第百四十二話 国際会議
最終章開始!
とある空間では、世界各国の王達が顔を合わせていた。しかし王達がそこに居るわけではなく、魔道具よって画面越しに顔を合わせている。
「これで全員ですか?」
そう言ったのはアルバス王国の女王エリミナ。まだ女王となって日もあさいはずだが、すでに王としての貫禄はついていた。
「そうだね。じゃあ、始めようか“二つ名持ち対策会議”を」
王達が顔を合わせるというのは、歴史上でも数える程度。よほどの事がないかぎり国際会議などしない。今回は、そのよほどの事だった。
二つ名持ち【無双進撃 スライムゴッド】はゆっくりと大陸の中央、人々が暮らす国々へと進んでいる。すでに最北端にあるキノコ王国とタケノコ帝国は無双進撃に因って壊滅。その周辺の小国も同様に滅んだ。
「【無双進撃 スライムゴッド】に対して効果的な作戦を考えている人は居る?」
「「「…………」」」
エンシャル帝国の皇帝エクルの言葉に一同は押し黙る。そもそも、最下級の二つ名持ちですらSランク冒険者相当の者が十名必要と言われている。二つ名持ちの中でも中位以上と予測される無双進撃に対向出来る策などあるわけがない。
「今回だけキノコ王国とタケノコ帝国も手を組んで立ち向かったが、あっけなく殲滅されたと聞く。どうも出来ないと思うがね」
迷宮王国の国王が言ったその言葉は正論だった。中堅国でありながら高い軍事力を誇るキノコ王国とタケノコ帝国の軍勢がわずか数分で殲滅されたと報告されている。Sランク冒険者相当の者こそ居なかったが、Aランク冒険者相当の者も多数居た。しかし、無双進撃にはまるで蚊を払うかのように叩きつぶされたのだ。
「確かに、二つ名持ちに挑めるのは真の強者だけだ。でも、今回はLV10が沢山集まっても厳しいかもね」
無双進撃は強い。ただ、強い。どのような能力を持つかも未知数であり、斥候の報告によると、感覚からしてガルハの【暴走兵器】やアルバスの【酸性雨】より強いらしい。そのような怪物を相手にしたがる者が果たしているかどうか。
「ふむ。では、他の二つ名持ちにぶつけるというのはどうだろう?」
とある国の老王が、そう提案をだす。
「難しいだろうね。どうも、普通の二つ名持ちでもなさそうだ」
二つ名持ちが進撃してくるのには、ある程度の理由がある。その最たるは、ナワバリの拡大の為だろう。しかし、そのたんびに他の二つ名持ちのナワバリも荒らしてしまい、そのナワバリの主である二つ名持ちに殺られる。だが、今回の二つ名持ちは他の二つ名持ちのナワバリはすべて迂回し、ただ人々を殺している。ナワバリを主張するような様子もなく、まるで人々を全滅させる事だけが目標のように。
エクルのその説明で、王達は押し黙る。
「では、ユニークスキルがLV10に到った者すべてに収集を掛け、討伐するというのは?」
「そ、それは……」
ある王の提案にも、他の王は乗り切れない。ユニークスキルがLV10に到った者とは世界人口から見ても、わずか二桁と言われている。LV10に到った者というのは何事にも代え難い財産だ。それを、正体不明の二つ名持ちにぶつけるなど、もし死なれでもしたら無視出来ない損害となるだろう。しかし、なにもしないのであればただ人類の絶滅だ。
「うーむ。それはわたしとしても困りますな」
「うむうむ。我が国のLV10が死なれるのはいささか困るぞい」
「だが、それ以外に手はあるのですか?」
わいのわいの騒ぐ空間に、エンシャル帝国の皇帝エクルは声を発した。
「これは、エンシャル帝国の皇帝としてではなく“大切断”として言う……」
エクルのその一言に王達は静まり返り、次の言葉を待つ。
「あくまで勘だけど、真の強者ではアレは討伐不可能。アレは、“戦神”並の全てを超越した強者しか討伐は無理」
エクルの言葉に、王達は静まりかえる。エクルというユニークスキルをLV10まで到達させた者が言うと、説得力が違った。
「では、戦神に討伐を要請しますか?」
戦神は形だけ冒険者ギルドには所属しているが、どこの国にも付かない世界最強の冒険者だ。戦神ならばもし死んでもそれほど痛手は負わないし、倒せなくても【無双進撃】の弱点を見つけるぐらいの戦いはするだろう。それならば、弱点をついて倒せる可能性もある。
「戦神だけじゃいささか厳しいでしょう。どうせなら、“魔導王”にも要請しましょう」
世界最強の魔法使い“魔導王”もどこの国にもつかず、山奥に引きこもっている存在だ。戦神並に強いと言われている彼がいれば、【無双進撃】を倒せる可能性が高くなる。
「世界最高火力“戦神”。世界最強の魔法使い“魔導王”。ならば、もう一人いるでしょ裏の最強が」
「まさか奴を!」
「確かに奴ならば戦神、魔導王とも並んで戦えるでしょう。三国の軍を相手にしながら決して壊れない迷宮を破壊した“破壊兵器”ならば!」
