第百二十三話 桜VSライカ(死霊団福団長)
バベルが影を纏った男と相対していた頃、桜は迷っていた。
(どうするでござるか。バベル殿達と合流する? それとも悲鳴の上がった方に行くでござるか?)
仲間と合流すると考える一方で、合流するあいだに都市の人達がどうなるのか分からない。さきほどの爆発音と悲鳴から、よからぬ事が起こっているのは確かだ。
(……バベル殿達ならなんとかするでござるな)
桜は仲間達ならなにが起こっても大丈夫と考え、悲鳴の上がっている方向を向く。
(うっ。どこに行くでござるか)
悲鳴はあちこちから上がっている。さすがに桜の体は一つ。全てを助ける事は出来ない。
(しょうがないでござるな)
ここで迷っていても仕方ないと桜は判断し、もっとも悲鳴の上がっている方向へと全速力で駆け出した。
◇
「なんでござるか。これは……」
桜が向かった先は住宅街であり、あたりの家には火が放たれている。燃えさかる家々に泣き声。そして、その中央で高笑いする男が一人。
「おっ! 武器を持った少女か。いいねえ~」
男は後ろで見ていた桜を首だけ傾けて見つめる。
「この惨状は貴様が!」
「そうだよ~ん」
男はケタケタ笑いながら答える。
一方で、桜は目の前の男に警戒していた。
(強いでござる)
強さは桜がいままで出会った中でも屈指。Aランク中位ほどと予想する。
「俺は死霊団ってとこで福団長してるライカっていうんだけど、侍少女はなんていうの?」
「貴様に名乗る名などない!」
会話をしながら、桜は正々堂々戦うという選択肢を捨てた。相手の強さは下手すれば自身以上。そして、敵のユニークスキルも合わせればまず正面から戦っても勝ち目は薄いと考える。
(ここは住宅街。……ゲリラ戦でござるな)
あたりには火が放たれているとはいえ、家々が乱立している。充分ゲリラ戦に都合の良い地理だろう。
いままでの桜なら正々堂々戦っていただろう。これも、バベルの影響を受けたといえる。
「ふ~ん。教えてくれないのか。……まあいいや。すぐ言いたくなるさ」
そういうと、目の前の男、ライカは目つきを変える。
(来る!)
そう直感的に感じた桜は、限界の速さで建物の乱立している住宅地へと走り出した。
「あれ~? 逃げるの? ……まあいいや。鬼ごっこも、早く終わっちゃつまらない」
ライカはそう言って、桜が消えた方向へとゆっくり進み出した。一歩一歩しかしそれはしっっかりと桜の居る場所へと向かって居る――――
◇
「大丈夫でござるか?」
桜はがれきに埋まった人を助け出す。
「はあはあ。た、助かりました」
「礼はいいでござる。それより、逃げるでござるよ」
「あ、ありがとうございます」
がれきに埋まっていた人物はそう言って、火をさけるように住宅街の出口へと逃げて行った。
「ここらの人は助け終わったでござるな」
桜は燃えさかる住宅街を走りまわりながら、人々を助けていた。追いかけてくるライカの気配を感じたら逃げながら、ここら一帯の人々は助け終わった。
「……さすがにいつまでも逃げてはいられないでござる」
桜の手元には夜桜が一本。それ以外はお金ぐらいしか手元にない。
「……不意打ちでござるな」
桜はそれしかないと判断し、追いかけてくるライカの背後をとるように動いた。
「ん? どこ行ったのかな?」
一方ライカは、桜の気配を完全に見失っていた。
「少し悠長にしすぎたかな~?」
ライカはそれでも慌てず、一歩一歩進む。
「……ユニークスキル――『雷足』」
突如ライカの身体は雷となり、その場からかき消える。その一秒後、桜がその場所に向かって夜桜を振り下ろした。
「なっ!?」
「はっはっは。バレバレだぜ」
ライカは桜の後ろに移動して、唖然とする桜に言い放つ。
「俺の能力は雷となる事。俺の速さには付いて来れん」
桜は背後の刀を振るうも、雷となったライカには当たらない。夜桜は空を切り、ライカは数mの距離に移動していた。
(雷の速度。流星よりは遅い。だけど、ここでは……)
ライカは速いが、光と同じ位速いと言われている流星には敵わない。しかし、ここは燃えているとはいえ住宅街。人も居るかもしれないし、広範囲攻撃の“桜雲”は使えない。
「くっ!」
それでも桜は攻撃をする。奇跡的に当たる事に懸けて。
攻撃を繰り返す内に、桜はライカのある違和感に気づいた。
(攻撃してこない?)
