上がる事は、なかった。

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