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爆虫の召喚士  作者: 天野 雪人
第九章 果てなき夢編
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第百三十二話 妖精達の住む街

 ゲートを潜ってまず目にしたのは森だ。神秘的な森が広がっており、あたりからは鳥達の声が聞こえる。


「ここが妖精の里?」

「まあそうにゃ。だけど、ここは妖精の森。妖精達はこの森を抜けたところに住んでるにゃ」


 ニャルカはそう言うと、尻尾を振りながら先を歩く。


「ここが妖精族が住む場所か。地図的にはどこらへんに位置するんだろうね」

「さあな」


 妖精族が住む場所は大陸のどこに在るかは分からない。大陸の外だとか天空にあるだとか言われてはいるが結局のところ真偽は定かではない。


「……最果ての大陸」

「ん?」


 先頭を歩くニャルカがふとそんな事を言う。


「妖精の里、冥界は最果ての大陸にあるにゃ」


 ニャルカはそう言うと、近くに生えていたねこじゃらしの様な物を持って先を歩く。


「最果ての大陸……か」


 大陸から遙か海を越えた先にあると言われている最果ての大陸。その大陸を冒険家カーズールはこう言った『あそこは地獄だ』と。しかしなにが地獄かは明かされていない。


「にゃ。そろそろにゃ」


 ニャルカの声に前を向くと、そろそろ森から抜けそうだった。




 森を抜けて最初に目にしたのはのどかな街。小さな家々が立っており、子供の背丈に羽が生えたピクシー。二足歩行で歩く猫ケット・シー。ピクシーより小さな背丈のコロポックル。それらの妖精達がのどかな街なみを闊歩していた。


