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隠れ里5

 ウサ正宗の訓練を開始してから一ヶ月が過ぎていた。

 この頃になると、一通りの里の住人達は栄養不足から抜け出し、かなりふっくらとしてきた。

 そうはいってもようやく標準体型になりつつあるというに過ぎないので、デブい訳ではない。

 この里の多くのラビッター族の危機は取りあえず抜けた。

 農業の生産も、俺が与えたミスリルコーティング仕様の農具があるお陰で効率が増して、食料が増産できるようになったのも大きい。

 後は里のラビッター族の戦士が継続して動物を狩ったり、モンスターを倒していける様になれば問題なかろう。


 里の戦士達と訓練生は非常に強化された。

 レベルもスキルも上がったし、集団戦闘を基本として教えていったので、生存率が上がったハズ。

 訓練の終盤には、六人でチームを組み、モンスター討伐を行ったのだ。

 危なくなれば、控えのチームがフォローすることになっているし、死の危険があれば俺とウサ正宗が介入してどうにかした。

 最悪死んでなければ回復薬でどうにかなるしね。

 以前はろくな装備も無く、あっても錆びた鉄の剣とか錆びた槍とか、ボロボロの死んでる装備でモンスターと戦ったそうだが、今は俺が作成したラビッター族専用の新品装備で戦っているのでかなり善戦している。ミスリル製の武器と、ロックドラゴンの素材を使った防具である。

 なかなか豪華な仕様の装備だったが、これくらい無くては、今後俺らが居なくなった時に困るだろうと考えて、良い装備を作成したのだった。

 御代を請求したら、とんでもない値段になるだろうその装備を、里の戦士達諸君は乱雑とまでいかないが、荒めに扱っていたが。


 ちなみに討伐するモンスターは、隠れ里近辺に出没するモンスターである。

 強くてヤバイモンスターとかドラゴンなんかは居なかったので、一通り倒していくことにした。


 「うらぁーー、死にさらせーー!!」

 「今だ!!全員攻撃しろ!!」

 「訓練に比べればこのくらい!!」


 そういって、里の付近の動物やモンスターを撃滅していった。

 なんだかウサギらしいラビッター族の可愛らしさなんかは、まるで感じない集団になってしまった様だが、戦士としては良くなっているのかな。

 以前はモンスターに出会えば簡単にラビッター族が蹴散らされていたそうだが、今では攻守逆転した状態である。

 ウサ正宗の訓練以前は、全員で突撃しか出来なかったのだ。

 それが、今では役割分担をしっかりと決めているので、効率の良い戦闘が出来る様になっていた。

 斥候役の一人が敵を見つけて、前衛の双剣使いが二人、中衛の槍使いが一人、後衛の弓使いが二人という形でパーティーを組んで戦っていた。

 後衛は場合によっては笛を吹いて、他のパーティーに合図を出したり、救援を求めたりする。

 更に、ラビッター族の特殊技能ともいえる笛の特殊効果で、様々なステータスにプラス効果のある音楽を奏でる事によって、戦闘を有利にしたりもできた。

 俺はウサ正宗がそういう笛を吹く事を一切しなかったので知らなかったが、ある程度レベルがあればラビッター族なら自然と覚えるらしい。

 ゲーム内では確かにお世話になっていたのだが、ウサ正宗が演奏しないから、そういうもんだとばかり思っていたが、違ったらしい。

 なにーーー、って感じだ。


 まあとりあえず、そんな感じでただ突っ込むだけじゃない戦いをしたので、トラップを仕掛けたりして、レベル的に格上のモンスターでも討伐する事が出来た。

 やはり連携やチームワークは重要という事かな。

 それに穴掘りの訓練も活きているようだしね。

 落とし穴とか非常に活用していたから、簡単にデカイ猪も捕獲出来たりしたしね。

 倒した動物やモンスターは大八車のようなもので里まで運搬するのだが、その時もパーティーで分担しながら行えたから、無事に里まで届けられたし。

 まあ、途中で里の位置を教えない為にも、モンスターは可能な限り殲滅していったがな。


 「だいぶ様になってきたんじゃないか。」


 俺は里のラビッター族の戦士達が狩りに奮戦する様子を、木の陰に隠れて観察しながら、そうウサ正宗にいった。

 

