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爆虫の召喚士  作者: 天野 雪人
第九章 果てなき夢編
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第百三十一話 妖精の里へ

「里帰りしたいにゃ!」


 ニャルカがそう言ったの春が近づき、気温が高くなってきた日の事だった。


「里帰り?」

「我が故郷を出てから三年ほどが経ったから、そろそろ帰るにゃ。シュナの粉も切れてきたし」


 そういえば俺はニャルカの故郷の事をあまりしらないんだよな。過去もほとんど聞いた事がないし。それにしてもニャルカの顔つきはただ故郷に帰る者の顔つきじゃない気がする。なにか覚悟を決めたような……。


「いいんじゃないかな。妖精族の住む場所なんてなかなか行けるものじゃないよ」

「そういえばそうだな」


 妖精族が住むといわれている妖精の里(またの名を冥界)はどこに在るか分からない。稀代の冒険家カーズールによるとこの大陸の各地に妖精の里に繋がるゲートが存在し、妖精族のみがそのゲートを開く事が出来るという。


「その妖精の住む場所とやらは近いのでござるか?」

「にゃー。砂漠の国には三つゲートが在ったハズにゃ。たしか“砂海”とかいう所に一つ。後は忘れたにゃ」


 忘れたとはニャルカらしい。


「砂海かー。あそこはAランク冒険者推奨の危険地帯だから、大丈夫だね」


 Aランクとなった俺達なら砂海に立ち入る事が出来るってこの前Aランク冒険者の説明会で聞いた。


「砂海だったら一日以内には着くハズだよ」

「そうなんでござるな。じゃあ行くでござる」


 俺達はニャルカの里帰りの為に、砂海へと出向くことになった。


 ――バベル。分かっているとは思うが、油断は禁物だぞ。


 ――ああ。危険地帯に行くんだ。しっかり準備するよ。



 ◇



 ――翌日。


 思い立ったら速行動がうちのモットー。行くと決めた日に準備を整え、次の日には行くのが俺達だ。いや行くと決めたその日に行く事もあるし今回は遅いほうだろう。


「よし、集まったね。じゃあ行くよ」

「「「おー」」」


 砂海に行くためには歩いて行くか、ガルハ王国特有の砂馬車というものに乗らなければならない。もちろん危険地帯行きの砂馬車なので料金は高いが、砂漠で迷った経験があるから大人しく砂馬車に乗って行く。


「結構広いね」


 砂馬車の内部は結構広い。人が十数名乗っても大丈夫そうだが、中には三人しか乗っていなかった。武器を持ち、ベテランの風格を持つ冒険者が二人。そして、何の特徴もなさそうな男だ。


「じゃあ出発するぞー!」


 御者台から声が聞こえたと思ったら、砂馬車は進み出した。


 砂馬車は砂漠をすべるように移動する。ガルハ王国だけに生息する特殊な馬に引かれた砂馬車から外の景色を見ていると、なんの特徴もない、見たらその他Aと処理してしまいそうな男が話しかけてきた。


「こんにちは」

「あ、こんにちは」


 ニコニコしている男の挨拶にエルが返す。


「暑いですね」

「そうですね」


 砂漠は暑いが、俺達はだいぶなれた。しかし男の人は汗をかいていて、慣れていなさそうだ。


「えーと。冒険者ですか?」

「いいえ。魔法使いですよ」


 エルの問いかかけに男は魔法使いと返す。


「一度ガルハ王国に来てみたくて、暇が出来たから来たんですよ」

「なるほど」


 その後も男とエルの世間話が続いた。




「……“火炎流星群”」


 十分ほど会話を続けていると、男が小さく呟く。


「なにか?」

「いえいえ。気にしないでください。少し虫が居ただけですから」

「そうですか」


 男とエルが会話に戻ると、御者台の方から御者の呟きが聞こえて来た。


「……今日は魔物見ねえな」


 危険地帯“砂海”。そこに向かう者はだいたい高ランク冒険者だ。なので、砂海行きの砂馬車にはあるルールが存在する。魔物が出現したら乗客がそれを退治する、というルールだ。しかし俺も景色を見ながら進んでいるが、一行に魔物の影が見つからない。


「まあラッキーって事か」


 御者はそう呟いて、砂馬車を進めた。



 ◇



「ほら着いたぞ!」


 数時間ほど砂馬車に乗っていると、御者台からそんな声が聞こえてきた。


「砂海だ。お前達がなにしに行くかしらんが、死ぬなよ」


 砂馬車を操っていた御者のおっちゃんはそう言うと、砂馬車に乗って帰って行った。その後、まず二人の冒険者の男はこちらに何も言わず、砂海に立ち入る。


「じゃあ気をつけてくださいね」


 砂馬車の中でエルと会話していた男もそう言うと砂海に向かった。


「それで、妖精の里へのゲートはどこにあるの」

「えーと。ちょっと待つにゃ」


 エルがニャルカにゲートの場所を聞くと、ニャルカは頭を抱えて考える。


「確かあっちにゃ」

「砂海に入る前にしっかり準備するぞ」

「そうだね」


 エルは呪われた短剣を取り出し、ミスリルナイフも構える。気合いで、常人が一生動けないほどの怪我を一週間で治した桜はすでに準備万端。


「じゃあ我も」


 ニャルカは同化した猫耳少女の姿に変化する。


「そういやニャルカは魔力の残量とか大丈夫か? 炎を生み出したりしたら魔力を消費するだろ」


 一応古代兵器には魔力を生産する機能が取り付けられているそうだが、かなり繊細でメンテナンスをしっかりしないとすぐ壊れると聞く。ニャルカの古代兵器も多分壊れているだろう。