“破壊兵器”ストック。ソレは、強かった。世界最悪の犯罪者が“正体不明”ならば世界最強の犯罪者は“破壊兵器”だろう。かつて世界の財産である迷宮を破壊し、全世界で指名手配されている存在“破壊兵器”ならば【無双進撃】とも戦えるし、もし死んだら王達にとってもラッキーだ。三国の軍をいっぺんに相手出来る敵がいなくなるのであれば。
「しかし、破壊兵器は探し出すのにも一苦労だし、やつならばすでに世界の敵だからどんな脅しも無意味だろう。協力させる方法が思い浮かばない」
「いや、出来るよ。破壊兵器は我が国が総力をあげて探しだそう。その上で、対価として指名手配の解除を約束する」
王達がざわつく。迷宮を破壊して以来めっきり姿を現さない破壊兵器だが、奴の懸賞金はすでに白金貨百枚を越えている。そんな存在の指名手配を解除するなど、言語道断である。
「もちろんエンシャル帝国だけじゃない。他の国指名手配を破棄してもらう」
「し、しかし」
「アルバス王国はそれでもいいですよ」
アルバスという大国が同意した事で、他の国々もポツポツと同意する。これにより、【無双進撃 スライムゴッド】の討伐は戦神、魔導王、破壊兵器という前代未聞の最強メンバーが請け負う事になった。
◇
――だいたい同時刻の月光国。
月光国の桜の実家では、父である夜月栄一郎と母の夜月朱奈が縁側にすわって月を見ていた。
「綺麗な月ですね」
「そうでござるな」
栄一郎は月よりだんごと言わんばかりに月見だんごを食べる。二人が優雅に月を見ていると、目の前の垣根がゴソゴソとゆれた。栄一郎と朱奈は少し警戒するが、飛び出してきた存在を見て警戒を解く。
「よお。ひさしぶり」
垣根の下から現れたのは酒瓶を持った猫屋凪だった。
「凪さん。おひさいぶりです」
「よっ朱奈。二ヶ月ぶりか?」
「そうですねえ」
凪は許可なく朱奈のとなりに座り、皿にもられた串団子をかってに取って食べる。
「で、なにようでござるか?」
三人分のサカズキを用意していいた凪に、栄一郎は聞く。
「まあちょっと最近空気が変だなって思って」
「……ふむ。凪も気付いていたか」
栄一郎と凪。“殲滅将軍”と“剣豪”という月光国の二大最強だからこそ分かる変な空気。まるで、災厄が迫っているような。
「桜達大丈夫かなー……」
凪は月光国を逃げるように出て行った桜とその仲間達を思い浮かべる。
「そうでござるな。分からないというしかないでござる」
「そだよなー」
「だが、バベル殿が一緒に居れば大丈夫でござる」
「バベルがか?」
凪はバベルのことを思い浮かべる。バベルは確かにつよかった。爆発する虫を召喚するユニークスキルは確かに強い。だが、バベルは常人だった。体力もないし、普通の人と同じように傷つく。
「バベル殿は同じ気配がするのでござるよ」
「ん? 誰と?」
「もちろん菖蒲とでござる」
「あやめとねー」
凪はバベルと菖蒲の事を頭の中で考える。しかし、いっこうに共通点が見当たらない。
「まあ、いいではないですか。桜なら大丈夫ですよ」
「そうかー?」
「ええ。あの子ならね」
「そうかなー?」
「ほら、一緒に月を見ましょう」
「月なんて見ても面白くないけどな」
凪はそう言いつつも、一緒に月見を楽しんだ。
◇
――同時刻。海王のナワバリ。
エンシャル帝国と月光国のあいだにある海王のナワバリでは、個体数がものすごく少ない天空亀の上異種である宇宙亀が泳いでいた。その宇宙亀の甲羅の上には家が建っており、草も生えている。
「夜釣りも良いものだな」
その宇宙亀の甲羅に座り、月下の元で釣りをしているのは森人と魚人のハーフであるベゴニアだ。
「おっ。釣れた」
ベゴニアが竿を引くと、針に宝幸鰹が掛かっていた。
「宝幸鰹か。なつかしい。あれは一年以上前なんだな」
ベゴニアは数年前突如やってきた四人組の事を思い出す。あの時、彼らに食べさせたのが宝幸鰹のたたきだった。
「ボオォォォォォ」
「エリカも覚えてるか?」
百五十年以上人に会っていなかったベゴニアは、数年前のあの四人組の事は今でも鮮明に覚えていた。
「まあ、俺もそろそろこの海を出る時だろう。世界がざわついている」
「ボオ-」
ベゴニアの言葉に宇宙亀のエリカは同意する。
「こんな気配【古代竜王】と戦って以来だ」
「ボオ!」
ベゴニアはこのナワバリのボスである海王とならぶ二つ名持ち、【古代竜王 エンシャントドラゴン】の名をだした。
「エリカ……一緒に付いてきてくれるか?」
「ボオッ!」
もちろんだ。というエリカの気持ちを感じ、ベゴニアは笑う。
「ありがとう。いくぞ、北西へ飛べ!」
「ボオッ」
過去の敗者。ベゴニアは【無双進撃 スライムゴッド】の居る方向へと飛ぶ。百五十年前、【古代竜王】に敗北したSランク冒険者“牙王”は今、しずかに復活する。
ベゴニアの事覚えていますでしょうか? 第六十四、五話に出てきた人なんですが。




