第9話
「じゃあ。最初はあたしからね。いい? 意識をペンライトに集中させて、握ってる手に力を込める。手が心臓だと思って、集めた力をそこから血液みたいに送り出すようにするの」
俺はその通りにやってみた。ペンライトをグッと握りしめ、力を流し込み……送り出す!
「タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!」
ヒュンッとさっきよりも勢いよく風が飛び出した。蝋燭は四本消えていた。
「やるじゃない!」
いわちゃんがぴょんと跳び跳ねた。
「次は私です」
今度はもえちゃんが一歩前に出た。
「今の貴方は、せっかくの力を無作為に放っているだけ。とても勿体無い状態です。ではどうするか? 力を及ぼしたい対象に集中するんです」
もえちゃんは俺の横に立つと、蝋燭に右の手のひらを向けた。
「対象……今で言うと蝋燭の、少し奥を見るんです。そしてペンライトの先に小さな穴が開いていると思って、そこに力を通すイメージで放つ」
もえちゃんが小さく息を吸う。次の瞬間、消えていた四本の蝋燭に火が点った。
「おお……!」
「やってみてください」
もえちゃんが一歩下がる。
ええと、ペンライトに力を集めて、蝋燭の奥を見据えて……細い管を通すイメージだろうか、小さな穴から放つ……!
「タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!」
ビュンッ!
鋭い風が吹いた。俺の前髪がフワッと持ち上がる。蝋燭は……なんと、七本消えていた。
「飲み込みが早いですね。この調子で頑張りましょう」
もえちゃんが笑顔で頷いた。
「なんだか難しそうなことやってんなぁ? もっと、バーンッて一気にできねえのか?」
つのちゃんはじれったそうにしている。
「そう単純なものではないんですよ。貴女は脳筋だから分からないと思いますが」
「んだとぉ!?」
もえちゃんとつのちゃんがバチバチしそうになり、慌てて話題を逸らす。
「た……たまき様は、何かコツとかありますでしょうか……?」
「……んえ?」
たまき様はだるそうに瞼を持ち上げた。
「そんらもん、キューンとしてドカーンよ!」
「は、はぁ……」
「らに!? らんか文句あんの!?」
「い、いえ……! やってみます……!」
いわちゃんともえちゃんのアドバイスを意識しつつ、キューンとしてドカーン……!
「タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!」
部屋に一陣の風が吹き抜け、みんなの髪の毛をめちゃくちゃにした。が、蝋燭の火は大きく揺れたものの変わらず点っている。
「……今のは忘れて」
いわちゃんの言葉に無言で頷いた。当のたまき様は乱れた髪もそのままに気持ち良さそうに寝ている。
「と、とにかく、教えてもらったことを意識して、繰り返しやってみるよ!」
「そうですね。それが一番の近道でしょう」
「あんたのおじいさんも、ひたすら練習しろって言ってたんでしょ?」
「うん。まずは十本、消せるようになる!」
それから俺は、みんなに見守られながら修行に励んだ。もえちゃんが的確なアドバイスをくれるおかげで九本まで一度に消せるようになったが、あと一本が遠い。
「うーん、何がダメなんだろ……」
俺は床にへたりこんだ。激しい運動はしていないはずなのに、なんだか疲れている。
「気持ちだねぇ」
「うわっ!?」
いつの間にかりぃちゃんが俺の顔を覗き込んでいた。
「君の力ってぇ、結局は精神力を使ってるのぉ。だからぁ、今疲れてるでしょぉ?」
俺はこくこくと頷いた。なるほど、精神を削っていたから倦怠感に襲われているのか。
「でもぉ、気持ちを強ぉく持てばぁ、あんまり疲れないしぃ、力も底上げされるぅ」
「……気持ちを、強く」
俺はゆっくりと立ち上がり、ペンライトを構えた。こんなところでへこたれてはいられない。俺は、力を使いこなせるようにならなきゃいけない……何故なら、いわちゃんを助けたいから……!
「タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!」
ペンライトの先から突風が飛び出した。風は全ての蝋燭の炎を吹き消し、おまけに一番手前の蝋燭を倒した。
「やっ……やったあ!」
達成感と疲労感で俺は床に座り込んだ。
「ふふ~。良くできたねぇ。あとはぁ、君の気持ち次第ぃ。君が望むならぁ、なんだってできるよぉ」
りぃちゃんは俺の頭をわしわしと撫でると壁際へと戻っていった。
「お疲れさま」
いわちゃんがペットボトルのお茶を差し出してくれた。
「あ……ありがとう」
「あんた、本当にすごい力持ってるんだね。あたしはまともに力を使えるようになるのに半年はかかったのに」
「三人のアドバイスのおかげだよ」
「あ゛ぁん?」
たまき様の声が飛んできた。
「……みんなのアドバイスのおかげです」
そう言いながらたまき様をチラリと見ると、穏やかな寝顔を見せていた。さっきのは寝言だったようだ。
「あっ、もうこんな時間なんだ! 長々とごめん」
いわちゃんにつられて時計を見ると、二十二時を回っていた。
「いや、こっちこそ遅くまでお邪魔しちゃって申し訳ない。後は家で練習するから」
「うん。じゃあ……三日後、また来てよ。どれくらい上達したか見たいし、作戦もちょっとずつ立てたいから」
俺はいわちゃんの言葉に首を振る。
「いや……また明日」
「えっ?」
いわちゃんは首を傾げた。
「明日、ライブあるでしょ。見に行くから」
そう言うといわちゃんは呆れたように笑った。




