第百四十五話 嫌な予感はぬぐえない
「話を整理すると、エルを攻撃した人は世界最強の犯罪者である破壊兵器ストックであり、戦神とは一時的にパーティーを組んでいると」
あの後エルニスがエルを攻撃していた人、ストックを押さえ、とりあえず今は落ち着いて情報交換をしていた。
「うん。そうだよ」
分からないまるで分からない。なぜ犯罪者と冒険者が一緒にいるのか。なぜ犯罪者の最強と冒険者の最強がいるのか。落ち着いたとはいえ、俺にはなにが起こっているか理解出来なかった。
「なんでパーティーを組んでるんですか?」
翼をたたみ、一見人の姿に戻ったエルが聞く。
「うーん。その説明はもう一人が来てからにするよ」
タヌキの人形はそういって説明せず、破壊兵器のストックさんはじっとエルを見つめている。
「もう一人にゃ?」
「うん。そうだよ猫ちゃん。そろそろ追いついてくると思うけど」
ニャルカをなで回す戦神ことエルニスは幸せそうな顔をしながらそう言った。少しすると、森がざわめき、木々のあいだから人が出てくる。その人は……。
「エルニスさん先に行かないでくださいよ。……おや? あなた達は……」
木々のあいだから姿を見せたのは、妖精の里へ行く為に砂馬車に乗ったときに一緒に乗っていた男の人だった。
「えーと。砂馬車であった人ですよね」
「ええ。あのときは名乗っていませんでしたね。僕はフウタといいます。よろしくエルフィルさん」
「はい。あれ? ボク名乗ったっけ?」
フウタと名乗った男はエルニスのとなりにある石に腰掛ける。
「さて。みんなそろったし、情報交換といこうか!」
「はい」
俺達はエルの秘密をなんとかごまかしながら、妖精の里のゲートをくぐったと伝えた。そのあいだはストックさんはじっとエルを見つめていたけど、攻撃はしてこなかった。
そして、その後聞かされた人類に迫る危機。どこからともなく現れた二つ名持ち【無双進撃 スライムゴッド】。それを倒すために、人類の中でも最強とよばれる三人。戦神、破壊兵器、魔導王がパーティーをくんで討伐にあたるという。
「はあ。もういろいろ起こりすぎてなにがなんだか」
「フウタさんは魔導王だったのか。ぜんぜん分からなかったよ」
「ひとまず、もの凄い強い魔物がいるから、我に倒して欲しいというのは分かったにゃ」
お前はぜんぜん分かってないだろ。
それにしても、砂馬車であった人が世界最高峰の魔法使い“魔導王”だったとはいささか信じられない。だってこのモブ顔だぞ。
攻めてくる二つ名持ちを倒すために冒険者、魔法使い、犯罪者の最強格がパーティーを組むか。この三人がいれば二つ名持ちでも倒せそうだな。
「まあ、王達はあたし達が【無双進撃】の弱点を発見してから負けてほしいんじゃないかな」
「なんででござるか?」
「ほら、あたし達三人は国に属しているわけでもないから、無双進撃を倒せば手柄は全部総取り出来るの」
なるほど。国々としては自国の者に【無双進撃】を倒して貰いたい。けれど、三人は国に属しているわけではない。しかし無双進撃を倒せるのはここに居る三人だけ。だが、弱点が発覚していれば自国のLV10でも倒せるかもしれない。
「言っとくけど、多分この会話も聞かれてるからね。行動も監視されてるし、気をつけてね」
まあそうだろうな。弱点を発見するためには三人が戦う様子を見なければならないし。
「それで、その無双進撃とやらは倒せるのでござるか?」
「それは、見てみなければ分かりませんね」
そう言ったのはフウタさん。ほんとただのモブAと処理しそうな顔をしているけど、中身は魔導王だ。信じられないけど。
「ま、こうしているあいだにも【無双進撃】は国々に近づいてるし、あたし達もあまり悠長にしてられないよ」
タヌキの人形はそう言うが、ニャルカを撫で回しながら言ってもまるで説得力がないと思う。
「あれ? この場所に居たって事はもしかして無双進撃は近くに居るんですか?」
「そだよ。一緒に見に行く?」
エルニスはサラりとそう言うが、なにが面白くて人を問答無用で襲うような二つ名持ちに近づかなきゃならんのだ。
「それは面白そうでござる。行くでござるよ」
ここにそれを面白いと思う奴がいたわ。
「よし、じゃあ決まりだね。だいたい数百キロ離れた場所に居るから、空を飛ぶよ」
数百キロを近くとはいわないと思う。というか飛ぶ?
