追跡3
俺達は、野営の為の準備をしていた。
モンスターから発見されにくい様にする為に、木々が生い茂った場所にした。
モンスターの夜間の襲撃も考慮しての事なのだが、飛行型モンスター以外はあまり警戒していない。
何故なら、この渓谷はそれぞれが孤島の様になっていて、川で分断されている地続きでは無い地形なので、飛行型モンスター以外あまり見かけない為である。
それになんというか、この世界遺産にでも出てきそうな渓谷は、そもそも動物の類いもあまりいないようなのである。
一応、たまにグレイウルフとかは出るみたいなのだが、特に遭遇せずに来たので、警戒の比重としてはグレートアウルのような飛行型モンスター等の方が高かったのだ。
これもストームドラゴンの影響か?
まあそんな事情もあって、上空から見付かり難い場所を野営場所にした。
今晩の夕飯は鳥料理になった。
まずはグレートアウルを血抜きして、羽を頑張ってむしり取る。
俺は鳥の羽をむしるなんて初めてだったので、ウサ正宗に教えてもらいながらやった。
そしてから、部位毎に切り分けていく。
グレートアウルは2メートル近いデカイ鳥なので、正直羽をむしり取るのが一番しんどかった。
とりあえず、一番食べやすいモモ肉を串に刺して、そのまま焚き火で直火に焼いてみる。
から揚げとかも試してみたかったが、あまり手間を掛けすぎてもどうかなと思い止めた。
追跡中だしね。
後は野菜を切って鶏がらで適当にスープを作る。
ラーメンじゃないから本当に短時間で、あまり手間を掛けてないが、それなりにおいしく出来た。
透き通ったコンソメ風味の色合いの野菜と鶏がらのスープは、寒い夜中にはぴったりであった。
モモ肉は直火で熱しすぎた為か、黒焦げに近い状態になってしまったので、表面をガリガリ削って食べる事になる。やっちまったぜ。
普通にフライパンで焼いたり、油で揚げた方が安全策であったようだ。
スープはそれなりの出来であったので満足していたが、焼き鳥は失敗であった。
反省。
夕飯を済ませると、一応罠も設置してから交互に仮眠を取る事にする。
ここは渓谷な為かかなり湿度が高い気がする。
それに気温も過ごしやすい日中と違い、夜間はかなり気温が低くなり、肌寒いくらいに感じる。
俺とウサ正宗は体温を奪われない様にする為に、毛布を被りながら交互に寝る事にする。
火は空中のモンスター相手には、モンスター避けの意味があまりないので消しておくか迷ったが、視界の確保の為に一応焚き火を絶やさない様にした。
毛布をPDSから取り出して、そのまま被ると俺から先に休ませてもらった。
なにかが眠っている俺を揺すっていた。
感覚的には仮眠して直ぐに起こされたような気分だが。
「ご主人様、申し訳ありませんがすぐに起きてください。」
「んー、どうしたんだぁー、ふぁーーー。」
「敵襲では無いのですが、辺りの雰囲気が少しおかしいのです。」
そういって欠伸をし、寝起きのボーっとした頭を起こして、体を起き上がらせる。
「ウサ正宗、どういう風に雰囲気がおかしいんだ?」
「気づきませんか?夜なのにまるで虫の鳴き声や他の生き物の声が聞こえない事に。
まるで、この渓谷から一斉に生き物だけが居なくなってしまったか、逃げ出してしまったかのようです。」
そう言われて俺は初めて気がついた。
辺りから川の水が流れる音以外、なにも音がしない事に。
本来であれば、鈴虫のような鳴き声の虫やフクロウの鳴き声等、様々な音が夜の渓谷にはあった。
俺らが野営の準備をしている時にも、そういった鳴き声は聞こえてきた。
だが、今はそれらの音がまるでしない。
「本当だ、何なんだこの静けさは。」
「念の為、戦闘準備をお願いします。」
「ああ、分かった。」
俺も違和感や危険を感じた為、直ぐに装備をシルバーナイト装備に着替えた。
さっきまでは、寝巻きとしても丁度いい感じの着心地なので、ブラックウルフ装備でいたのだ。
着替えてから数分後に、急に風が出てきていた。
それまでは、あまり強い風は吹いていなかったのにである。
バッサバッサバッサ
風の音に混じりながら、遠くから何かが羽ばたくような音が聞こえてくる。
「マズイです、ここから退避しましょう。」
「っわかった、すぐにっ・・・・・アイギス!!」
とっさにウサ正宗の前に出てから、不可視の防壁を羽ばたきが聞こえる方向に展開する。
ズガガガガガーーー
上空から何かが落ちてきた。
ベキバキ木々をなぎ倒しながら俺らに向かってきた何かに対して、アイギスの防壁がしっかり受け止めてくれた。
さっきまで野営をしていた場所はその攻撃のあまりの威力に、辺りの木々が吹き飛んで無くなり更地になって抉れていた。
「っく、ブレスか!!」
「どうやらストームドラゴンからの先制攻撃のようですね。」
「どうやって俺らの位置がわかったんだ?」
「焚き火の明かりが一番可能性が高いかと。」
げっ、視界確保の為の明かりが敵には目印になったのか。
しかし、この場所で戦うのは最悪だ。
準備していた罠は今の攻撃で全て吹き飛んでしまったようだし、何よりもこの場所は狭いし逃げ場が存在しない。
夜空を見上げると40メートルくらい離れた上空にストームドラゴンがいた。