 「はい、ご主人様。

 里の戦士達も初期に比べれば、戦える様になりましたね。

 強いていえば、まだレベルが全体的に低いので、安全マージンが低くなりがちな事ぐらいでしょうか。

 それもご主人様の作成していただいた武具で、カバーできる範囲でしょう。」

 「そうか。

 まあお金のかかった豪華な装備を作った甲斐があったかな。

 元の素材は山で鉱石を採掘したり、討伐したロックドラゴンの素材だからタダだが、売却したらとんでもない価格だろう。

 だが、ラビッター族専用品だからな。残念ながら売り手が限られそうだ。

 まあこの里の連中の間に通貨は存在していないから、物々交換にしかならないが。

 もしも適正価格でこの里に請求したら、里のラビッター族を十人ほど人間の金持ちにドナドナしても、必要な金額になるかどうか分からないくらいの品々だからな。」

 「そうですね、ご主人様。

 売却するなら、とてもではないですがこの隠れ里の者では手の出る値段ではないでしょう。

 同族の為にここまでしていただき、本当に感謝しております。」

 「まあ気にするな。

 俺もこの里の現状をどうにかしたいと思っていたからな。

 これで少なくとも当分の間はこの里に必要な農具や武具、生活用品とか調理器具なんかは大丈夫だろう。もう嫌という程量産したし、長期間使える為のミスリルコーティング仕様だからな。」


 このラビッター族の里の問題もだいたい解消出来たと思う。

 さて、とりあえずどうするか。


 「この後はどうする、ウサ正宗?」

 「そうですね。

 今まではこの里の問題にかかりきりでしたが、ディナントの町に帰る為にも、ストームドラゴンを討伐しなくてはなりませんね。」

 「そっか。そういや因縁のストームドラゴンの件があったな。

 この里は居心地がそれなりに良かったし、命の危険を感じないし実に伸び伸びと生活していたから忘れてた。」

 「・・・・・ご主人様。」


 なんだか呆れた表情になっているウサ正宗。

 しょうがないじゃん。


 「いやー、悪い悪い。

 この世界に来て、正直これだけ安心して生活出来たのは初めてだったからさ。

 ウサ正宗狙いの人間がいないし、夜中に襲われる心配が無い。

 それにこの里のラビッター族は可愛いしな。

 この里で永住したいくらいだ。」


 実際この里はモンスターに襲われた事は無いそうだ。

 大型モンスターが里の出入り口から入り込む余地は皆無だし、そもそも里の存在を知られていないのがデカイのだろう。

 問題は色々あるが、本当にのどかで良い里なんだわ。

 里のラビッター族は、みんな初めは俺が人間だから怖がっていた者もそれなりに居たが、俺がこの里に色々な料理や肉や道具などを供給しているのを理解したら、プチアイドル状態になったし。

 俺が里を歩いているとラビッター族に囲まれる事が結構ある。

 おばちゃん達に揉みくちゃにされる訳じゃないのだが、ラビッター族の年齢は俺には分からんし、とりあえず頭を撫でて毛並みを堪能するくらいである。

 野菜持ってけだの、肉をくれだの即物的な者も多いけど。

 活気の戻ったこの里は良い方に変わってきているのだ。

 まあなんで俺にはそれなりに快適生活な訳だったんだわ。 


 ちなみにウサ正宗は、なんだか崇められている。

 里の道を通ると、みんな道を譲るというか、大名行列の様に左右に整列するというか、なんだか偉い人が通るから邪魔しちゃいかんみたいな感じになる。

 うーむ、流石は武神様。


 「まあそうだな。

 ディナントの町に襲来する可能性があるから今の所、優先度が高いのはストームドラゴンになるか。

 正直あれと渓谷で対峙するのは勘弁して欲しい。」

 「可能であればこちらが有利な戦場で戦いたいものですね。

 それに、向こうも傷が癒えている頃でしょう。

 ディナントの町が襲われる前に討伐しましょう。」


 そうか、渓谷でストームドラゴンと戦ってから、一ヶ月以上は経つのか。


 「それはマズイな。

 とりあえず里の長老に出発をするのを伝えるか。」


 それから里の戦士達が隠れ里に戻り、獲物を解体しているのを確認してから里の長老の元に向かう。


 「どうも、邪魔するぜ。」

 「おお、これは竜司殿、ウサ正宗殿。

 先ほど戻られたようですが、今日の狩りの成果はどうでしかな?

