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ストームドラゴン1

遅れてしまい、すみません。


 前日の眠りは浅かったがなんとか起床して出発の準備を整える。


 「さあ、山登りの始まりだ。」

 「「「・・・おぉーーー」」」


 小声で返事が返ってきた。

 まあモンスターに襲われたりしたくないから正解なんだが、締まらない出発である。

 そして野営場所から出発して山登りを開始。既に山の中というか麓ではあったが、そこから山頂を目指して行く事になった。

 気分は富士山の山頂を目指している観光客等という生易しいモノではなく、エベレストとかを目指す登山家のつもりである。

 今から登る山は雪山では無いし、標高もそんなに高く無いのだが、未開の山脈に近い状態だから歩くのにも苦労する。それに鬱蒼うっそうと生い茂る深い森の様な景色が延々と広がっているので、獣道のような道を歩く事になる。

 ベルヒエ山脈の時の登山経験があったから、俺はまだマシな方であった。

 問題は隠れ里の六人組である。


 「はぁー、はぁー、なんという険しい道なんですか。」

 「キッツイっす、流石ドラゴンの居る山っす。」

 「なんやねん、シャキッとせんか。」


 そう口に出してしまう程に疲労していた。

 疲労の理由はいくつもあった。単純に獣道を歩くだけではなく、道が通れなければ草や障害物を薙ぎ払い、崖があればよじ登り、行き止まりや先に進めない道も沢山あった。

 更に行軍の最中に、不規則に襲いかかって来るモンスター達。

 事前にウサ正宗が察知しているから不意打ちされる事は無いのだが、それでも緊張を強いられる。

 背の高い草や木々が視界を遮り、モンスターの襲撃をウサ正宗以外は事前に察知する事が出来ないのだ。

 何時襲われるのか分からないのは、結構なストレスになる。

 そんな訳で疲労困憊になる前に休み休み山登りをしていった。


 ゲームとは違い、安全地帯とか無敵エリアとか一切存在しないからな。

 ストームドラゴンと戦う以前に、山道を行くだけでもウサ正宗がサポートしてくれなかったら、既に参っている可能性が高い。

 ウサ正宗には感謝してるよ、本当に。


 しかし、隠れ里の六人を見ていると、以前の俺を見ている様で懐かしいというか、なんというか。

 こんな感じだったんだと改めて認識したわ。

 休憩中に地面で仰向けに倒れている者はいないが、疲れてクタクタになっているのが傍目にも分かる。木を背もたれにして座って休んでいたり、石に座って休んでいるのだが、一様に元気が無い。


 まあ、敵地のど真ん中だから俺も多少の緊張はあるけど、今は適度に力を抜いて、ウサ正宗が警告した瞬間に戦闘モードになれるようになったからそんなに疲弊していない。

 常に気を張って敵襲に怯えていたら、肝心の戦闘の時に疲れて動けませんでした、じゃあ話しにならないからな。


 「今はどの辺りだ?」

 「ようやく山の中腹と言った所でしょうか。

 ご主人様、皆の疲労が大きいのでこの辺りで長めの休憩を取り、昼食にしましょう。」

 「分かった。

 おーい、昼飯にするから集まれー。」


 俺がウサ正宗にそう答えると、あからさまに隠れ里の六人から安堵のため息が聞こえた。

 そしてPDSからドネルケバブもどきと水を取り出して、皆に配った。

 小まめな水分補給は重要だからな。


 夢中に昼食をほお張る隠れ里の六人の様子を見ながら、彼らにはまだストームドラゴン討伐は早かったかも知れないと、俺は考えていた。

 俺は登山が面倒でもストームドラゴンを討伐するという理由があるが、彼らには俺とウサ正宗に着いて行くという理由しか無いからな。

 正直安全地帯があれば、そこで待機してもらった方がいいかも。


 「なあ、ウサ正宗。

 この先ストームドラゴンと遭遇したらどうする?

