第5話
「みなさんは、何の妖怪なんですか?」
俺の質問を聞いた皆はニヤリと笑った。まるで俺のその言葉を待っていたかのように。
口火を切ったのはつのちゃんだった。
「アタシは鬼だぜ! 腕っぷしなら誰にも負けねえ! 普段はこんなナリをしてるけど、本当はムッキムキなんだぜ!」
つのちゃんは立ち上がると、全身に力を込めた。すると全身が黄色に染まり、牙と角が伸びて、あっという間に筋骨隆々の鬼の姿になった。
「うわっ!?」
「驚いたか?」
つのちゃんは恐ろしい顔でガハハと笑った。
次に名乗り出たのはもえちゃんだ。
「私は火車です。知ってます? 閻魔大王の命で亡者を地獄へ運ぶ、炎を操る猫の妖怪です。本当の姿は大きいし火を纏っているので、ここでは見せられませんが」
俺は曖昧に頷いた。なんか、昔読んだ妖怪図鑑みたいなのに載ってた気がする。
「私はねぇ~、ふふふ、何だったか忘れちゃったんだよねぇ」
りぃちゃんはへらへら笑いながら言った。自分が何者か忘れてしまうなんて、そんなことあるんだろうか? 戸惑っていると、いわちゃんが「そのうち分かるよ」と耳打ちしてきた。
俺はワインのおかわりを注いでいるお姉さんに視線を移した。
「ええと……貴女は? というか……どちら様ですか? たまちゃんは?」
そう言うとお姉さんは恐ろしい形相で睨んできた。
「その間抜けな名前で呼ぶんじゃないよ! たまき様とお呼び! っていうか坊や、気付いてなかったの?」
お姉さんはパチンと指を鳴らした。するとお姉さんは一瞬でチェック衣装を着たたまちゃんに姿を変えた。
「ええっ!?」
「これは世を忍ぶ仮の姿……ってやつよ。こっちの方がオタク受けがいいから」
たまちゃんが再び指を鳴らすと、さっきまでのお姉さん──たまき様の姿に戻った。
「本来のわたくしはこんなにファビュラスな姿をしてるっていうのに、オタクってのは見る目のない男ばっかりで嘆かわしいわ。まぁ、化かしやすくて可愛いけど」
たまき様は優雅にワイングラスを傾けた。
「……つまり、化け……狐? ですか?」
たまき様はまたしても俺を睨むと、乱暴にワイングラスを置いて立ち上がった。
「そこら辺の野良狐と一緒にしないでくれる? いい? わたくしはね、あの玉藻前様の子孫なの。つまり、由緒正しい高貴な血筋のエリートってこと。そう心得て接してちょうだい」
たまき様はドカリとソファに腰を下ろしてふんぞり返った。玉藻前は俺でも聞いたことがある、有名な妖狐だ。それもあってか、なるほど確かにプライド激高である。猫又なんて言おうものなら死んでいただろう。
「……そして、さっきも言ったけど、あたしは怨霊。まだ死んでから十年しか経ってないから、あたしが一番新参で力も弱い」
「何言ってんのよ。アンタ今まで何人も悪徳ホスト祟り殺してきたんでしょう?」
「た、たまき様……それは言わないで……!」
いわちゃんが焦っている。俺には聞かれたくなかったんだろう。俺は話題を変えることにした。
「ええっと……みなさんのことは分かりました。それで、俺に頼みたいことって、何ですか?」
皆の表情がサッと曇った。豪快に笑っていたつのちゃんでさえも暗い顔をしている。
ややあって、いわちゃんが口を開いた。
「あたし達を、解放してほしいの……。マネージャーの、芦田から」
「芦田さんって……あの、背が高くてイケメンな」
俺は現場で何度か見たことのある、芦田さんの姿を思い出した。いかにも高そうなスーツを着て、金の時計やらネックレスやらごつい指輪やらを着けている格好良さげな人だ。ただ、いつも目がギラギラしていて、俺はなんとなく苦手だった。
「あんなクズ野郎のどこがイケメンよ」
たまき様が吐き捨てるように言った。
「解放って、もしかしてブラックな事務所なんですか? それなら労基に行った方が……」
「そんなんじゃないの」
いわちゃんがぴしゃりと言った。
「あたし達は芦田に、大事なものを取られて従わされてるの」




