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爆虫の召喚士  作者: 天野 雪人
第九章 果てなき夢編
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第百三十三話 ニャルカの過去

 ニャルカという存在をを一言で表すと“天才”だろう。8歳で最大十万まで魔力を計れる魔力測定機を膨大すぎる魔力で破壊したのは妖精族のあいだでは有名だ。しかしニャルカは孤独だった。天才は理解されない。ニャルカは傲慢な性格のせいで、友達を作る事とが出来なかった。


「我は、友など要らぬ」


 そう言ったニャルカは一人で遊んでいた。近くの大きな川で釣りをしたり、街を取り囲む妖精の森を一人で冒険する。そんなニャルカに転機が訪れたのは9歳の時だろう。その時ニャルカは森の中を探検していた。


「にゃんにゃ……にゃん?」


 鼻歌を歌いながら森を一人で歩いていたニャルカの前に、不思議な不思議な木が現れたのだ。


「変な木。……それににゃんだろう。変な果実にゃ」


 木の背は高く、ニャルカの背丈では取る事が出来ない。それだったらほおっておこうとなるが、ニャルカはその果実に不思議な魅力を感じていた。ニャルカは頑張って木に登り、頑張って果実を取り、それを頑張って持って下りる。


「にゃあ~? にゃ!」


 ニャルカは毒を警戒もせず、そのまま果実にかぶりついた。


「……美味しいにゃ! ……たんなる果実のクセに我に美味しいと言わせるとは生意気にゃね」


 ニャルカはそう言って果実を全て平らげ、帰路についた。



 ◇



 ニャルカの頭に言葉が響きだしたのはアレから一週間経った頃だった。


 ――おーい。聞こえてるのだな! さっさと返事するのだ。


 普通は頭の中にそのような声が聞こえてきたら不気味に思うだろう。しかしニャルカは普通ではなかった。


 ――お前は誰にゃ?


 ニャルカは声の主に聞き返す。


 ――あたしは傲慢の古代兵器なのだ。お前に宿ってやるからありがたく思うのだ!


 ――にゃにー! 宿るってどういう意味にゃー!!


 ニャルカと傲慢のファーストコンタクトはこのような形で終わった。




 それからニャルカと傲慢は常に喧嘩していた。


 ――あたしはそれ食べたくないのだ!


 ――我は食べたい!


 食事でも喧嘩。


 ――違う、そっちじゃない! ニャルカ、あっちに行くのだ。


 ――嫌にゃ~。我は我の道を行く。愚民は黙ってろにゃ。


 冒険でも喧嘩。


 ――今大きいの逃がした! ニャルカのせいなのだ。


 ――お前が騒ぐからにゃ。


 釣りでも喧嘩。


 彼と彼女はつねに喧嘩がかりしていた。――しかし数ヶ月後。


「ブモオオオオオオォッ!!」

「にゃぁ。なんなのにゃ!」


 いつもの様に森を冒険していたニャルカの前に現れたのは魔物、イノブタノオウ。Eランクに位置する比較的弱い魔物だが、基本的に戦闘手段を持たない妖精族には強敵だ。


「にゃあ!」


 ニャルカは石を投げるが、イノブタノオウに効いたようすはない。普通なら逃げ一択だろうが、ニャルカの中には逃げるなどという屈辱的な選択肢はなかった。


「ブモオッ!」

「ぶにゃっ!」


 ニャルカはイノブタノオウの突進に因って吹き飛ばされ、近くの木に叩きつけられる。


 ――ニャルカ! 大丈夫なのだ?


 ――心配なんてするにゃ。


 ニャルカは傲慢の言葉に冷たく返し、近くに落ちていた木の棒を握ってイノブタノオウに突撃する。が、あえなく吹き飛ばされた。


「にゃあ!」

「ブモォオオ!!」


 なんど吹き飛ばされても、ニャルカは負けを認めなかった。たとえ、どれだけの怪我を負っても。


 ――ニャルカ、死んじゃうのだ!


 ――うるさい! 黙ってろにゃ。


 ニャルカはボロボロになりながら突撃した。なんどもなんども、負けを認めたら、もう誰も自分を認めてくれないと思いながら。ニャルカは泣きながら、イノブタノオウに突撃する。


「ブモオオッ!」


 イノブタノオウは突撃してくるニャルカを作業のように吹き飛ばす。


 ――ニャルカ! 死んじゃ駄目なのだ。これはあたしの命令だ!