 隠れ里の六人は、戦力としては正直使い物にはならないと思うが。」

 「そうですね、ご主人様。

 まだ彼らがドラゴンと戦うにはあまりにも未熟でしょう。

 このまま山頂でストームドラゴンと真正面からの戦いになれば、2名か3名は命を落とす事になるかもしれませんね。」

 「やはり、そうなるよな。

 しかし、置いて行くにも不安が残るんだよな。安全地帯とかは無さそうだし。

 この辺りのモンスターは飛行系のモンスターが多いし、ヘビとかイノシシとかもそれなりに襲ってきたからな。

 数で攻められたら、彼らだけでは全滅しかねない戦力だぞ。」


 渓谷で現れたグレートアウルとかも厄介なんだが、ヘビには毒を持っているのも居た。

 解毒薬が有れば問題無いが、俺が所持しているくらいで、他の者は持っていなかった。

 まあ、隠れ里の現状だと、解毒薬を製造出来る者が居なかったのかも知れないな。

 解毒草だけなら栽培出来そうだが、薬を製造するには調合の技能が必須なんだが、ラビッター族にはあるのか?

 ゲーム内では、ビンが無くても素材だけで調合してしまえば、何故だがビン入りの状態の薬が製造されるという不思議現象が起きたが、現実だと空瓶等の入れ物は必須である。

 空瓶は大量にPDSにストックしてある。

 弓矢用の調合素材として大量にストックしてあったのを、薬の容器として使っているのだ。

 試験管に似た容器は、透明なガラスや水晶の様な元になる材料が無いので作れない。

 だから、この空瓶はそれなりに貴重であるのだ。


 「・・・・そうですね、ストームドラゴンと直接戦うのは、ご主人様と私だけにしましょう。

 多少の危険は有りますが、戦闘中は里の六人は少し離れた場所でトラップの発動要員として待機してもらえばいいのではないでしょうか。六人も居れば広い面積をカバー出来ます。

 それにトラップを仕掛ける為の穴を掘る作業等は、人数が居る方が作業の効率が上がりますし。」

 「確かに、それが一番無難か。

 こんな山奥で適当な場所に残されるよりかは、俺達の近くに居た方がフォローしやすいしな。」


 そして彼らの配置が決まったので、一応集まって皆に説明する事になった。

 

 「お前ら六人は、ストームドラゴンとの戦闘時は別働隊として動く事になったので、取りあえずリーダーのジローとサブリーダーのテムジンにアイテム袋を渡しておく。食料と予備の武器なんかを入れておくので、確認しておいてくれ。

 今更だが、山で遭難した時や緊急時に備えて各自に回復薬や解毒薬なんかを分配しておく。

 薬のビンは特に壊れやすいので、容器の破損に注意して欲しい。」

 「「「分かりました。」」」


 それから作戦を説明していった。

 まあ作戦と言ってもたいしたものでは無い。

 ストームドラゴンの巣を発見したらどうするのかを説明しただけである。

 指定ポイントに幾つかトラップを仕掛けて、そこに誘導出来れば合図でトラップ発動。

 トラップを発動したら直ぐにその場を離れる事。

 待機中に他のモンスターが襲ってきたら命を大事にして無理をしない事。

 ストームドラゴンに発見されたら直ぐに逃げる事、ブレスが致命傷になるので気をつける事。

 万が一はぐれたら、合流ポイントを指定しておくので、遭難したらそこを目指す事。


 まあそんな事を説明していった。

 ウサ正宗が特に注意しておいたから、多分独断専行な事はしないハズだ。

 

 「後は、ストームドラゴンに不意打ちで遭遇したりしたら、頑張って初撃の風のブレスは散開して回避して欲しい。

 俺の周囲に居れば防御出来るかも知れないが、不意打ちでは全員をカバー出来ないかも知れないからな。

 全員をカバーして防御出来そうなら密集集合と合図するので、必ず俺にくっ付くくらい周囲に集まって来てくれ。」


 渓谷で襲撃されたからな。

 最悪、再び先制攻撃されかねないので、注意はしておく。


 「じゃあそろそろ出発しよう。

 まだ中腹だからストームドラゴンに遭遇するのは先かも知れないが。」


 そんな話しをしていたら、遥か上空を飛んでいる巨大な物体が木々の間から見えた。

 休憩していた場所は森の中なので上空の視界も悪いが、あの見覚えのある巨体はまさにストームドラゴン!!


