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第3話

 近くのカフェで小一時間ほど時間を潰し、俺は会場へと戻ってきた。裏口へ行くには細い路地を通らなければならない。俺は二、三度周囲を窺ってから路地へ足を踏み入れた。ただでさえ狭い道に、ライブハウスが出したゴミやら段ボールやらが置かれていて歩きづらい。俺はそれらにぶつからないよう、そろそろと奥へ進んだ。

 一際高く積み上げられた段ボールの陰に、いわちゃんはいた。いわちゃんは厳しい表情でスマホを見ていたが、俺が来たことに気付くとホッとしたように笑顔を見せた。

「……ハルくん。よかった、来てくれたんだ」

「い、いわちゃん……。ど、ど、どうしたの? 助けて、なんて……」

 内緒で会っていることに緊張して、上手く喋れない。そんな俺に、いわちゃんは真剣な視線を向けてきた。

「ハルくんの力を貸してほしいの」

「ち、力? 俺ヒョロガリだから力なんて……」

「そうじゃなくて、力だよ。ハルくん、ものすごいもの持ってるじゃない」

「え、え? 何のこと?」

 するといわちゃんは、呆れたような落胆したような表情を浮かべて言った。

「何? あんた自覚無いの?」

 それは、俺の知っているいわちゃんの口調ではなかった。

「え、いわちゃ……」

「はぁ……せっかく強い力の持ち主見つけたと思ったのに、とんだ見込み違いだった」

 いわちゃんは溜め息をついた。

「ま、待って、いわちゃん。は、話が読めないよ」

 いわちゃんは俺をビシッと指差して言った。

「いい? あんたはね、ものすごーく強い呪力を持ってるの! あたしはね、それを使って助けてほしかったの! なのに、呪力があることにすら気付いてなかったなんて……がっかり」

 いわちゃんは肩を落としてしまった。

「ご、ごめん……。で、でも待ってよ。俺が知らないその、呪力とかってやつ、なんでいわちゃんが知ってるの?」

「これよ」

 いわちゃんは手のひらを見せてきた。痛々しいほど真っ赤になっている。

「あんたに触るとこうなるの。痛痒くってしょうがない。でも、それで気付いた。あんたが呪力を持ってるって」

「えっ……? 今までそんな風になったこと、一度も無いよ」

「そりゃ、普通の人間相手じゃそうでしょうね」

 いわちゃんはふっと笑った。

 普通の人間にはそうならない。つまり……

「いわちゃんは……人間、じゃないの……?」

「うん」

 いわちゃんはあっさりと認めた。

「あたし、幽霊なの。っていうか、怨霊? かな」

 いわちゃんが……推しが、怨霊?

「な、何言ってるの、いわちゃん? あっ、そうか、これドッキリでしょ? どこかで撮ってて……」

 いわちゃんはまた溜め息をついた。

「しょうがないなぁ……見てて」

 そう言うといわちゃんは積み重なった段ボールに手を伸ばした。すぐにぶつかるはずのそれは、なんと段ボールを貫通した。

「ね、分かったでしょ」

 いわちゃんは透き通った手を握ったり開いたりして見せた。こんな非現実的なものを見せられては信じざるをえない。俺は小さく頷いた。

「それで、俺は何をしたら……」

「あー、いいよそれ、もう」

 いわちゃんは首を振った。

「あんたの呪力をあてにしてたけど、使い方も分かってないんじゃ仕方ないよ。今日のことは忘れて」

 そう言っていわちゃんは悲しげに目を伏せた。そんな彼女を見て俺は……どうしても放っておけなくなってしまった。

「で、でも、呪力はあるんだよね? 使い方が分かったら、いわちゃんを助けられる?」

 いわちゃんは顔を上げた。その瞳には、小さな希望の光が灯っていた。

「……やってくれるの?」

「う、うん。俺にできることだったら。いわちゃんが困ってるなら、何だってしてあげたい。いわちゃんは俺の……推し、だから」

 そう言うといわちゃんは泣きそうな顔で微笑んだ。

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