幕間8
俺はこのラビッター族しかいない里に生まれた、マタタビという名のラビッター族の戦士である。
俺が生まれた時には、既にこの隠れ里は停滞の兆しがあった。
高レベルの強い者が皆寿命で死んでしまい、その弟子に当たる者も死んでいったからだ。
そうやって年々里の高レベルの者が居なくなくなっていき、今では低レベルの者が無理に戦士を名乗り、狩りや門番をしている状態になっていた。俺もそういった低レベルの戦士である。
他にも高レベルのラビッター族が里から居なくなった為に、様々な弊害が出始めていた。
まずは山に入り、岩塩の採取が出来なくなった事だ。
もともとはたいしたモンスターも出ない山だったのだが、それでも里から山へ往復していればモンスターに出会う可能性があった為に、戦士が同行していた。
決して上級ではないモンスターだったので、昔の高レベルの者がいれば危なげ無くモンスターを追い払い、塩を採掘して帰還する事が出来たらしい。
だが、今では三十人の戦士で山で岩塩の採掘を挑んでも、モンスターに軽く蹴散らされてしまい、少しばかりしか岩塩を採掘出来なくなってしまった。
しかも、場合によっては三十人の戦士達が全滅の危険性もあるのだ。モンスターが強すぎたのか、それともやはり里の者のレベルが下がり過ぎたのか、非常に難易度の高い任務となっていた。
他の食料調達の任務も同じだ。
ただの動物でも四苦八苦しながら狩りを行うのである。
二ヶ月に一度でも狩りに成功すれば上出来の方である。
半年に一度も狩りに成功しない事もあったのだから。
原因はやはり、狩りの途中で出会うモンスターであった。
運良くオオツノ鹿を仕留めても、里への運搬途中でモンスターに襲われてしまい、獲物を手放さなくてはならない時も多かった。
川から取れる魚等は捕獲しやすくて、里まで運びやすいのだが、ついこの前には鳥のモンスターに襲われてしまい、命からがら逃げてきたのだ。
その時にはかなりの死傷者も出てしまった。
そんなだから、里の者達は長らく畑で取れた物以外は久しく口にしていなかった。
里のラビッター族も昔はもっと大きい個体も居たらしいが、今の里の者の平均身長は130センチ以下である。
それに痩せ細り、皆元気というか活気がなくなっていった気がしていたのだが、俺にはどうする事もできなかった。
そんな時にやってきたのがウサ正宗達であった。
この隠れ里に、俺が生まれてから初めて訪れた、外のラビッター族。
もちろん人間も初めてだった。
種族として同じはずのウサ正宗という名前のラビッター族は、なんだか見た目からして違った。
見た目が里の者と違いとても小奇麗で、身だしなみに気を使っているのが分かる。
女じゃないのに、そんなにオシャレに気を使っているのは、この隠れ里の男には存在していなかった。
それに加えて力強い眼差し、キレイで艶のある毛並み、そして高貴な雰囲気を漂わせる何か。
普段は隠しているその圧倒的な存在感とでも呼べばいいのか、そういったものを感じた。
俺は初めはそんなウサ正宗が非常に気に食わなかった。
何故なら、俺達が今まで里で戦士として生きてきた矜持があったからだ。
人間と一緒に居たのも気にいらない理由の一つでもあったが。
だが、相方の人間が眠りから目覚めて、初めて尽くしのうまい料理の宴会が終わった後、俺の地獄の訓練が始まった。
今までは俺達、里の戦士は敬われる存在であった。
それは命がけの仕事であるからだ。
だが、そんな俺達のプライドをウサ正宗は徹底的に打ち砕いた。
訓練と称して里のラビッター族の前で、公開処刑に近い形でボコボコにされたのである。
あまりに強さと格が違いすぎた。俺達里の戦士は複数で挑んでも速攻で倒されてしまうだけであった。
その事に気づいていた一部の戦士も、逃げ出すことは出来ずに、一蓮托生とばかりにボコボコに。
俺はモンスター以外でこれほどの脅威を感じたのは初めてだった。
今までの侮りや侮蔑など、なんにも意味をなさないくらい徹底的に蹂躙されたのである。
その後は、逆らう気力がある者は一切居なくなり、ウサ正宗教官の指示に従う様になった。
だって、あの人がその気になれば、余裕でこの里のラビッター族全員を皆殺しに出来るほどの能力があるというのが、嫌というほど理解させられたのだから。