ライカは攻撃してこなかった。こっちから攻撃しても、相手は攻撃してこない。かなりの違和感だ。
(攻撃は出来ない? いや、そうなると住宅街に燃えている火の説明がつかないし、速くなるだけというほど弱くもない気がする)
感じたライカの強さから考えても、かなりの強さを持っている。ユニークスキルを使わずとも、生身でかなり強い事を桜は察していた。
(ユニークスキルの制限でしょうか)
ライカの違和感を感じながら、しかしどうしようもないと考え、桜は攻撃を続ける。
◇
一方で、ライカは焦っていた。
(まさか心を折らずに攻撃を続けてくるとは。スキルの切り替えが出来ないじゃないか)
ライカは桜にユニークスキルは雷となる事だと説明したが、それはブラフ。ライカの本当のユニークスキルは【能力模擬LV9】だ。これは、他人のユニークスキルを三つまでコピーして使用出来るというもの。しかし、制約もある。一つはコピーしたユニークスキルのサブスキルと必殺スキルは使えないという事。そして、一度に使えるスキルは一つまで。いまはユニークスキル【雷足LV6】を使っている為、残り二つのスキルは使えないのだ。
(どうしよう。……必殺スキルを使おうか。……でも持ったいない)
ライカのユニークスキル【能力模擬】の必殺スキル『二スキル同時発動』はコピーされたスキルを二個同時に使えるというもの。それを使えば『雷足』を残したままで攻撃系のスキルを使える。
(……オレの仕事はここに火を放った時点で終わっているし、このまま必殺スキルを使って少女を叩きつぶしたらゆっくり休むという選択肢もある)
ライカは桜の攻撃を避けながら考え、結論をだす。
(決めた。下手に援軍でも来るとやっかいだし、ここで潰そう。もしかしたらいいスキルでも持ってるかもしれないしコピーしようかな)
ライカは一瞬でそう考え、桜の攻撃が当たらない場所まで一旦下がった。
「ごめんね~。オレもめんどくさくなったからそろそろ君を叩きつぶすよ」
桜はその言葉を聞き、辺りも警戒する。
「ユニークスキル『炎使い』」
ライカの発動したスキルは炎を操るスキル【炎使いLV7】とあるAランク冒険者からコピーしたそのスキルは、強い。
「いくぜー。“炎弾”」
ライカが炎を操って炎の弾を無数に作り出す。ライカの周りに浮かぶ炎の弾は、桜に向けて一斉に放たれた。
「っっ!」
超人的な能力によって、桜は夜桜で炎の弾を斬る。桜に当たるであろう弾は斬りさかれ、空中に散った。
「ふーん。炎を斬るね」
ライカは飛んできた斬撃を避けながら呟く。
「じゃあ、これならどうかな」
ライカが作り出したのは、一mを越える炎の弾。それを三つだ。
「やれ!」
炎の弾は桜を狙って三つ同時に飛んで行く。桜は一つ目の弾を切り裂き、効率が悪いと察すると、残りの弾は避けた。それは後方の民家に激突し、消えていく。
「ふーん。まあいつまでもつかな~?」
ライカはさらにでかい炎の弾を大量に作り出しながら言った。
◇
(……やりますか)
桜は今が攻め時だと判断する。ライカは攻めることに夢中で、雷足を使っていない。今なら隙を見て倒す事も可能かもしれない。
「……ああ! 本当にしぶとい」
ライカは攻撃を避けまくる桜にイライラしている。それを見て桜は攻め時と決断した。
