第19話
「あれ、もう二匹倒しちゃったよ? あとは……ただの幽霊と、木偶の坊と、ぺーぺーのお前だけだ。今降参するなら今回のことは見逃してやるよ。さあ、どうする?」
サディスティックな笑みを浮かべる芦田。俺はいわちゃんとりぃちゃんを庇うように前に出た。
「……まだやる気か。じゃあお望み通り、再起不能にしてやる!」
芦田がジッポを構えた瞬間、俺は呪文を唱えた。
「虎! 火! 人造! 繊維! 海女! 振動! 化繊!」
芦田の動きが止まった。今だ!
「イェッタイ……」
「……はっ、この程度か」
芦田は五秒と経たずに動き出した。奴相手じゃ効かないのか……!?
芦田のジッポに火が点る。口元が小さく動いた、次の瞬間。
……えっ?
俺の動きが止められた。どれだけ力を込めても、手も足もびくともしない。瞬きすらも許されない。石のように固まった俺を芦田が愉快そうに眺めている。
「ははっ、無様だね。……そうだ、その呪文見せてみろよ」
また芦田の口元が動く。すると、ペンライトを持った手が勝手に動き出した。それは……いわちゃんに向いて、ピタリと止まった。いわちゃんが驚いた顔をする。
まさか、やめろ……!
「イェッ……」
俺の意志とは裏腹に、口が勝手に呪文を紡ぐ。いわちゃん、逃げてくれ……!
「タイガー」
俺の願いも虚しく、ペンライトの先から飛び出した眩い光線がいわちゃんの胸を貫いた。
いわちゃんは崩れ落ち、仰向けに倒れた。
俺は途端に芦田の力から解放され、床に叩きつけられた。
すぐさま這いつくばっていわちゃんの元へ行く。りぃちゃんも駆け寄ってきたが、膝をついて呆然としている。
「いわちゃん! いわちゃん! しっかりして……!」
いわちゃんの手を取ると、彼女は虚ろな目で俺を見上げた。
「ハ……ル……」
「ごめん! おれのせいでっ……!」
いわちゃんは小さく首を振った。
「悪いのは……あたし……。楽しく推してくれてたハルに……可愛くないとこ見せて……こんなことに巻き込んじゃって……アイドル、失格だね……」
「違う……違うっ!」
いつの間にか俺の目から涙が溢れていた。
「いわちゃん、言いたいことがあるんだよ……! いわちゃんは……やっぱり可愛いよ……。好きで、好きで、大好きで……いわちゃんが人間じゃないって知っても……やっぱり好きで……。俺にとって、やっと見つけたお姫様なんだ……。俺が生まれてきた理由は……それは、いわちゃんに出会うためだったんだと思う……。いわちゃん、まだ逝かないで……!俺と一緒に、まだアイドル人生歩もう……!世界で一番……アイドルのいわちゃんを愛してる……愛してるんだっ……!」
いわちゃんが一瞬だけ、目を見開いた。
「何、それ……まるでガチ恋口上じゃない」
いわちゃんは小さく微笑むと瞼を閉じた。
「いわちゃん……?」
思わず彼女の手を離すと、くたりと床に落ちた。




