ウィル・ハリンス
ブルーはシムの邪悪な唇の感触を思い出しながら、家路に帰っていった。
彼女は数多の罪状を持った極悪人である。だが、彼女は人殺しをしたことはない。一線を超えてしまった場合、たとえ愛すべき人物でも、警察に届けるしかない。一線を越えていないからこそ彼は大抵のことは目をつぶっているのだ。といっても、彼女は証拠を残さないため警察に届けたとしても逮捕まで至らないのだ。
家の前に着いたとき、家の中から叫び声がした。急いで家の中に入ってみると、机に頭をガンガンぶつけている男がいた。
「ぬぉー!なぜだ!なぜなんだ!」男は叫び続けた。
「どうしたウィル。近所迷惑だぞ。」ブルーは冷ややかな目でそのウィルという男を見た。
「あの忌々しい女め。今度はいったいどんなトリックを作ったと言うんだ!」ウィルは発狂寸前だった。
ウィルはブルーとともに家をシェアしている。いやブルーがウィルの家をシェアしていると言った方が正しいかもしれない。だからこそ、ブルーの雀の涙ほどの収入でもこうして一軒家に住めるのだ。ウィルは探偵をやっており、最近は連続爆破テロの捜査をしているのだ。
「シムのことか?」ブルーがウィルから視線をそらしながら何気なく聞いた。
「あぁ、そうだよ。この間のペネロピでの爆破事件。不審な女の姿を目撃してた人がいたそうだ。アドラだよアドラ。絶対にな。」
「シムならさっき会ってきたぞ。」
「なぁーに!どこでだ!なんで!?」
「さっきポンパの商店街歩いてたらシムのこと見かけてたんだよ。だから付いてったら裏通りに入ってたらシムに見つかって、何してるんだって聞いたら雇い主に会いにいくんだってよ。」
「なんだと!どうしてはやく知らせないんだ!」
「ウィル、お前に教えたとして、彼女を付けたとしてもお前じゃ返り討ちにされんぞ。」
ウィルは黒ぶちの眼鏡をかけたヒョロっとした外見である。シムに返り討ちにされた2人の男たちは人並み以上にガッチリした体つきだったが、ウィルが返り討ちにされたらただ事じゃ済まないだろう。
以前ウィルはシムと一騎打ちしたことがある。二回目の爆破事件、博物館でおきた時、彼はたまたまシムのことを追いつめた時のことである。
「あーら、あなたは確か…ブルーのお友達のハリンス君よね?どうしちゃったのそんな怖い顔をしちゃって。」
シムはウィルに爆発の被害を受けていない倉庫の奥に追い込まれていた。
「今回の爆破事件。君の仕業だな?」ウィルは言った。
「あらっ、よろしくないわねー。証拠も無いのに人のことを疑っちゃだめよ?」
シムは右腕を前に出し掌をウィルに向けた。そると同時にウィルは倉庫の壁にぶつかった。その衝撃で倉庫の中にあったものが落ちたり割れたりした。
シムは今度は左手を倉庫の中の物に手をかざした。倉庫の中の物はシムの方に引き寄せられていき、次にシムは右手をウィルの方に向けた。すると、シムに引き寄せられていた物が一気にウィルに飛んでいった。ウィルは物がぶつかる寸前、指をパチンと鳴らし消えた。物が大きな音をたてて壁に当たった。そしていつの間にかにシムの背後にウィルがいた。
「この私が後ろを取られてしまうとはね…。」シムが腕を降ろしていった。
「署まで同行してもうよ。」
「あらっ、それは任意かしら?残念ながら私、これから会わなければ行けない人いるの。またの機会にしてくれないかしら。まぁ、そんな機会二度と来ないでしょうけどね。」
「何を強がっているんだ。僕は君の後ろを取っているん−」
「あーら、1対1だと思って?」シムがウィルが言い終わらないうちに言った。
すると同時にウィルの首元にチクッという痛みがした。ウィルは首元に手をやると針が刺さっていた。
「大丈夫よ、死なないわ。ただの睡眠薬が塗ってあるだけよ。」
シムのその言葉を聞き、ウィルは意識を失った。
「屈辱だ…。」ウィルはまた机に頭をぶつけながら言った。
「まぁ、失われた可能性について論じることはこぼれたミルクを嘆くことより不毛なことだ。」ブルーは眼鏡をあげるふりをしながら言った。
「なんだ、ブルー。らしくないな。それより確か、明日はトランプ家のパーティーだよな?俺もいっていいか?」
そう、明日は待ちに待ったパーティー、いやパーテーだ!




