第百三十四話 少女と族長と物語は動き出す
「――そんにゃ事があって、我は妖精の里から旅立ち、バベル達と会ったにゃ」
いきなり淡々と聞かされたニャルカの過去。サラっと聞かされたが、ニャルカも俺達に劣らず濃い過去を過ごしていたようだ。
「よし、じゃあ我はひさしぶりに街に遊びに行くにゃ」
ニャルカはそう言って立ち上がり、部屋を出て行く。エルも妖精族の作った魔道具が見たいと出て行き、桜も昼寝にちょうどいい場所を見つけてくると出て行った。
――さて、俺はどうするか。
――好きにすればいい。
――だな。適当にブラつくか。
とりあえず街を散歩すると決め、ニャルカの部屋を出た。
「あ、お客さん」
廊下を歩いていると、からっぽのカゴを持ったピクシーの少女が居た。
「えーと。リリナだっけ?」
「はい。ニャルカに聞いたんですか?」
「ああ」
ニャルカの話によるとこの少女が次期冥王らしいけど、どうもそうは見えない。どこにでも居る普通の少女にしか思えないな。
「ニャルカとはどんな関係なんですか?」
リリナがそう俺に聞いてくる。
「まあ冒険者仲間かな」
「へー。冒険者ですか。お話にしか聞いた事ありませんが、ニャルカはそんな事を……」
その後も少し会話し、仕事があるからとリリナとは別れた。
――とても次期冥王には見えないな。
――……お前には分からないか?
俺の小さな疑問にマモンは真剣な声でそう聞き返してくる。
――どういう意味だ?
――あの少女の不気味な気配に……。
――まったく分からん。
マモンにしか分からないなにかがあるのかもしれないが、俺にはさっぱりだ。
「まあいいか」
取りあえずリリナの件は忘れる事にした。
少し歩いて分かった事だが、この家は広すぎる。外見からは想像もつかない広さの家は、全て空間をゆがめられて造られていた。家の中の空間をゆがめて広くする技術など、人族には不可能。さすが魔道具作りの天才種族だ。
「ん?」
ひっろい廊下を進み、どことなく洋風の縁側のような場所に来た。そこに座っていたのは冥王のニャストさん。そして、年老いたコロポックルだ。
「お? たしかバベルと言ったものだな。どれ、こっちにこい」
ニャストさんに手招きされて、横に座る。
「おや、ニャスト殿、こちらのかたは?」
ニャストさんの横に座っていた年老いたコロポックルが俺の方を見ながらニャストさんに聞く。
「ニャルカの友達だ」
「どうもバベルです」
「これはこれはご丁寧に」
おじいさんに挨拶すると、おじいさんも挨拶を返す。
「で、このじいさんは妖精族の族長。じいさんとでも呼んでやってくれ」
「まあわしは確かにじいさんだが、若いもんにはまだ負けんよ」
「そうですか」
そういえばニャルカとの会話の節々にも族長という言葉が出てきたな。
「なにしてるんですか?」
「ゆっくりしてるのだ。吾輩と族長はたまにここでのんびりする」
「へえー」
ニャストさんなそう言って目を細める。
「……バベル殿、強いですな」
「ん? そうですか?」
じいさんがポツリと言う。
「ええ。ひさしぶりに得体の知れない気配を感じましたよ」
じいさんはそう言うと、となりに置いてあった湯飲みを持ち、お茶を一口飲む。
「吾輩から見てもバベルは強い。だからこそ、気をつけろ」
ニャストさんも湯飲みを持ちながらそう言う。
「仲間だからと攻撃をためらえば死がある。吾輩の目がそうだ」
ニャストさんはそう言って俺の方を向く。ニャストさんの右目は、たしかに傷がある。深く、目が見えないほどの……。
「吾輩の心が弱かったから、化け物となったニャルカにやられた」
ニャストさんはそう言って、お茶を飲んだ。
「俺は、仲間を攻撃する事態にならないと信じています。それに、もしなったとしてもなんとかしますよ。また一緒に食卓を囲めるように」
「……そうか。それが出来れば、バベルは吾輩より強いであろう」
ニャストさんはそう言ってお茶を飲み干した。
◇
あの後は街をぶらついて欲しい魔道具を物々交換で手に入れたり、昼ご飯をニャルカを捕まえて奢って貰ったりして過ごし、その夜。
――妖精族って子供みたいな心を持ってるな。
――だな。1000年前からそんな印象だ。ただ、1000年生きる者達は頭が固いやつが多いが。
妖精族達は寝たいときに寝て食べたいときに食べるという印象を受けた。店も開いてはいるが、留守だったり寝ていたりやっていない事の方が多い。しかし品質は良いから、やる時はやる種族なのだろう。
――そういえば夜ご飯はいつだ?
――ニャルカは日が沈んで一時間ぐらいだと言っていたから、あと三時間ぐらいじゃないか。
ニャルカの部屋の窓から外を見ると、そろそろ日暮れ。子供達の遊ぶ声ももう止むかといったぐらいだ。
――なるほど。じゃあ楽しみにしてるか。
マモンはそう言って、鼻歌を歌う。
「バベル君!」
マモンと会話をしていると、突然部屋の扉が勢いよく開いてエルが入ってくる。
「ニャルカとニャストさんが戦いみたい!」
物語が動き出した。そんな気がする。