俺は優れた人から学ぶ事が出来るとか、そういう理由もあったが、とりあえずウサ正宗教官を怒らせたくないのが従う最大の理由であろう。
その後の訓練は、まずは里の外周をひたすら走らされたり、穴を掘っては埋めて、掘っては埋めてを繰り返させられた。
戦士をして生きてきた俺は、農業の手伝いも偶にやったが、その比ではないくらい掘っては埋めてを繰り返した。
そんな生活を一週間も過ごすと、少し体に筋肉というか、肉が付いてきた。
食事事情が改善されたのも非常に大きい理由なのだろう。
足りなかった肉や塩をあの人間が大量に提供してくれたからだ。
あの人間とウサ正宗教官が里の外に出て、狩りから戻ると、いつもトンデモナイ量の獲物を持って帰ってくるのだ。
いわゆるアイテム袋という沢山入る袋をもっているのもあるが、よくそれだけ大量の獲物の狩りに成功するものだ。しかも毎回である。
それだけでも、俺達とは格が違うのだと思い知らされ、みんなますます尊敬する気になった。
そして、俺達は武器を使った戦闘訓練に入ると、今までの訓練が序章に過ぎない事を思い知ることになる。
柔軟や準備運動なるものとして、散々走らされた後に、武器を使った戦闘訓練を行うのは
「どんだけ鬼畜なんだよっ!!」
と心の中で全員突っ込んだであろう。
もうへろへろで、疲労困憊でも気にせず武器で襲いかかって来るウサ正宗教官。
正直勘弁してくれというのがみんなの意見だろうが、かの教官に逆らえるほど愚か者は存在していなかった。
別に、おいウサ正宗と呼んでもヤツは気にしないだろう。
だが、ボコボコにはされる。
士気と規律を保つ為だとかいっているが、どうなんだか。
教官は非常に地獄耳なので、悪態をつくアホは例外無くお仕置きされてしまい、従順になるまで指導が入る。
その為、頭で考える事すら、みんな拒否しているのだ。
俺も既に教官呼びするのが、何時の間にか当たり前になっていた。
だから、反抗なんて考えていないのだが、それでもこの訓練はハードであった。
自宅に帰ると食事を済ませたらバタンキューである。
何時の間にか寝落ちしているほど疲れているのだ。
俺はこの里に生まれてから、これほど体を酷使した事は一度も無かった。
起きると体がダルイし筋肉痛の嵐だが、それでも訓練という名の地獄が待っていた。
そんな生活も二週間を過ぎれば、少しづづ体が適応してきた。
だが、そうなると訓練メニューも変わり、今度は崖を上り下りする訓練が追加された。
簡単に言えば、ロッククライミングというらしい。
足場や掴む場所が無ければ、杭を岩盤に打ちつけてそれを足場等にするという。
この訓練がまたハードであった。
足の力には自信があるが、腕の力はそうでもないラビッター族の急所を突いてきた訓練であった。
皆初めての経験であり、ウサ正宗教官が見せてくれた見本を元に、頑張って登るが、非常に恐怖感が強い。
一応ロープで命綱というものを上から垂らしてくれているので、地面に激突はないというのだが、手が震えてしまい、苦戦する者が続出した。
だが、そこは甘く無い教官である。無理矢理にでも出来る様にさせられた。
そして三週間目に入ると、明らかに今までと違う自分の姿が出来上がってきた。
家の家族と比べてみると、筋肉のつき方や、姿勢、何よりも顔付きが変わったと家族から言われたのだ。
比較的に俺と似ていた体をしている、農業をしている弟と比べても、明らかに体型というか肉付きが違い、兄弟で差がかなり出ていた。
今までも、俺は戦士で弟は農業従事者という事で食事に差があり、それが体付きにも現れていた為に差があったのだが、今では完全に別人に近いくらい体型に差が出ていた。
「いつも大変そうだけど、にいちゃんなんだかカッコ良くなったね。」
「えっ、そうか。
へへっ、そりゃウサ正宗教官に鍛えられているからな。」
「へーー。
やっぱりあの方は凄いんだーー!!
かあちゃんやとうちゃんも感謝しまくりだもん。」
「そうだな。
あの人がいたから、この里は持ち直しつつある。」
「やっぱり武神様は凄いなーー。」
その代わりに俺達は死にそうだけどな。
と思いつつも言葉に出さなかったが。
家族からほめられていい気になりはしたが、キツイのは変わらない。
この後、更に過酷になっていく訓練にも、気合と根性でなんとか着いていく俺であった。