 「みんな、静かに。

 通り過ぎるのを待とう。」


 小声で注意する。

 こんな場所では戦い辛いし、風のブレスの的になりかねん。


 それから五分程は緊張の時間であった。

 一応風のブレスの対策として、密集してアイギスを何時でも展開出来る様に構えていたが、徒労に終わった。

 だが、ようやくお目当てのストームドラゴンを目撃できて良かったかな。

 もうすっかり俺の与えたダメージも回復している様だ。


 「あれが俺達が狙う獲物だ。」

 「凄い、あんな大きいドラゴンは初めて見ました。」

 「やべーっす、マジやべーっすよ。

 あんなのと戦うんすか?」

 「ほ、ほんとに勝てるんですか?」


 今までの話しだけではイマイチどんな強さかイメージできていなかったのも大きいが、ストームドラゴンの現物を見るとどのくらいの脅威か体感出来たのだろう。

 結構皆ビビッて居た。

 まあ大きさに驚いているだけのジローは大物っぽいが。

 

 「飛んでいったのは、山の山頂か?

 いや、途中の洞窟っぽいな。

 どうやらあそこが住処っぽい。」


 木を登って実際に確認して見ると、自分が山のどの位置にいるのかよく分かる。

 山頂付近は岩山になっていて、植物があまり存在していない様だ。

 やはり強風や気象条件等が山頂は厳しいから、植物が生育しづらいのであろう。

 その山頂の手前くらいに、ぽっかりと大きな穴というか洞窟があるのだ。

 それこそドラゴンが余裕で通れるくらいのデカイ洞窟である。

 麓からは確認出来なかったのは、角度の問題であろうか。

 上空から観察していれば、一発で分かる様な洞窟である。


 「あの洞窟を目指して進もう。

 ここからは特に慎重にな。」

 「分かりました、ご主人様。」

 「「「了解です。」」」


 そして洞窟の目の前までモンスターに襲われずに辿り着く事が出来た。

 ストームドラゴンの気配が濃厚にする所為か、そもそもこの洞窟周辺には動物やモンスターは存在していない様だ。


 「どうするかな。

 このまま突入すると直ぐにストームドラゴンとの戦闘になるのか、それとも洞窟の奥深くで戦闘になるのかで、戦術が変わってくるんだが。」

 「このまま洞窟の前で待機して、罠に仕掛けるのはどうでしょうか?

 ここが出入り口ならばここで待っていればいいのでは?」


 ジローがそう提案してきた。

 うーーん、それは実に良い作戦だな。

 洞窟から出て来た所を打ち落として、ボコボコにする。

 速攻で倒せれば風のブレスの心配も無いし。

 そうするかな。


 「良い案ですね。

 ご主人様、その作戦が一番リスクが低いと私も思います。

 下手に洞窟に突入するよりも確実でしょう。」

 「だな、じゃあその作戦で行こう。

 ただし、初撃のトラップが失敗したり、事前に察知される事もあるかも知れない。

 念には念を入れて周囲に多めにトラップを仕掛けよう。」


 そして罠を仕掛ける為に、洞窟の入り口に向かって幾つかの罠を設置していった。

 他にも洞窟から離れた位置にも、失敗した時用のトラップや、城塞に取り付けて使う為の巨大ボウガンなんかも設置しておく。隠れ里に居る時に作成しておいたのだ。

 備えあれば憂いなしというから、事前準備が出来るならば、徹底的にした。


 トラップや戦闘準備が終わったら、指定の場所でそれぞれ待機する事になっている。

 だが、その日は洞窟からストームドラゴンが出て来なかったので、次の日に決戦は持ち込まれる事になった。



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