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爆虫の召喚士  作者: 天野 雪人
最終章 二つ名持ち編
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第百四十四話 果てなき夢の話

 ズウンッと音を立てて森がゆれる。俺は、その音を聞きながら逃げ回っていた。


「くそっ。サモン『爆虫(時限型)』×5」


 後ろから追ってくる存在を罠にかけるべく、時限型を設置しながら森を走る。なにぶん俺の体力では森を走り続けるという事が出来ないため、適度に休息が必要だ。


 ――バベル、来るぞ!


 ――もう来たのか!?


 振り返ると、ソレは飛翔しながら木々が乱雑に生える森を、針を通すような正確さで追いかけてくる。


「バベル君。見ーつけた」

「早すぎだろ」


 後ろから追ってきたエルは、吸血鬼の翼を折りたたみ、不敵に笑う。


「だが、まだだ」

「っ!?」


 エルが居る場所に仕掛けられている時限型が一斉に爆発する。それは木々をなぎ倒すほどの爆発だった。


「これで終わりだ」

「バベル君、まだまだだよ」


 爆発で巻き起こった砂煙が晴れると、そこには吸血鬼の翼で爆発をガードしたエルが存在していた。


「さあ、チェックメイトだよ」


 いつのまにか目の前に移動していたエルが、俺の首もとに短剣をそっと置く。


「っっ。降参だ」

「やった。またボクの勝ちだね」



 ◇



 俺達がしていたのは戦闘訓練だ。今日は俺とエルで戦ったが、まあエルの強い事。イレギュラーから解放されて、吸血王の力を自在に操れるようになったエルはとても強かった。桜以上の強さを持つと行っても過言ではない。


「エル殿強いでござるな~。せっしゃも必殺スキルを使わないと対向出来ないでござるよ」


 焚き火でトロトロに煮込まれたシチューを食べながら、桜はそう言う。桜もLV10の必殺スキルを使えばエルに勝てるが、一週間に一回しか使えないため、だいたいエルには負ける。


「ボクはただの吸血鬼じゃなくて吸血王だからね。まあ、ユニークスキルは使えないけど」


 エルのユニークスキルは、イレギュラーだった事で手に入れたものらしい。なので、イレギュラーを解除したエルはもう二度と【消える者】は使えない。あれ便利だったのに。消える前に一度ぐらい金庫に忍び込めば良かった。


「それはそうとして、エルの事はいろいろ考えないとな」


 エルが魔物だとバレれば殺される。常識的に考えれば、魔物を街にいれる事はしないだろう。


「そうだね。ギルドカードのユニークスキルの欄使えなくなっちゃったし、翼もどうにかしないとね」


 エルの翼は折りたたんで服の中にしまっても、もこっと不自然に盛り上がる。それに、羽ねはのびのびさせないとストレスになるとの事だ。

 ギルドカードも最初は故障で押し通せるだろうけど、時がたてばバレる。幸いここは深い森の中。人に会うこともないだろうし、Aランクになってからは依頼のノルマが一年に五回になったからしばらくは人里に下りなくても良い。


「そんにゃ事より、おかわりにゃ」

「せっしゃも」

「はいはい」


 エルはニャルカと桜から皿を受け取り、シチューをそそぐ。吸血王の力を自在に扱えるようになっても、エルはエルだな。


 ――あたりまえだ。人はそう簡単に変わらん。


 ――あれ? ニャルカとニャストさんの戦闘の時お前人は変わるとか言ってなかったか?


