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第15話

 呼び鈴を三回連打する。ドアを開けてくれたいわちゃんは憔悴している様子だった。リビングにいた三人も同様。

「たまき様、帰ってこないって……」

「うん、前にも一晩中飲み歩いてて帰ってこなかったことはあったけど、二日も帰らないなんて……」

 いわちゃんが俯いた。

「なんか、やべえことに巻き込まれてないよな?」

「そうかもしれません。早く探しに……」

「その必要は無いわよ」

 たまき様の声がした。ハッとして振り向くとそこには、艶やかな笑みを浮かべるたまき様と──芦田さんが立っていた。

「芦田っ……!? なんで……」

「たまが教えてくれたよ。お前達、楽しそうなことを考えてるね」

 芦田さん……芦田は俺をじっと見てきた。

「君がライブ会場で力を溢していたから、何かあるなぁと思って聞いてみたら、俺に反旗を翻そうとしてるっていうじゃないか。……いい度胸してるね」

 芦田は薄ら笑いを浮かべた。なんてことだ、現場でタイガーファイヤーなどと叫んでいた時、呪力が漏れ出ていたなんて。そしてそれを、芦田に気付かれていたなんて……。

「ごめんなさいねぇ、教えたらわたくしの宝玉、返してくれるって言うんだもの。喋っちゃった」

 たまき様は甘えるように芦田に体を寄せる。

「その代わり、死ぬまで俺に尽くしてもらうからな?」

 芦田はたまき様の肩を抱いた。

「そうだ、お前達にもいいことを教えてやるよ」

 芦田は左手を俺達に見せつけた。五本の指にはそれぞれ、水色、ピンク、黄色、紫、そして透明の宝石が嵌まった指輪を着けている。

「この石にお前達の"大事なもの"を封じ込めた。そして一年間俺が所有していれば、永遠に俺のものになるという術をかけている。その期限は三日後……ワンマンライブの日だ」

「……!」

 いわちゃん達が息を飲んだ。俺達に残された時間は、ほんの僅かだったのだ。

「あと三日で君は、俺に勝てるかな?」

 いや、勝てるわけがない……そんな芦田の言葉が聞こえてくるようだった。

「分からないだろっ……!」

 俺は鞄からペンライトを引き抜いた。

「タイガーファイヤー……」

 俺が叫ぶよりも早く、芦田は懐からジッポライターを取り出した。口元がかすかに動いた、次の瞬間。

「ぐはっ……!」

 俺は壁に叩きつけられた。

「ハル……!?」

 いわちゃんが駆け寄って支えてくれるが、体中がジンジンと痛い。

「呪文は短い方が良いって教わらなかった? ていうか俺、それ嫌いなんだよね。オタクがギャーギャー喚いててうるせえの」

「この坊や、三つしか呪文使えないのに貴方に挑もうとしてたの。笑っちゃうわよね」

 芦田とたまき様が嘲るように笑った。

「とにかく、これで分かっただろ? お前達は俺には勝てない。無駄なことはやめて、ワンマンライブに集中しろ。チケット完売してるんだから、ちゃんとやってもらわないと困るよ」

 そう言い残すと、芦田はたまき様を引き連れて部屋を出ていった。

 残された俺達は、しばらく沈痛な面持ちで黙っていた。

「たまき様が……裏切った……」

 ぽつりといわちゃんが呟いた。

「ちくしょう! あんの化け狐! アタシ達を馬鹿にしやがって!」

 つのちゃんが拳でローテーブルを叩く。

「それもですが……芦田が言っていた、三日後に我々の大事なものが奴の手に落ちてしまうという話……。我々にはもう、猶予がない」

 もえちゃんは頭を抱えた。

 再び場を沈黙が支配する。

 それを破ったのは、りぃちゃんだった。

「戦おう」

「……えっ?」

 りぃちゃんは立ち上がり、俺達の顔を順に見た。

「こうなったらぁ、正面からぁ、戦うしかないよぉ。その子の成長とかぁ、待ってられなぁい。今持てる力のぉ、全てをぶつけてぇ、大事なものぉ、取り返そぉう!」

 りぃちゃんは拳を天に突き上げた。

「りぃちゃん……」

 俺達は戸惑った。あのりぃちゃんが、芦田相手に戦うべきだと述べているのだ。敵うはずがないことは、彼女だって理解しているはずだ。それでも……。

「その通りだよ」

 声をあげたのはいわちゃんだった。

「このまま引き下がるなんてできない。あたしは、絶対に大事なものを取り戻したい」

 つのちゃんも同調した。

「おうよ! あんにゃろうにギャフンと言わせなきゃ、腹の虫が収まんねえぜ! ガハハ!」

「どうせこのままでは、大事なものを奴に取られてしまう。それなら、玉砕覚悟でチャレンジするのも悪くはありません」

 もえちゃんは冷静に、しかし熱のこもった口調で言った。

 四人の視線が俺に集まる。

「ハル……大変な戦いになると思う。あんたも、危ない目に遭うかもしれない。でも……あたし達にはハルの力が必要なの。お願い、あたし達を助けて!」

 すがるようないわちゃんの目。俺の答えは、とうに決まっていた。

「もちろん。俺は……みんなのために戦う!」

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