「変わってないにゃ」


 ニャルカはそう言ってズンズンと進んで行く。俺達もそれについていくが、少し違和感があった。


「視線?」


 妖精達は俺達人間が珍しいから見ているのかと思ったが、どうも違う。妖精達の視線はすべてニャルカへと注がれていた。


「もしかしてニャルカさん?」

「そうかもそうかも。帰って来た?」

「知らせなきゃ。冥王さんに知らせなきゃ」

「あのやんちゃが帰って来た」


 耳をすますと、妖精達からはそんな会話が聞こえた。


「ほらいくにゃよ」


 耳が良いニャルカには妖精達の会話が聞こえているだろうが、特に反応を見せずズンズンと街並みを進む。


「ニャルカさん変なの連れてる」

「赤いのと銀色のと黒いの。黒いのはアホの気配がする」

「銀色は苦労人のにおい。女みたいだけど男」

「赤いのはケチんぼ!」


 おい今なんつった。


「きゃっ。赤いの怒った」

「赤いの怒りの気配」

「赤いの顔も赤い。シュナを掛けたリンゴみたい」


 どうシメようか考えたが、馬鹿らしかったから子供の戯れ言と処理しよう。


「赤いの無視した」

「赤いの変人」

「赤いのも黒いのみたいにアホの気配」


 やっぱシメようか。


「ほれ、こっちにゃ」


 どうシメるか考えていると、ニャルカがそう言って一際大きな家の前で止まった。


「これが我の実家」


 ニャルカに紹介された家は周りの家より数倍ほど大きく、ほぼ街の中心に位置している感じだ。


「大きいね」

「ニャルカって偉いのでござるか?」

「もちろんにゃ。我の父は冥王だからにゃ」

「「えっ!?」」


 冥王。妖精族最強の存在であり、英雄。数百年前、妖精の里に進軍した人間の軍を一瞬で蹴散らした話は有名だ。


「まあそういう事! 入るにゃよ」


 少し驚きながら俺達はニャルカの案内の元、巨大な豪邸へと入った。



 ◇



「忙しい忙しい今日もいそが……」


 ニャルカの家に入ってまず目にしたのは家政婦の格好をしたピクシーの少女。その少女は入ってきた俺達を見て、目を丸くする。


「え? ニャルカ?」


 少女はそう呟き、持っていた物を落とす。


「……め、冥王さま~!!」


 少女はそう叫ぶと、家の奥へすっ飛んで行った。


「あいつもあわてんぼうだにゃ」

「誰だ?」

「まあ我が家の使用人にして次期冥王」

「「え!?」」


 次期冥王? あの家政婦みたいな少女が? というか冥王って代替わりするんだ。そういやニャルカは元冥王候補とか言ってたし代替わりするのか。


「ほら行くにゃ」


 ニャルカはそう言って玄関から廊下に上がり、ズンズンと進んで行く。放心していた俺とエルも追いかけ、ニコニコしてのほほんとしている桜もついてくる。


 洋風だが、どこか和の雰囲気を持つ長い廊下を進む。少し進むと、ニャルカは一つの引き戸の前で止まった。


「にゃあ!」


 ニャルカは声を出して気合いを入れると、引き戸をおもいっきり引いた。


「……帰ってきたにゃ」


 ニャルカはそう部屋の中にいるケット・シーに向かって言い放つ。部屋の中に居たケット・シーはニャルカの声を聞いて振り向く。


「やっとか。ニャルカ!」


 部屋の中に居たケット・シーはにやりと笑い、ニャルカに向かってそう叫んだ。



 ◇



「お、お茶です」

「あ、ども」

「ごゆっくり~」


 家政婦の少女は五人分のお茶を置いて部屋をそそくさと出て行く。


「…………」

「…………」


 ニャルカと部屋の中に居たケット・シーは向かい合って睨みあう。


「…………」

「…………」


 二人は沈黙しながら睨みあう。


「…………」

「…………」


 二人は睨みあ……。


「……いいかげん何かしゃべれやっ!」


 この空気に耐えられなくなった俺は、ハリセンを取り出して二人のケット・シーの頭をおもいっきりひっぱたいた。


「い、痛いにゃ」


 ニャルカは叩かれた頭を抱えて涙目で俺を見てくる。


「うむ。たしかに痛かった」


 もう一人のケット・シーも平気そうな顔をしているが、目にはうっすら涙が溜まっていた。


「俺は沈黙が痛かった」


 ハリセンをしまい、元の場所に座る。


「……ゴホン。まず、そちらの方に自己紹介をしようか。吾輩の名はニャスト。ニャルカの父であり、“冥王”と呼ばれている」


 予想通りこのケット・シーはニャルカの父だったようだ。ニャルカより一回りほど大きいが、40㎝ほどしかない。が、右目には大きな傷があり、歴戦の猛者を感じさせる。冥王と呼ばれても納得出来る。


「俺はニャルカの仲間のバベルです」

「おなじくボクはエルフィルです」

「せっしゃは桜でござる。ニャルカのお父上殿、強いでござるな」


 三人がそれぞれ自己紹介すると、ニャストさんは湯飲みを持って中のお茶を飲み干す。


「まあ、よう帰って来たな。三年ぶりに帰るとは。馬鹿息子が」

「今度は一年に一度は帰るにゃ。我は強くなった。三年前のようには負けん。クソおやじ」


 二人は闘志をむき出しに睨みあう。俺は、このようなニャルカを始めて見たかもしれない。


「まあ、ゆっくりせえ。寝る時はニャルカの部屋で寝ればいい」


 ニャストさんはそう言って立ち上がる。そのままヒョコヒョコ歩きながら部屋を出て行った。


「……さて、行くにゃよ!」


 ニャルカはそう言って、立ち上がる。


「どこ行くの?」

「我の部屋にゃ」



 ◇



「変わってないにゃ」


 ニャルカに案内された部屋は清潔感のある広い部屋。机に寝具、最低限の家具しかないこの部屋がニャルカの自室だとは考えづらい。


「……ここがニャルカの部屋?」

「そうにゃ。適当にくつろいでいいにゃ。街に出てもいいけど、通貨は違うから買い物は出来ないにゃ」


 ニャルカは部屋の中にあった椅子に座る。妖精族が住む家にしては広く、天井が高い為俺達も普通に過ごせそうだ。


「……これは我の一人ごとにゃ」


 椅子に座ったニャルカがふとそんな事を言う。


「聞きたくなければ聞かにゃくていい」


 そう言ったニャルカの目はどこか遠くを見ていた。


「我はずっと一人だった――」

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