「はい。僕が魔法で飛ばしますね。準備をしてください」
空を飛ぶという事は風魔法か。しかし風魔法でも空を飛ぶ魔法は上級だし、自分以外も一緒に飛ばすのは最上級ぐらいに位置する。それで数百キロ飛ぶとは。恐るべし魔導王。
さっさと荷物を纏め、火も完全に消す。戦神はそのあいだニャルカを撫で回し、破棄兵器のストックさんはじっとエルを見つめていた。
「バベルさんは見たところ風属性ですよね? 自力で飛べますか?」
「はい」
「なら、魔力の節約のためにおねがいしてもよろしいですか?」
「自分だけなら大丈夫です」
上級風魔法“風羽”。風をおこし、飛ぶ魔法だが、人間を一人浮かすだけでもものすごい魔力を消費する。俺の魔力では飛ぶといっても数キロしか無理だっただろう。しかし、エルから吸い取った魔力が数十万以上ある。これだけあれば、数百キロぐらい余裕だろう。
――マモン魔法プリーズ。
――はあ、ほれ。
マモンから魔法の使用権を返してもらう。
「では行きますよ。“天空を飛ぶ者達”」
フウタさんが魔法を無詠唱でつかうと、俺以外の全員が空中に浮く。
「よし、“風羽”」
俺も魔法を使い、空中へ浮く。
「……では行きますよ」
「はい」
俺とフウタさんはまっすぐ北へと向かった。
◇
「多分あれだよね」
数キロ先にある広い草原には、黒いスライムのような存在がゆっくり南、大陸の中央へと歩んでいた。
「……どう思う?」
「うーん。強いね。あたし一人じゃ無理かな~」
数キロも離れているが、俺にも見えるほどの巨体で、ここにいても威圧感がすごい。この感覚は昔【酸性雨 エネルギーフロッグ】と相対したときと同じ。強い。あれは、強い。
「そうですね。僕もまだなんともいえませんが、あれは強いです。僕達でも勝てるかどうか……」
「それは正解だ。あれは強いぞ」
突如として背後から聞こえた声。とっさに振り向く戦神達の顔は、俺が見たこともない警戒心をあらわにした顔。俺達も続いてふりむいた。そこに居たのは耳のとがった男と大きな亀……。
「ベゴさん!?」
「ああ。ひさしぶりだな。バベル」
そこに居たのは、かつて海王のナワバリで出会った魚人と森人のハーフの男、ベゴさんと宇宙亀のエリカだった。
「ベゴニア!」
俺達のあいだを掛け走り、ベゴさんに抱きついたのはタヌキの人形、エルニスだ。
「ベゴニア! 生きてたんだ!」
「……ああ。エルニスか。ものすごく変わったから分からなかった」
そういえばベゴさんは百五十年は生きていると言ってたな。だったら百五十年前から冒険者をしているエルニスとは知り合いであってもおかしくはない。
「この姿になったのにはいろいろ理由があるの! それより、生きててよかった。死んじゃったかと思ったよ」
「すまん。たぶん生きているのは俺だけだ。やつ、【古代竜王】は強かった。俺は、友の犠牲の上で生きている」
「でもベゴニアだけでも生きてて良かった!」
まるで分からないけど、二人のあいだにはかつてなにかあったのだろうか。
「俺を知らないやつも居るだろうし、自己紹介しておく。俺は百五十年前に古代竜王と戦って死にかけたSランク冒険者だ。“牙王”とよばれていた」
「え!?」
“牙王”ベゴニア。それは百五十年前冒険者の黄金時代に居たSランク冒険者。古代竜王が棲む竜の森で姿を消し、死んだといわれていた存在。ベゴさんがまさかSランク冒険者だなんて。まあもの凄くかたいリバイアサンを一撃で三枚におろしてたし、納得は出来る。
「俺も協力する。百五十年前にくらべれば、俺も強くなった」
「……うん! ベゴニアなら安心だよ!」
タヌキもテンション上がっているが、数キロ先には人類の災厄が居るという事を理解しているのだろうか。
「感動の再会のところもうしわけありませんんが、そろそろ【無双進撃】を討伐しに行きましょう」
「そうだね。サモン『トール』」
「マスター。戦デスネ」
戦神は戦車を召喚士し、魔導王は魔力の見えない杖を取り出す。破壊兵器は油断無く【無双進撃】を見据え、牙王はかぎ爪を装着した。まちがいなく世界最強の集団と、そこにまざる俺達。戦いは開始される。無双進撃とよばれた二つ名持ちとの。
「じゃあ、ニャルカ達はここで見てて」
