第百二十四話 都市の各地で
少し時はさかのぼる。
「せ、先生! なんですかあの爆発は!?」
「先生じゃない! 冥王様と呼べ!」
「イ、イエス・サー。冥王様!」
爆発があった直後、ニャルカはカレー屋にて亭主に辛さとはなんたるかを説いていた。
「にゃにかあった事はたしか。なら、この冥王ニャルカ様にまかせるにゃー!」
「冥王様-。助けてー」
ちょうしにのりまくるニャルカと慌てまくるカレー屋の亭主は、一旦外に出て様子をうかがう。
「冥王様。どうやらなにかあったようです。あっちの方に煙りが」
「ふむにゃるほど……これは……」
ニャルカの耳にはあちこちで上がる悲鳴に泣き声。そして戦闘音が聞こえていた。
「……強いにゃ。……しかし! 我なら大丈夫」
根拠のない自信でニャルカはドヤ顔になる。
「冥王様。どうしますか?」
「よし、我がちょちょいと解決してくるからお前は美味いカレーでも作っているにゃ!」
「イエス・サー」
ニャルカに調教されたカレー屋の亭主はイエスしか言葉が残されてないのかもしれない。
ニャルカは耳を澄ませて、どこで戦闘が起こっているか探る。さまざまな場所で悲鳴や歓喜の声が聞こえる事から、かなり大きな集団だとニャルカは察した。
「どこいくにゃか」
いつもなら取りあえず突っ込むニャルカも、今回は考える。
「む! あっちの方に大きな集団が居る予感にゃ」
やっぱりニャルカはよく考えず、もっとも敵が集まっている地帯へと走った。
◇
ニャルカが向かった先に居たのは人なららざる者。
「あれはゾンビにゃ?」
ニャルカが向かった先に居たのはいわゆるゾンビ。その服装は普通の市民のものだ。
「人をゾンビに変える。……ユニークスキルかにゃ?」
ニャルカは物陰からゾンビに占拠された通りを見る。ただ通りをうろつき、生気のなくした目で命令通りに動くゾンビは見ていて気持ちの良いものではない。
「にゃ~。どうするかにゃ~」
「あ゛ぁ」
ニャルカが突っ込むか乗り込むか考えていると、後ろから肩を叩かれる。
「うるさいにゃ。我の邪魔をするにゃ」
後ろの存在は無視して、ニャルカはいかにして格好良く乗り込むかを考える。
「あ゛……あ゛ぁ」
「にゃ~ しつこいにゃね」
何度も何度も肩を叩かれるので、呆れた表情でニャルカは振り向く。
「…………ぇ?」
「あ゛ああ~」
そこに居たのはゾンビ。反応してくれた事に嬉しそうに声を上げて、ゾンビは口を開ける。
「で、でたにゃ~!!」
ニャルカは近くにあった棒でゾンビをおもいっきりひっぱたく。しかし、先ほどの大声で通りに居たゾンビの目線はニャルカへと向かっていた。
「……ちょっとマズったにゃ」
小動物のような敏感さで危険を察知したニャルカは、ゾンビから追いかけられる前にこの場を逃げ出した。
「こ、これは逃げているのではにゃい。戦略的撤退にゃ」
猫の俊敏さに足の遅いゾンビ達は追いつくことが出来ず、みるみる内に距離を離される。しかし、ゾンビ達はニャルカより頭が良かった。先回りという考えで、あっという間にニャルカを包囲する。
「くっ。先回りとはなんて卑怯な奴らにゃ」
一瞬で逃げ出した猫が言うセリフではない事はたしかだ。
「「「「あ゛あ~~~~!!!」」」」
四方八方からやってくる大量のゾンビ達に、さすがのニャルカも肝を冷やす。
「少し追い詰められたけど、我を怒らせたのが運の尽き。冥界七大魔道具“邪気払いの杖”」
ニャルカががまぐち型魔道具から取り出したのは幽霊屋敷を探索した時に少し登場した自称冥界七大魔道具“邪気払いの杖”だ。
「滅せ!」
ニャルカが一言叫ぶと、杖から光が周囲に放たれ、降りそそぐ。
「あ゛あ゛!!」
その光に当たったゾンビ達は悲鳴を上げ、体が煙りとなって消えていく。
「冥界の秘宝を舐めるにゃ!」
バベルがニャルカのおもちゃと断じた杖は、周囲のゾンビ達を天へと帰した。
「……ああ。ゾンビ達がやられちゃったか」
そう呟いたのは。金髪の男。男は屋根の上から、ニャルカを見下ろしていた。
「誰にゃ!」
「猫ちゃんは、僕がじきじきにお相手しよう」
金髪の男は屋根から飛び降りて、ニャルカの前に立つ。
「我は冥王ニャルカ! 我がお相手するんだ。光栄に思え!」
「冥王?」
金髪の男は冥王という単語に眉を上げる。冥王といえばそのすじでは有名だ。妖精族最強の存在を六大盗賊団、死霊団のトップが知らないはずがない。
「本物の冥王なら僕も本気をださないとね。僕は死霊団のボス、ライオネル。お相手願おう冥王くん」
とある通りでは、死霊団のトップ、ライオネルと妖精族のニャルカの戦いが始まった。
◇
場面は変わり、とある広場ではエルが眉をひそめていた。
「罠だらけだね」
爆発音の元へ向かったエルに待っていたのは罠だらけの広場。一見何の変哲もない広場だが、エルの目には罠だらけの危険な広場に見えた。
「あ~。来たのか~。マジ怠いっすわ~」
その広場の中央には、地べたに寝転ぶ猫獣人が一人。
「さっきの爆発は……」
「もちろんオラッチっすよ~。マジ怠い」
猫耳をピコピコ動かしながら、半目の猫獣人は怠そうに答える。
「なにが目的だい?」
「目的言われてもオラッチは婆ちゃんについてきただけだし~。とりあえず爆発起こしたら寝てて良いって言われたかきたっすよ~。怠」
半目の猫獣人はあくびをしながら答える。
「よく分からないけど、さっきの爆発が君なら捕まってもらうよ」
「そすか。この罠地帯を抜けられたら相手してあげるっすよ。あ~。怠」
魔法都市マルカーニャの各地で戦闘が勃発した。六大盗賊団VS魔法都市マルカーニャの戦いはまだ始まったばかり。