 ――我は死なんにゃ。


 ――でも、傷が。


 ニャルカはボロボロだった。いつ死んでもおかしくはないほどに。


 ――……ニャルカ、受け取って。


 いつも元気だった傲慢が悲しげな声を上げながらニャルカに炎を渡した。


「にゃ? にゃ?」


 ニャルカは突然自身の体が炎に包まれる事に驚く。


「なんかわからんが、力が湧いてきた!」


 ニャルカは炎を纏わせた石をイノブタノオウに向かって力の限り投げた。投げた石はイノブタノオウに到達する寸前に巨大化・・・する。


「ブモッ!?」


 巨大化した石はイノブタノオウに当たり、押しつぶした。


「にゃっはー! 倒したにゃ。それにしてもこの炎……。まさか我の隠された力!」


 ――違うのだ! 私の力なのだ!


「そうなのかにゃ? まあどっちでもい……い……にゃ」


 ニャルカは、地面に倒れた。目の前には、死神がいる。そんな気がしながら。




「ニャルカ、起きるのだ」


 ニャルカが目覚めると、そこは白く、どこか薄暗い空間。


「ここどこにゃ?」

「ニャルカの精神世界なのだ。古代兵器の持ち主は死にかけるとここに迷い込む」

「ふーん。お前はここに居たのか」


 ニャルカは自身の精神世界に居る少女、傲慢を見ながらそう言う。


「なのだ。それと、あたしはお前じゃないのだ。ルシファー。もしくはルシと呼ぶのだ」

「……ふーん。分かったにゃ。じゃあ、ルシ、遊んでやるからありがたく思え」

「あたしがあそんであげるのだー!」


 その後ニャルカとルシファーは精神世界でたっぷりと遊んだ。なかなか帰って来ないニャルカを街の大人達が探しに来て、倒れているニャルカを見つけて慌てて医者に運び込まれ、その日の冒険は終わった。



 ◇



「ニャルカ今からユニークスキルを発現しにいくぞ」


 ニャルカが父、冥王ニャストからその言葉を聞いたのは10歳になって間もない頃だった。


「聞いてにゃいにゃ」

「まあ言ってなかったからな。それと、リリナも一緒だ」

「にゃに!?」


 リリナというこの家の家政婦の少女の名前をだされ、ニャルカは驚きの声も上げる。ニャルカとリリナは同年代なので、一緒にやるのも納得出来た。


「そろそろ次の冥王候補が決まると騒がれておる。お前が冥王の可能性もあるからな」

「にゃに!?」


 ニャルカは次代の冥王になるかもしれないと言われ、喜びの声をだした。


 妖精族は基本的に戦いにむくユニークスキルを獲得する事がない。生産系や補助系が主だ。しかし数百年に一度、妖精族の中から『冥王』の名を持つユニークスキルを獲得する者が現れる。冥王の名を持つユニークスキル持ちが出たら冥王は世代交代し、次なる冥王へと代替わりするのだ。


「じゃあ、我こそが冥王にゃ!」


 ――冥王なのだ!


「気をつけろよ」


 二人はそう言って、ニャストに見送られながら妖精族の神父の元へと走った。その日、全てが変わると知らずに。




「ニャルカ、大きく成ったでしな」


 ニャルカにそう言ったのは妖精族の神父であるコロポックルのシロ。ダボダボの服を着てメガネを掛けた少年が神父だとはいささか信じられないが、妖精族の神父は彼以外居ない。


