第21話
「うふふ……あはは……あーっはっはっはっはっ! かかったわねぇ!」
どこからかたまき様の高笑いが聞こえてきた。
「たま……!? お前の仕業か! どこだ、どこにいる!」
芦田が声を荒らげながら辺りを見回す。俺も声の出所を探してキョロキョロするが、見当たらない。
「うふ、ここよ。こーこ」
芦田の左手に握られたペンライトがぼわんっと煙を発し、たまき様へと姿を変えた。
「たまき様!」
「たまちゃぁん!」
俺といわちゃん、りぃちゃんの声が重なった。
「みんな見事に化かされてくれちゃって。ほら、坊やのよ」
たまき様はそう言うと俺にペンライトを投げてよこした。手に馴染む感覚。間違いなく俺のものだ。
「おのれっ……! 馬鹿にしやがって!」
芦田がたまき様を突き飛ばした。
「きゃあっ! 何すんのよっ……! 坊や! やっておしまい!」
「はいっ!」
素早くペンライトを芦田に向け、力を放つ!
「イェッタイガー!!」
芦田は慌てて弾こうとするが、それより早く到達した光線は左手に当たり、小指の──りぃちゃんの指輪を砕いた。
「しまった……!」
指輪は細かな白い光の粒になり、掴もうとする芦田の手をすり抜け、りぃちゃんの額に触れると溶けるように吸い込まれた。
「畜生っ……! おい貴様ら! お遊びは終わりだ! こいつの命が惜しけりゃ投降しろ!」
いつの間にか芦田は、たまき様の首根っこを掴んでジッポの火を近づけていた。
「たまき様……!」
いわちゃんが悲鳴をあげる。たまき様は憎々しげに芦田を睨んでいたが迂闊に手を出せないようだった。
「お前! そのオモチャを床に置け! 跪いて両手を挙げろ!」
人質を取られてはどうしようもない。俺は芦田の言う通りにした。クソ、ここまで追い詰めたのに……。
「安心せよ、童。儂がおる」
ふと、頭上から声がした。ちらりとそちらを見ると、瞳に金色の光を湛えたりぃちゃんが凛と立っていた。
「儂は自分が何者か、すっかり思い出した。儂は……ぬらりひょん。百鬼夜行を束ねる物の怪の頭ぞ」
りぃちゃんは悠然と微笑んだ。
「はははっ、何ができるかも分からねぇ木偶の坊だろ。お前なんか怖くもねぇ」
「そう。儂は何ができるとも伝えられていない、掴み所のない妖怪……故に、見る者の見るようになる。儂の力は見るもの次第。お前が望むなら、何だって出来る」
りぃちゃんが俺の顔をじっと見る。
「さあ、童。儂に何を望む?」
俺は叫んだ。
「ひゃっこのみんなの"大事なもの"を取り返して!」
「心得た」
りぃちゃんは目を細めて笑うと、ぬらりと姿を消した。そして、ひょんと芦田の前に現れたかと思うと、その左手を捻りあげた。何か力を使っているのか、芦田は怯えた表情のまま固まっている。
「儂の記憶を奪った挙げ句、散々こき使ってくれたな。まあ、報いは他の者が与えようて」
りぃちゃんは四つの指輪を抜き取ると握りつぶした。四色の光の粒が宙を舞う。水色の光はいわちゃんの中に吸い込まれ、他は各々の側に下りて"大事なもの"の姿に変わった。
「あ……戻ってきた……!あたしの"怨み"が……!」
いわちゃんが歓喜の声をあげた。たまき様も宝玉を大事そうに抱きしめている。
「あ……ああっ……!」
芦田は膝をつき、がっくりとうなだれた。りぃちゃんは興味を失ったようにこちらへ戻ってきた。
そんな芦田に近づく影が一つ。いわちゃんだ。その目は血走り、唇は怒りで歪んで……俺の知らないいわちゃんがそこにいた。
「よくも……よくもあたし達の大事なものを奪って、苦しめたな……! お前には死ぬより惨たらしい目に遭ってもらう……!」
いわちゃんは芦田に両手をかざした。すると、芦田の体がどす黒い靄に包まれた。目は虚ろに、口は半開きになり、顔中の穴という穴から液体が流れ出す。芦田はそのままフラフラと立ち上がると、俺達に背を向け、覚束ない足取りで会場を去っていった。
「……やだな、ハルにはこんなとこ見せたくなかったのに」
振り返ったいわちゃんはいつも通り可愛くて……そして、とても清々しい顔をしていた。