「にゃ? ぜんぜん大丈夫にゃ。足りなきゃ我の魔力を使うまで!」

「ん?」


 たしかニャルカの魔力は妖精族にしてはものすごく少なく、数値にして1500ほど。俺の今の魔力が2000ほどだから俺より少ない。


「ふっ。我の魔力は“傲慢”に因り封じられていた。今の我は全盛期の魔力を取り戻した!」

「で、どれぐらいなんだ?」

「さあ。昔魔力を計る機械をぶっ壊しちゃったし、十万以上はあるかにゃ?」

「なっ!?」


 魔力十万。人の範疇を超えている。いや妖精族としても多すぎる。妖精族の魔力は平均として五万と冒険家カーズールの冒険記には記されていた。ニャルカの魔力は普通の妖精族の二倍。マモンすら越えている。


「まあ、元冥王候補はだてじゃないにゃ!」


 ニャルカはそう言うと、ぴょんぴょんと跳ねながらここから先砂海と書かれた看板を越えて砂海へと入っていった。



 ◇



 Aランク冒険者推奨の危険地帯“砂海”の名はだてじゃない。砂漠でもっとも魔物が生息する場所に踏み入れた数分後に地中から人食いワームが数匹出現し、襲いかかってきた。


「おら爆虫!」


 出てきた人食いワームはロケット型の爆虫で退治する。幸い耐久は低いようで、Dランクの人食いワームは爆散した。


「バベル君、二時の方向に砂土竜が居る!」

「バベル殿! からすでござる。でっかいからす!」


 砂海をゆうゆうと泳ぐBランクの魔物砂土竜(すなもぐら)。砂漠の空をはいかいする死灰鴉しはいがらす、などの出現を確認すると同時にさまざまな方向から魔物が多数出現する。


「ええい討伐するぞ!」

「にゃ!」


 桜が死灰鴉を斬り、エルが砂土竜ののど元を斬って討伐するが、魔物の出現は一行に収まる気配がない。


「き、切りがないよ」

「ああ。さすが砂漠でもっとも魔物が生息する地。しょうがない。逃げるぞ」

「はいでござる!」


 でかぽんver.2を召喚し、一斉に乗り込む。追いかけてくる魔物に置き土産的に手榴弾型の爆虫を放り投げ、なんとかその場から離脱した。



 ◇



 魔物が現れては討伐したり逃げたりし、自然災害が襲ってきては戦略的撤退を決め込み、ニャルカの案内の元、俺達は砂海を進んでいた。


「たしかここら辺だと聞いたにゃ」


 ニャルカに案内された場所は岩場になっており、入り組んだ岩場の中央にニャルカは向かっていく。


「んにゃ? 多分コレにゃ!」


 ニャルカの進んだ方向に行くと、岩場の中央に捨てられたような錆びた鉄の扉の枠があった。


「これが妖精の里へ行く為のゲートか?」

「そうにゃ。べつに妖精族しか開けられない特別な扉でもにゃいんだけど……」


 ニャルカは猫耳をピコピコさせて辺りの様子を探る。


「誰もいにゃいな。じゃあ行くにゃよ」


 ニャルカはそう言うとゲートの枠に手を付け、目を瞑る。ニャルカが手を付けた数秒後、ゲートは紫色の光りを発し、なにも無かった扉の枠の中に紫色の膜が現れた。


「わっ。凄い」

「神秘的でござるな」

「確かに凄い。これは……」


 ゲートから発される魔力は尋常じゃない。賢者の遺跡で見た魔道具並の魔力を発している。


 ――たしかこれはマスターが創った物だな。


 ――大賢者がか?


 ――ああ。昔は妖精の里へ行く手段が一つしかなかったから、マスターが妖精族達の要望で創ったんだ。


 ――なるほど。


 今現在の技術では創れないこの扉を見ると、大賢者の凄さを実感する。


「誰か来にゃいうちに行くにゃよ」

「うん」

「と、そのまえに」


 ニャルカはゲートの前で立ち止まり、元のケット・シーの姿に戻る。


「じゃあ、レッツゴーにゃ!」


 俺達はニャルカを先頭にゲートを潜り、妖精の里へと立ち入った――



 ◇



「彼らが果てなき夢ですか」


 砂海のとる場所。そこでそう呟いたのは砂馬車でエルと会話をしていた男だった。


「なにか。不思議な人達だ」


 男はそう呟くと、砂海を進む。その場を一歩進むと、地中からなにかが飛び出した。


「グオォオオオオォォオッ!!」

「……竜か」


 出現したのは砂海の最奥に出現するSランクの砂竜サンドドラゴン。Aランク冒険者であろうとも遭遇すれば死を覚悟しなければならない魔物を相手に、男は平然とする。


「お金稼ぎにはなりそうですね。“水流落とし”」

「グガアァアアァアッ!!」


 男が詠唱をせず魔法を使うと、天から大量の水が降りそそぎ、砂竜を攻撃する。砂竜は悲鳴を上げるが死にはせず、怒り狂って男を攻撃する。


「“土の守護壁”からの“火炎風撃”」


 砂竜の攻撃を土魔法で防御し、そのまま火と風の複合魔法で砂竜に止めをさした。


「それに、バベルさんか。とても良い魔力をお持ちのようだ」


 男は砂竜の事を忘れたかのように独り言を言う。


「キウの言ったとおりだ。さて、じゃあ魔法の実験でもしますか」


 男はそう言って、魔法を発動する。彼は世界最強の魔法使い“魔導王”。世界でただ一人四つの属性に適正を持ち、自力で魔力をみる目を獲得した天才魔導王は、しずかに砂海を破壊するほどの魔法を発動した。

魔導王は第七十三話で名前だけチロリと登場しています。

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