第20話
「いわちゃんっ……いわちゃん……!」
何度呼び掛けても彼女の瞼は閉じられたまま。
「ははっ……あっはっはっは! やっちまったな、お前! 自分の手で、だぁい好きな推しを! はぁ……傑作だよ」
芦田は高笑いした。睨み付けるも、どこ吹く風といった様子だ。
「クソッ……! イェッ……タイガー!」
「効かねえよ」
渾身の攻撃は簡単に弾かれてしまった。万事休すか……と思った時だった。
「ハル、見て」
りぃちゃんが俺のTシャツの裾を引っ張った。
「え?」
振り向くとりぃちゃんは、倒れ伏すいわちゃんを指差している。その体は、淡い水色の光に包まれていた。
「な、なんだこれ……!?」
水色の光はいわちゃんの胸元に集まると、体の中に吸い込まれていった。
ぴくり、といわちゃんの瞼が震えた。
「い……いわちゃん……?」
おそるおそる呼びかけると、彼女はゆっくりと目を開いた。
「あれ、あたし……」
いわちゃんが上半身を起こす。
「いわちゃん……! 体は……?」
「……全然、なんともないや」
いわちゃんもびっくりして胸元を撫でている。
「いわちゃぁん! よかったぁ!」
りぃちゃんがいわちゃんの背中から抱きついた。
「でも、どうして……?」
「君のぉ、おかげだよぉ」
りぃちゃんが俺を指差す。
「君の言葉がぁ、呪文になってぇ、いわちゃんをぉ、癒したんだよぉ」
「俺が……!?」
「そっか……ハル、ありがと」
いわちゃんが俺に笑いかけた。その笑顔は、俺に戦う意思を取り戻させてくれた。
「な……なんでだよ!? 呪文は三つしか使えないはずじゃ……!?」
芦田にとっても想定外の出来事だったようで、激しく取り乱している。今だっ……!
「タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!」
ペンライトから飛び出したつむじ風は芦田の顔に一筋の傷をつけた。滴った血がシャツの襟にシミを作っている。
「クソッ……舐めやがって!」
芦田はすぐさまジッポに火を点け呪文を唱えた。風が矢のようにこちらに飛んでくる。
「チャペ! アペ! カラ! キナ! ララ! トゥスケ! ミョーホントゥスケ!」
咄嗟にいわちゃんとりぃちゃんの前にバリアを貼った。しかし自分の分は間に合わなかった。風の矢が右肩に突き刺さり、俺は思わずペンライトを取り落とした。
「しまった……!」
ペンライトはコロコロと芦田の元へ転がっていった。それを拾い上げた芦田は、勝ちを確信したように笑う。
「防御の呪文まで使えるとはね。でも、終わりだ」
芦田がジッポの炎を俺達に向けた。みんな、ごめん……ここまでみたいだ……。俺はぎゅっと目を瞑った。
しかし、いつまで経っても攻撃は飛んでこなかった。
そっと目を開けると、芦田は驚いた顔で右手のジッポを見つめていた。その親指は火を点ける寸前で止まっている。
「指が……動かない……!?」
「うふふ……あはは……あーっはっはっはっはっ! かかったわねぇ!」




