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第6話

「あたし達は芦田に、大事なものを取られて従わされてるの」

「大事なもの……?」

「そう。あたしは"怨み"を取られた。街を彷徨っている時に、偶然芦田に見つかっちゃって……。これじゃあ誰かを祟ることもできない、ただの亡霊だよ」

 いわちゃんは目を伏せた。誰も殺せないならむしろいいのでは、と思ったがいわちゃんにとっては辛いことなのだろうと黙っていた。

「私は仕事でいわちゃんを迎えに来た時に、芦田に捕まりました。そして、業務に使う閻魔大王のハンコを奪われました。このことが閻魔大王に知れたらどんな罰が待っているか……」

 もえちゃんは肩を抱いて縮こまった。閻魔大王は亡者だけじゃなくて部下にも厳しいんだな、と思ったが今言うことではないと黙っていた。

「アタシは……人間の世界で観光してたらあんちくしょうに出くわして、有り金全部取られたんだ! 鬼の世界の金が無いと向こうに帰れねえから、泣く泣く従ってんだぜ……」

 つのちゃんはおいおいと泣き出した。これが本当の鬼の目にも涙、と思ったがさすがに不謹慎なので黙っていた。

「わたくしは、面白そうな男がいると思って芦田に近づいたわ。ちょっとからかって遊んでやろうと思ってね。そしたらバーでベロンベロンになるまで酔わされて、気付いたら家宝の宝玉を取られてたの。あの野郎、わたくしをコケにしやがって……!」

 たまき様は長い爪を剥き出しにして叫んだ。それって自業自得なんじゃ……と思ったがそんなことを言ったらみじん切りにされそうなので黙っていた。

「じゃあ、りぃちゃんは……」

「りぃちゃんは多分、記憶を取られてる。理由は分からないけど……自分が何の妖怪なのか思い出せないのは、そのせいなんじゃないかな」

 りぃちゃんはいわちゃんの言葉にもピンときていないようで、ん~? と首をかしげた。

「……そういうわけで、あたし達はみんな芦田の言いなりになって、アイドルさせられてるの。あいつは金の亡者だから、生活費以外貰えないし、休みもほとんどない」

 なるほど、それでやけにライブの本数が多かったのか。俺は納得すると同時に辛い気持ちになった。俺がライブを楽しんでいた裏で、彼女達は搾取されていたのだ。

 ……いや待て、おかしい。

「……それじゃあ、芦田さんはみんなが妖怪だって知ってて……? だとしても、怨みだとか記憶だとかなんて、奪えるわけが……」

「奴も呪力を持ってるのよ。それも、ものすごーく、強い」

 グラスにワインをなみなみ注ぎながらたまき様が言った。

「このわたくしでさえ歯が立たなかった……。相当な腕よ」

 たっぷりのワインを飲み干したたまき様はソファに体を預けた。

「そ、そんな人と俺、戦うの!?」

「なんだぁ? 相手がつえーほど燃えるってもんだろ! 頑張れよ!」

 つのちゃんが無責任にガハハと笑う。

「でも、今のままでは敵わないのは確かでしょう。だってまともに呪力を扱えないんですよ?」

 もえちゃんの冷静な言葉に、改めて己の無力さを痛感させられる。

「……まずは、りぃちゃんが言ってた電話を待ってみよう。それでダメなら……あたし達で考えるしかない」

 いわちゃんの言葉にみんなが頷いた。

「明日、何か分かったらすぐ教えて。連絡先教えとくから」

 いわちゃんに促されるままLINEを交換した。推しと連絡先を交換するなんてとんでもないことだが、今はそれより不安でいっぱいだ。

「じゃあ、今日は帰っていいよ。……助けてとか急にお願いしちゃったけど、迷惑……だったよね」

 形の良い眉をハの字にしていわちゃんが言った。

「ううん。いわちゃんの力になりたいって言ったのは俺だし……その気持ちは今も、変わってないから」

 そう告げるといわちゃんは、眉をハの字にしたまま微笑んだ。


 家着いた頃には二十三時を回っていた。小腹が空いていたのでカップ麺を食べ、シャワーを浴びた俺はごろりとベッドに寝転んだ。

とんでもないことになった。推しグループが全員妖怪で、俺にも呪力とやらがあって、いずれはめちゃくちゃ強い敵と戦わなければいけない……。悪い冗談だと思って寝ようとしたが、脳裏をよぎるのは段ボールをすり抜けるいわちゃんや、鬼になったつのちゃん、目の前で変化したたまちゃ……たまき様の姿。トリックや見間違いなんかでは説明がつかない光景を思い出し、俺は深い溜め息をついた。

 その後も寝付けなかった俺は、好奇心から「ホスト 怨霊」と検索してしまった。すると「歌舞伎町都市伝説倶楽部」という怪しげなブログがヒットした。サイトに飛んでみると「非業の死を遂げたホス狂の怨霊!? 相次ぐホストの不審死」というタイトルが躍っていた。胡散臭い言い回しの文章を読み進めていくと、ここ数年で二十人ものホストが説明のつかない不審な死に方をしていること、彼らはいずれもお客さんに暴力を振るったり無理やり水商売をさせていたりしたこと、その原因はホストに苦しめられて自殺した女性の怨念ではないかという下世話な憶測が記されていた。文章はこう締め括られていた。

《彼女の魂は、悪辣なホストを断罪することでしか救済されない。それが彼女の存在理由(レゾンデートル)なのだ。彼女は今日も、裁くべき悪を探して歌舞伎町を彷徨っている。》

 ふと、いわちゃんの言葉が蘇った。

『これじゃあ誰かを祟ることもできない、ただの亡霊だよ』

 ……俺は、調べるんじゃなかったなぁと思いながらスマホを消し、目を閉じた。

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