月明かりしかないが、その巨体が羽ばたく音がそれなりにするので、相手の位置は分かった。
向こうのストームドラゴンも俺らがいる場所には降りてこようとせず、空中でホバリングしてこちらをうかがっているようだ。
つうか、これはマジで袋のネズミ状態だな。
他の場所に逃げようにも丸太橋が今の攻撃で片方吹き飛んでるし、悠長に渡っているとブレスが飛んできそうだ。
「ヤバイ、この環境でストームドラゴンの襲撃はそれ程考慮に無かった。
まさか鳥型モンスターじゃなくて、目標のストームドラゴンから夜襲を受けるとは思わなかった。」
「そうですね、私もあまり考えていませんでした。
ドラゴンの生態はあまり詳しく分かっていませんので、夜間の行動も不自由していないのかも知れませんね。
彼らは自分のテリトリーに侵入した者に対しては容赦しません。なので、既にこの渓谷自体がかのストームドラゴンのテリトリーだったのかもしれません。」
ため息しか出てこないが、仕方ない。
ここで応戦するしかない。
「ウサ正宗、この地形じゃあ回避は難しい。
俺がアイギスで防御しながら戦う。
そちらは基本、俺のアイギスの防御の後ろに居てくれ。
ストームドラゴンが突撃してきた時に、可能であればカウンターを頼む。」
「かしこまりました、ご主人様。」
そして真夜中の渓谷で、ストームドラゴンとの戦いが始まった。
「GYAAAAASUU!!!」
上空を飛ぶストームドラゴンが準備動作として、息を大きく吸い込んで溜める動作をする。
ズガガガガーーーー
俺は風のブレスが飛んで来たのを不可視の障壁でガードする。
それ程大きくない野営場所にガンガン風のブレスが撃ち込まれてくる。
その破壊力の前に、周囲の風景はすっかり変わり果てた。
木々は既に吹き飛ばされて川に落ちていたりする。
木は身を隠す意味しかなかったが、この野営場所には隠す場所すらまるでなくなっていた。
ストームドラゴンは俺がボウガンの矢を撃ち返すのをほとんど避けていた。
というよりも、俺の狙いが悪いのもあった。
視界が昼間と違い、月明かりのみ。
上空にあるストームドラゴンの巨体はなんとなく見れば分かるのだが、じっと空中で待っていてくれている訳じゃあない。
俺たちがいる場所を周遊するように、上空を自由に移動しならがらブレスを撃ち込んでくるのだ。
なかなかこの状況では狙いをじっくりと定める事等不可能である。
ズガガガガーーー
また飛んで来た風のブレスをアイギスで防ぐ。
こちらのボウガンの攻撃は当たらず、ストームドラゴンのブレス攻撃もアイギスで防御していく。
このやり取りだけでも、既に16回は繰り返していた。
向こうは俺らが居る場所に降りての接近戦をするつもりは無い様である。
前回、手痛い反撃を食らったからな。
かなり警戒しているようだった。
こちらは攻撃の手段がボウガン以外、他にあまり無かった。
トラップが無い以上、他の攻撃手段はストームドラゴンの鱗の防御力の前に無効化されてしまう事が多かったからだ。
ウサ正宗の投げナイフは弾かれてしまい、ダメージにならない。
かといって接近戦は向こうが地上に降りてこないと、どうしようもない。
かなり手詰まりであったが、こちらの魔力は有限だ。
何時までも戦っていられる訳ではない。
「ウサ正宗、なにか策は無いか?」
「申し訳ありません、現状の手札では何もありません。」
「そうか。
どうするべきか。」
そうやって戦っていると、相手も段々と焦れてきたのか距離が少しづつ、近くなってきていた。
俺らに突撃してきてくれれば楽なんだが、そこまで近づいてはこなかった。
俺は手持ちの武器の確認をした。
もったいない気持ちがあるが、このままでは押し負ける可能性が高い。
武器の投擲を決める。
ストームドラゴンが30メートル付近上空まで近寄ってきて、ブレスを撃ち込む為の溜め動作をした所で、俺はボウガンでは無く刀を投げつけた。
「UGGAAAAAAA!!!」
ブレスの予備動作で動きが鈍くなったタイミングに投げられた刀が、ストームドラゴンの胴体に直撃して突き刺さる。
インビジブルブレード:ランク5:品質A
<魔力を使用することにより、刀身を不可視にする魔力刀。>
魔力を多めに費やして、不可視の状態で投擲したインビジブルブレードは、夜間では本当に存在しているのか分からない攻撃になる。
この攻撃はボウガンとは違い、俺の筋力に頼っているのだが、ステータス的にかなり高いのでなんなくストームドラゴンの鱗を切り裂いていった。
そこに更にボウガンでダメ押しの攻撃を加えようとすると、相手からも反撃の風のブレスが飛んで来た。
ズガガガガーーーー
距離が近くなった分、威力が増していたそのブレスを俺はアイギスで防いだ。
だが、何度も何度も強力なブレスを喰らっていた、地面は限界を超えていたようだ。
「うあああああーーーーー!!」
足場が突然崩れ去り、崖の斜面を滑り落ちる様に崩壊していく地面。
俺は投げ出されるように川に転落して行った。
俺たちが居た場所から川までの高さは、40メートル以上あった。
俺は川の水面に激突する瞬間に
「アイギス!!!!」
不可視の防壁を張り、衝撃を減衰する事が出来た。
そして、冷たい川に突っ込んだ。