 戦士達も育ってきているでしょうか。」

 「ああ、それなりに出来る様になってきたな。

 今日もオオツノ鹿3頭にグレイウルフ2頭の成果だ。今は里の者たちと一緒になって解体しているよ。

 チーム単位で動く事が出来る様になってきたし、役割分担もマダマダぎこちないがそれなりに形にはなってきた。後は繰り返して経験を積むだけだろう。」

 「そうですか。

 竜司殿とウサ正宗殿には本当に感謝しております。

 里の戦士達がここまで強くなれたのも、全てあなた方のお陰です。

 それに農具や鉄の鍋、包丁なども沢山提供していただいたのです。

 このご恩は返しようがございません。」

 「気にするな。

 俺達がしたいからやっただけだ。

 なっ、ウサ正宗。」

 「そうです。

 数少ない同族を見捨てる事は出来ません。

 だから気にしないでください。」

 「はい、分かりました。

 ですが、この里のラビッター族全員があなた方に感謝しているという事を伝えたかったのです。

 本当にありがとうございます。」


 なんだか拝み倒しそうな勢いだったので、さっさと本題に入る。


 「この里もだいぶ良くなってきた。

 だから、俺達はそろそろこの里から出発しようと思う。

 明日にはこの里を出るつもりだ。」

 「なんと!!

 そうですか、何時かはそうなると分かっておりました。

 では、今宵は送別の宴を開かせていただきます。」


 それでその日はオオツノ鹿を使ったから揚げを大量に用意する事になった。

 何故か送られる側の俺とウサ正宗が再び料理する事になったのは疑問だが。

 まあ、今回は里のラビッター族の奥様方が料理の協力をしてくれたから、俺が目覚めた初日のグレートアウル料理ほど大変さがなかったが、それでもなかなかの苦労があった。

 どんちゃん騒ぎは夜中まで続いて、俺達の門出を惜しんでくれた。



 明けて翌日、俺とウサ正宗は里のラビッター族総出で見送られながら、出発しようとしていた。


 「ウサ正宗教官!!

 今までのご指導、ありがとうございました!!

 貴方の教えを守り、これからも里を守っていきます!!」

 「何度も死を感じさせられましたが、教官のお陰で強くなれました。

 ありがとうございました。」

 「この里は僕達に任せてください。

 ご武運をお祈りしております!!」


 里の戦士達が口々に別れの挨拶をしてきた。

 他の里のラビッター族は昨日散々挨拶されたしな。


 「みんな達者でな。

 回復薬も置いておくから、惜しみなく怪我人に使ってくれ。」

 「まだまだ訓練不足ですが、これからも弛まぬ努力をしてこの里を守ってください。」


 一応、俺は大量に保管してあった回復薬を集会所に置いてきた。

 きっと里の戦士達には重宝されるであろう。


 そうやってみんなと挨拶を交わしていると、里の戦士達の中でも特に優秀だったと言われているパーティーが前に出てきた。


 「ウサ正宗教官、そして竜司殿。

 我らもその旅に同行させてください。」

 「えっ、なんだって?

 ストームドラゴンとこれから戦うんだぜ。

 そんな戦いについてくるのか?」

 「はい、我らはこの隠れ里の代表として貴方達に着いて行きます。

 厳しい戦いになるの承知の上です。

 足手まといにしかならないかも知れません。

 ですが、里の皆と話し合って決めたのです。

 ウサ正宗教官と竜司殿に命がけで仕えようと。」


 そういって六人のラビッター族は決意した顔で俺とウサ正宗を見ていた。

 こりゃ、断っても勝手に着いて来そうだな。


 「ウサ正宗、どうするよ。」

 「そうですね。

 彼らは指導した里の訓練生の中でも一番努力していました。

 これからも成長していくでしょう。

 私は同行するのに賛成します。

 何時か成長した彼らがこの隠れ里に帰る日が来たら、その時は里の大きな力になるでしょう。」

 「そっか。

 分かった。なら俺から言うことは一つだけだな。

 絶対に死ぬな。

 それだけだ。」

 「はい!!

 ありがとうございます、ウサ正宗教官、竜司殿。

 精一杯精進していきます。」


 そして俺らは隠れ里を出発した。

 おまけで六人のラビッター族を率いる事になった。

 ジロー、テムジン、マタタビ、ウール、コゲトラ、ミコの六名である。

 彼らと共にまずは川の上流を目指して歩き出した。


竜司たちに着いて来る事になった六人のラビッター族は、今まで色々食料や戦闘の指導、武具の代金やら農具の御代の対価として差し出されたのです。

人身御供とまではいきませんが、文字通り命がけで仕えるように里の人達から言われています。

ミスリルの農具や武具がとんでもない高価な値段になる事を、長老は知っていたからです。

なので、里の唯一の高価な物はラビッター族自身である事を、人間に追われた歴史のあるこの隠れ里の者は知っていたので、せめてもの対価として彼ら六人が同行する事になったのでした。

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