桜には秘密にしているサブスキルが一つある。化け物屋敷との戦いでユニークスキル【超人】がLV8になった時に手に入れたサブスキルだ。桜はそれを切り札とし、バベルにも話していない。試してみたのも一度切りで、その一度でこのスキルのデメリットを理解していた。
「……“サブスキル”『肉体解放』」
桜はそのサブスキルを使用した。
火事場の馬鹿力というのをご存じだろうか。切羽つまったときに、人間は信じられないような力を発揮する。サブスキル『肉体解放』は火事場の馬鹿力を意図的に引き起こすスキルだ。そして、人間の限界の能力を発揮し、さらに『超人』によってその能力は十五倍になる。
「まだです……『無敗の超人』」
さらに、桜は肉体解放で得た能力を、必殺スキルを使って百倍にした。
「がっ……はぁはぁ」
それは桜の限界。火事場の馬鹿力を意図的に引き起こすというのは、デメリットなしでは使えないスキルだ。サブスキル『肉体解放』は数秒使うだけで肉体が悲鳴を上げ出す。数分使えば、体がどうなるか分からない。
「……ふ~ん。なんか無駄な事してたみたいだけど、これで終わりだよ」
ライカとて桜の強化を見続けていた訳ではない。ライカは桜が強化しているあいだ、作っていた。強大な炎の玉を。
桜の上空に出現したのは5mを越える炎の玉。それは、静かに浮かんでいた。
「……太陽?」
「終わりだ“墜ちる太陽”」
空中に浮かんだ巨大な炎の玉は、桜をめがけて沈むように落ちた――
◇
――効かない。
太陽が落ちても、桜はそこに居た。
「……ぁ」
桜は手を握り絞め、ライカを睨みつける。
「なんだ! なんなんだ! ああ! うっとおしい」
ライカは炎の弾を放つが、桜はそれをパンチで消滅させる。
「――“超人の一撃”」
桜はただすべての力を込めて、ライカへと拳を見舞った。
「あ……ぁ……」
ライカは雷足を発動させる事も出来ず、後ろの燃えさかる民家へと吹き飛ばされる。
「はあはあ。やっぱ、しんどいでござるよ」
桜はただ一度のパンチですべてを消耗してしまった。体は悲鳴を上げ、歩く事も出来ない。桜は燃える住宅街に、一人で倒れていた。
「少し……やり過ぎたでござる」
もう少し、自分が傷つかないやりかたがあったかもしれない。しかし、桜にはこれしか思いつかなかった。自身の体を酷使するこの技しか。
――ガタっ。その音が聞こえたのは、桜が倒れてすぐだった。
「手こずらせる! しぶといしぶといしぶとい!!」
がれきをかき分けて出てきたのは血だらけのライカ。
「……! なぜ?」
「なぜか!? オレはな、生身でも強いんだよ~! まあ、『硬化』がなけりゃ危なかったがな」
ライカがなぜこうも早く立ち上がる事が出来たのか。それはコピーした三つ目のスキル【硬化LV7】このスキルは体を鋼鉄のようにして、守るスキル。ライカは『雷足』使わなかったのではない。もう一つのスキル『硬化』を使っていた為、使えなかったのだ。
「手こずらせたけど、もう終わりだ。最後はオレの手で殺してやる!!」
桜は倒れて動けない。一方で、ライカは血だらけだが動ける。そして、手元には錆びた剣を握っていた。
桜は懸命に動こうとするが、体が拒否する。少し動くたんびに体中に激痛が走った。
「死ねや!」
――その瞬間、桜は覚悟を決めた。死ぬくらいなら、体が動かなくなる覚悟を……。
桜は剣を振り下ろされる寸前に、あるサブスキルを発動した。
「“サブスキル”『狂った超人』」――