「にゃ! お前はまったく成長してないにゃね」

「失礼な。ボクだってつい最近ちょっと背が伸びた気がするのでし」


 ついでに言うと妖精族一の長生きで、一番のチビだ。


「まあそっちの魔法陣に乗るでし、リリナちゃんはちょっと待つでしよ」

「は、はい」


 ニャルカを魔法陣へ誘導し、後ろをついてきた家政婦の少女リリナに椅子を勧める。


「神よ、この者に祝福をするでし」


 神父のシロがそう唱えると、ニャルカは光に包まれた。


「えーと。ニャルカのスキル名はと…………」


 シロはそう呟きながら目の前に現れた光の画面を確認し、言葉を失う。


「……どうしたにゃ?」

「驚いたでし。まさか親子で冥王とは」

「まさか!」


 ニャルカはシロに詰め寄る。


「そうでし。【冥王の絶対波動】支配系のスキルでし。スキルの確認は目の前の画面でするでし」

「にゃっはー! 我が冥王なのは生まれた時から決まってたにゃ」


 ニャルカは自身が冥王だという事に大喜びする。いままで一人だったニャルカが他人に認められるチャンスが訪れた。だからだろう。ニャルカは、その言葉を信じたくなかった。


「……まさかでし。リリナちゃんのユニークスキルは【冥王の力】。こんな事ありえない。百年の内に二人の冥王が現れるなんて……」


 その言葉はニャルカの冥王への夢を叩きつぶす最初の一手だった。




 その夜、街の要人達が集まり、会議を開いていた。


「前代未聞だ。冥王の名を冠するユニークスキル持ちが二人現れるなど」


 この会議で最初に発言したのは妖精族一の八百屋であるノームの男。


「それは分かっている。どうする? 二人を冥王にするか、一人だけ選ぶか」

「……冥王が二人居たら混乱する。長が二人居るようなもんだぞ。意見の食い違いで冥王同士の争いに発展したら目も当てられない」

「だったら。どちらか選ぶか?」

「そうだな。それがいい」


 一人だけ選ぶ事が決定すると、次はどちらを選ぶかの話会いが行われる。


「神父、どちらのユニークスキルが強いと思う?」

「そうでしな。ニャルカは限定的すぎる。リリナちゃんは万能。というかボクがいままで見た冥王のスキルの中で一番強い」


 シロの言葉に要人達はざわつく。


「じゃあリリナで決定か?」

「ちょっと待つのだ」


 いままで発言しなかった現冥王ニャストが持っていたサカズキを置いて立ち上がる


「能力の説明だけで判断するのは早計だ。吾輩も一見弱そうだが強いスキルをいままで見てきた。両方くらべて見てから決めればいい」


 ニャストはそう言うと座って、サカズキの酒を飲み干した。


「ふむ、ニャストさんの言うとおりだな」

「試練をかして強い方を冥王にするか……いいな」

「では、三ヶ月間ユニークスキルを育てる時間を与え、その後森の中の魔物が棲みついている場所で戦ってもらう。どちらが強いかはすばしっこい者が影ながら見に行くというのはどうだろう?」

「おお。いいな」

「決定だ。それがいい」


 会議ではそう決まった。



 ◇



 ニャルカは修行し続けた。冥王の名にとりつれたニャルカはただがむしゃらに。たった三ヶ月でユニークスキルのLVを3まで上げたのは、ニャルカの才能だろう。しかしソレはニャルカの才能と努力をやすやすと越えていく。


「にゃあ……」


 ニャルカの目の前ではリリナがBランクの魔物をやすやすと倒していた。一方でニャルカはDランクのオークを一匹倒した程度。自分より下、家の使用人が主人を超える。それはニャルカの傲慢を、真っ向から叩きつぶしに来た。


「はっ! 『冥王の破壊』」


 リリナはさらにBランクの魔物を討伐する。リリナの【冥王の力】の効果は単純明快。かつて最果ての大陸の王であった冥王の力を使えるというもの。制限があり、使い勝手の悪いニャルカの波動より何倍も強い。


「我は冥王にゃ。……我が、最強にゃ!」


 ニャルカは傲慢に力を求めた。ただ、圧倒的な力を。ニャルカの傲慢は、つねに一緒に居た友達ルシファーを犠牲に力を手に入れた。強制同化という力を。


「グオオオォォオオァアア!!」


 ニャルカの身体はふくれあがり、3mを越える巨体の化け猫へと変化する。その瞳には、理性の色はなかった。ニャルカはあたりの魔物を蹴散らしながら森を進み、妖精の街へと向かう。




「グニャアアアアァァアアアッ!!」


 ニャルカは街を破壊する。ただ破壊する。なにを考えているかも分からない。ただ、破壊の限りをつくした。


「ニャルカーっ!」


 Sランク相当の化け猫になったニャルカを止められるのはたった一人。ニャルカの父である冥王ニャストだけだ。


「ニャアアアアッ!」


 じつの父であろうと強制同化したニャルカには関係ない。ニャルカは一撃でクレーターを作り出す拳を、ニャストに見舞った。



 ◇



「ギ……ニャアアァ」


 敗北。ニャルカは倒れた。傷だらけのニャルカを前に、ニャストは涙を流しながら止めをさそうとする。


「ニャルカ、許せ!」


 ニャストはニャルカの頭に槍を突き刺し――その瞬間ニャルカは縮み、ニャストの攻撃は空を切った。


「にゃあ」


 強制同化は普通解除する事は出来ない。ある証明をする事で解除は出来るが、普通は出来ないはずだ。ならばなぜニャルカは戻ったのか、それはニャルカの持つ膨大な魔力を使い、無理矢理強制同化を封じて元の姿に戻ったのだ。妖精族は膨大すぎる魔力と体質で魔法を使う事が出来ない種族。多すぎても宝の持ち腐れだが、ニャルカの場合はそれで救われた。


 しかしニャルカは唯一の友を失い、冥王の資格は剥奪され、ただの独りぼっちのニャルカとなった。

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