「ああ。了解した」
無双進撃から約数キロ離れた小高い丘。ここならば、たしかに巻き込まれないだろう。俺達なら少しぐらい巻き込まれても大丈夫だろうし。
「じゃあ行ってくる」
四人と一匹と一台は無双進撃の居る方向へと進む。無双進撃は前に進むことに夢中で、こちらには気付いていないから、先制攻撃は出来そうだ。
「……待って下さい」
しかし、無双進撃へと歩み出した四人と一匹と一台を止める存在がいた。それは、語尾のござるがとれた桜だ。
「私も連れていってください。足手まといにはなりません」
「…………」
四人と一匹と一台は桜の言葉に足を止め、こちらを振り向く。
「ここまで連れって来ちゃってあれだけど、アレとの戦いでは桜ちゃんも守れないよ」
「大丈夫です。私は、最強になりたい。それに、もし死にそうになっても見捨ててもらってかまいません」
「…………」
桜の夢は世界最強になることだった。これは桜の覚悟なのかもしれない。桜は強い。けれど、この集団の中では弱い。二つ名持ちと相対した事はあっても戦った事はないし、あれほど巨大な存在と戦ったこともない。俺から見ても、桜にはあの戦場は早い気がする。
「見捨てるか。あたしも何度もいろんなものを見捨ててきた。桜ちゃんがアレと戦うのを止める権利も止めるつもりもない。ほんとに良い? 死ぬよ」
「……っ!」
殺気。俺達にむかってきた死のイメージ。それは世界最強の本気の殺気だ。その殺気は全て桜へとむけられている。戦神の殺気は余波だけで明確に死をイメージ出来てしまう。戦神に、本気の殺気を向けられている桜はいたいどんな気持ちなんだ。
「私は、死ぬつもりはありません!」
「……そう。あの舞台に立てるのは真の強者だけだけど、行く?」
「まだなりたてだけど、私もレベル10です」
「そっか。じゃあ行こう」
殺気は収まる。桜は覚悟を決めた目でエルニス達についていく。そして、エルも桜の後を歩き、ニャルカも歩く。
「……行く?」
「はい」
「我がいかなければ始まらにゃいにゃ」
戦神達もうなずき、エルとニャルカもあの戦いに参戦することとなる。
「バベルはどうする?」
戦神が俺に聞いてくる。
「決まってるだろ」
桜が行き、エルとニャルカも行く。だったら俺は……。
「行くわけがない」
こう言ってやろう。あんな化け物と戦うなんて正気の沙汰ではない。
◇
言葉に出来ない顔をした戦神達は、俺だけこの丘において【無双進撃】と戦うべく歩み出した。
そもそも、桜とニャルカはLV10だし、エルも吸血王というSランクでも最上位の魔物だ。しかし、俺はユニークスキルがLV9だ。いくら守護の腕輪というチートアイテムがあろうが、いくら炎という強化手段があっても、俺はLV9で貧弱なのだ。身体は人と変わらない。そんな俺があの化け物集団に飛び込んでなにが出来るのだろうか。いいやなにも出来ない。ただ死ぬだけだ。
「はあ。まったくお前は臆病だな」
俺のとなりにはマモンが座っている。マモンが外に出ているだけでも魔力を消費するが、まだエルから吸い取った魔力は残っているから支障はない。
「なに。しっかり考えた上での結果だ。まあ戦闘の余波がここまでこないともかぎらないし、警戒しておこう」
爆虫の図鑑をだし、いくつか爆虫を召喚する。
「ついでにあれも。サモン『爆虫(最終兵器型)』」
召喚されたのは手のひらサイズの爆虫。これはLV9で追加された爆虫で、召喚魔力1200。今までで最高の消費だが、威力は高い。ただ気をつけないと味方も一緒に巻き込んでしまう危険性もある。あの桜でも大怪我を負う可能性がある爆虫だ。
「で、マモンから見てあの二つ名持ちはどう思う?」
「……そうだな。強い。圧倒的にな」
マモンは少し考え、そう言う。たしかにアレは強い。数キロ離れていても、そういうのに疎い俺でも分かるほどに。
「だが、こちらも化け物ぞろいだ。戦神、魔道王、破壊兵器、牙王。どれも私が今まで見てきたなかでトップクラス。とくに戦神はマスター、大賢者と五分五分の強さだ」
「そうか」
こちらも化け物ぞろい。しかし嫌な予感がぬぐえない。なんだろう。首元に、死神のカマがそっと置かれているようなこの気持ちは。




