第4話
俺はいわちゃんに連れられて、夜の街を歩いていた。詳しいことは着いてから説明すると言われ、何も分からないまま彼女の横をついていった。
唐突にいわちゃんが口を開いた。
「みんなにはさっき連絡したから、話は伝わってるよ」
「みんな、って……まさか」
「そう、ひゃっこのみんな。今あんたのこと待ってる」
それはつまり……
「ひゃっこのみんなも人間じゃない……ってこと?」
「うん。みんな妖怪」
いわちゃんはあっさりととんでもないことを言ってのけた。
なんてことだ、一年推してきて全く気が付かなかった。りぃちゃんも、つのちゃんも、もえちゃんも、たまちゃんも……みんな人間じゃなかったなんて。
俺はふと頭に浮かんだことを聞いてみた。
「たまちゃんは、もしかして猫又?」
いわちゃんは今までで一番大きな溜め息をついた。
「あんたそれ、本人の前で言ったら殺されるよ。あの人、プライドバカ高いんだから」
ビビった俺は、それ以上何も言わずにいわちゃんの隣を歩いた。
「着いたよ」
十階建てくらいの立派なマンションの前でいわちゃんは言った。
「ここにみんなで住んでるの」
「す、すごいね……家賃、高いんじゃない?」
「さあ? 事務所が払ってるから分かんない」
いわちゃんは慣れた手つきでオートロックを解除した。
「五人で一緒に住んでるなんて、なんか楽しそうだね」
そう言うといわちゃんはちょっとムッとした。
「そんないいもんじゃないよ」
先にエレベーターに乗り込んだ彼女は九階のボタンを押した。
エレベーターを降りると、いわちゃんは廊下をズンズン進んでいった。そして一番奥の部屋の呼び鈴を三回押した。
「これ、合図だから覚えといて」
いわちゃんは鍵を開けて部屋の中に入った。ちょっと緊張しながら後に続く。
「ただいま。連れてきたよ」
リビングとおぼしきドアを開けたいわちゃんが中に向かって声をかけた。彼女の肩越しに覗き込むと、りぃちゃん、つのちゃん、もえちゃんと、誰かは知らないがモデルのような綺麗なお姉さんがいた。
おずおずとリビングに入る。そこは思った以上に広く、俺の部屋の倍はありそうだった。部屋の真ん中に置かれたローテーブルの周りに四人は集まって、つのちゃんともえちゃんは床にクッションを敷いて座り、りぃちゃんはごろりと寝そべっていて、お姉さんだけは高そうなソファに優雅に凭れている。
「彼がそうなんですね?」
もえちゃんが口を開いた。
「なんか弱っちそーだな!」
つのちゃんがガハハと八重歯を見せて笑った。その額にはなんと、黒くて短い角が二本生えている。
「わたくしには分かるわ。その子は"本物"よ」
お姉さんはワイングラスをくるくると揺らしている。
りぃちゃんはというと、俺を一瞥すると興味なさげにあくびをした。
いわちゃんが俺を振り返った。何だろうと思って見ていると脇腹をつつかれた。自己紹介をしろということらしい。
「あ、えっと……ハルといいます。いわちゃんのオタク……なんですけど、なんか、呪力があるって言われて、その、何かできればって思って……来ました」
しどろもどろになりながら言うと、値踏みをするような視線が俺に集まった。
「でも貴方、力の使い方すら分かってないんですよね?」
もえちゃんは怪訝な顔をしている。
「なんだ、そーなのか!? ダメじゃんか!」
つのちゃんはまたガハハと笑った。
「でも、間違いなく素質はあるわ。磨けば光るわよ、この坊や」
お姉さんはワインを一息で飲み干すと言った。
「貴女がそう言うなら……でも、どうやって呪力を使えるようにするんです?」
「それは知らないけど」
もえちゃんの言葉をお姉さんは一蹴した。部屋に沈黙が漂う。
すると、黙っていたりぃちゃんが俺をちらりと見て言った。
「明日、君に電話がかかってくるよぉ。その人に、ぜぇんぶ話してごらぁん。そしたらなんかぁ、分かると思う~」
りぃちゃんはまた大きなあくびをした。
「……だって。りぃちゃんの予感は当たるから、その通りにしてよ」
俺はいわちゃんの言葉にこくこくと頷いた。
「ところで……」
俺は先ほどから抱いていた疑問を口にすることにした。
「みなさんは、その、何の妖怪なんですか?」