 ――言ったかもしれないな。


 案外マモンも適当にしゃべってるのかもしれない。そんなこんなで、俺達の朝ご飯は終わった。




「1306……1307……1308」

「グーグースピー」

「なるほど」


 朝食の後、桜は腕立て伏せ。ニャルカは昼寝。エルは薬学の基礎という本を読み、ゆるやかな時間をすごしていた。


「なるほど分かったバベル君! ちょっと薬を作るから、薬草を採ってくるね」


 最近薬草をすりつぶして塗り薬を作ったりと薬学にはまっているエルがそう言ってくる。


「ん。気をつけろよ」

「うん」

「あ、美味しそうなキノコがあったら採ってきて欲しいでござる」


 桜は腕立て伏せを中断してそう言う。


「キノコ?」

「毒とかは気にしないので、なんでも採ってきてほしいでござる」

「そっかー。じゃあ見つけたら採ってくるね」


 桜は超人である。そのため、毒にも凄い耐性を持つ。大型の魔物を一口で殺す“サツイスゴイダケ”をペロリと食べた事もあるため、すでに人間を止めている事は明白だ。


「一時間ぐらいで帰ってくるね」

「分かった気をつけろよ」


 エルは装備をととのえ、森の奥地へと入っていった。


「そういえばここはどこなんでござろう?」

「さあな」


 エルを追ってゲートを潜ってここにやって来たが、ニャルカもあのゲートがどこにつながっているか知らないらしい。かなり深い森だから大陸のはずれにでもあるのかもしれない。


「あと数ヶ月ぐらいは人里に下りなくても大丈夫だろ。気楽に行こう」

「そうでござるな」


 ニャルカの寝息と鳥の鳴き声、そして木々がそよぐ音を聞きながらボケーっとする。この森にはあまり魔物がいないため、小動物の楽園だ。そんな森でボーっとしてると、ニャルカがいきなり起き上がった。


「……にゃあ。……やべえにゃ。エルが襲われてるにゃ!」


 ニャルカのその声とともに森全体が振動する。


「なんの音でござるか!?」

「エルとなにかが戦ってるにゃ。さっさと行くにゃよ」


 ニャルカはそう言うと四つ足を使ってエルが行った方向へと走り出し、桜も混乱しながらなにかを感じ取ったようにニャルカの後を追った。


 ――なにがあるんだ!?


 ――知るか。さっさと準備を整えて行ってこい。


 まだ少し残っていた焚き火の火を完全に消し、荷物を持って俺も追いかける。


 少し走ると、そこにはエルと見知らぬ少女いや少年? がぶつかり合っていた。エルに攻撃しているほうは中性的な容姿で、男か女か判別がつかないが、見た目的に15歳ほどだろうか。


「なにか分かりませんが、取りあえず止めてくるでござる」


 あのような高次元の戦いに俺とニャルカが乱入したら一発で殺されるので、桜にまかせる。エルに攻撃しているほうは、突如として現れた俺達のほうを向いて少し驚いたような表情をする。桜は戦場に近づいたはいいものの、どうとめればいいかオロオロしているようだ。


「……あなた達が誰かはしれないけど、さがってて。……あぶないよ」

「へっ?」


 エルに攻撃している人が俺達にむかってそう言い、桜はほおける。


「……これは……危険な魔物だから……」


 ん? もしかしてあの人はエルを魔物だと勘違いしてるのか? いやまあエルは実際魔物なんだけど。


「あの、ボクはまものじゃ……」

「うるさい。……魔なるものの言葉は聞きたくない」


 なるほど、エルは必死に弁解しているが、あの人は聞く耳もたないと。しかし、エルの攻撃をいとも簡単にいなせるなんて、あの人強いな。ユニークスキルか?


「あの、やめるでござる!」


 桜の言葉も、エルを攻撃している人には届かないようで、桜の存在は無視される。桜がオロオロしていると、木々のあいだからなにかが飛び出し、エルを攻撃している人の攻撃をうけとめた。


「やめて!」

「……! エルニス、どいて。そいつ殺せない」


 エルを守ったのは、タヌキの人形。そう、戦神のエルニスだった。


「エルニス、邪魔するの?」

「ちょっと待ちなよ。エルちゃんは悪い魔物じゃないから」


 突如として現れたエルニスとエルを攻撃した人の口論を、俺達は唖然とした表情で見つめる。あまりにも急展開すぎて、ついていけない。


「バベル、なにが起こってるにゃ?」

「さあな。俺も分からん」


 俺達はしばらくエルニスとエルを攻撃した人の口論を眺めていた。

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