第14話
翌日のバイトは遅番だったので午前中に修行をし、帰ってからは瞑想をした。"視える"力はかなり眩しくなっていて、最初の頃みたいに強く意識しなくても放てるようになってきた。これならいわちゃん達の力になれる日も近いかもしれない。
時計を見ると日付を越える少し前だった。明日はいわちゃん達のマンションに行く日だ。修行の成果を見てもらわないと。俺は早めに寝て明日に備えることにした。
一周年ワンマンまであと五日。いつものように呼び鈴を三回鳴らすと、いわちゃんがドアを開けてくれた。しかし、その表情は暗い。それに、奥から言い争うような声も聞こえる。
「どうしたの、いわちゃん?」
「……とりあえず、入って」
促されるままリビングに入る。立ち上がって声を荒らげているのはたまき様だった。
「いつまでこの状況に甘んじているつもり!? あんた達だって早く大事な物を取り返したいでしょ!?」
「ですからたまき様。今の私達では芦田には敵いません。もっと入念に準備をしてから……」
「坊やがアイツ並になるのを待ってたら一生取り返せないわよ!」
「い、一旦落ち着けよぉ……」
もえちゃんが宥めようとしているがたまき様の勢いは止まらず、あのつのちゃんがおろおろしている。りぃちゃんだけは面白そうにみんなを眺めていた。
「ど、どうしたの……」
「……たまき様が、さっさと芦田に戦いを仕掛けようって言い出したの。あたし達はまだ早いって止めてるんだけど……」
キッとたまき様が俺に鋭い視線を向けた。
「坊や、どうなの修行は! ちゃんとやってるんでしょうね?」
「は、はい! 毎日やってます……。風は部屋の中だと危ないレベルには使えるようになってきて、動きを止めるのとか、バリアとかを今日見てもらおうと……」
「今すぐやってみなさい!」
俺はたまき様に言われるがままに、慌ててペンライトを取り出した。
「鬼! 相手しなさい!」
「お、おう……」
渋々立ち上がったつのちゃんに向け、呪文を唱える。
「虎! 火! 人造! 繊維! 海女! 振動! 化繊!」
つのちゃんの動きがピタリと止まった。再び動きだすまで、十秒はかかっていただろう。
「悪くないわね。次、バリア! 火車、やんなさい!」
「……はい」
もえちゃんが小さな炎をいくつか放った。それに向かってペンライトを振る。
「チャペ! アペ! カラ! キナ! ララ! トゥスケ! ミョーホントゥスケ!」
小さな炎はバリアに当たって散った。
「もっと強いの!」
「……」
もえちゃんはさっきよりふた回りは大きな炎を飛ばしたが、バリアはそれも難なく防いだ。
「上出来じゃない。これならアイツとも戦えるわ!」
たまき様が勝ち誇ったように笑う。しかし他のみんなは浮かない顔をしている。
「……やっぱり、まだ時期尚早だと思います。鍛えたとはいえ、今の彼では芦田には及ばない」
「そうだよ。生半可な状態で挑んだら、ハルが……あたし達だって、危ないかもしれない」
「だったら何? わたくしは宝玉を取り返せるなら多少の犠牲なんて厭わないわよ」
「そんな……!」
いわちゃんは言葉を失って立ち尽くしている。
「坊やはどうなの? そんだけ修行してるんなら、自信あるんじゃないの?」
「それは……」
呪力が"視える"ようになって、それが強くなっているのも分かっているから、自信はついてきた。でも……たまき様ですら敵わないと言われている芦田さんと戦えるかと言われると、正直難しいんじゃないか……。
「俺も……まだ、戦いを仕掛けるには早いんじゃないかと思います……」
そう言うとたまき様は深い溜め息をついた。
「坊やもそう言うのね……本当、頼りにならない子ばっかり。もういいわ」
たまき様はそのまま部屋を出ていってしまった。沈黙が部屋を支配する中、いわちゃんがぽつりと呟いた。
「……たまき様の気持ちは分かるよ。あたしだって、早く"怨み"を取り戻したい。けど……今の状態じゃ芦田には勝てないし、そうなったら一番危険なのはハルだから……」
いわちゃんは俺の身を案じて、たまき様を説得しようとしてくれていたのだ。
「いわちゃん、ごめん……俺の力が足りないばっかりに……」
「ううん。あんたは頑張ってる。修行だって一生懸命やってくれてるんでしょ」
いわちゃんの言葉に小さく頷く。いわちゃんを助けたい一心で修行に打ち込んでいるのは嘘ではない。
「それに、一度芦田に挑んで敵わなかった場合、奴は守りを強固にする可能性が高いです。奇襲をして確実に勝てるようにしないと、勝算は低いでしょう」
冷静なもえちゃんの分析。確かに、芦田さんが油断しているところを攻められるのが一番だろう。失敗すれば、芦田さんは警戒する。そうなれば、俺達の勝ち目は薄くなる。
「何度もそう言ったんですけどね……。たまき様は自分の意見が通らないのが一番許せないんです。でも、彼女だって力の差は分かっているはずですから、そのうち折れて戻ってくるでしょう」
「そうそう。腹減ったら戻ってくるんじゃねえか? それより、さっきの動けなくなるやつやってくれよ! 絶対破ってやるからさ!」
もえちゃんとつのちゃんの言葉に安心したのか、いわちゃんがやっと笑顔を見せた。
「うん……。今は、できることをやろう。ハル、いける?」
「うん!」
その後、みんなと修行をした俺は帰路についた。たまき様は帰ってこなかった。
次の日はバイトに行った後修行と瞑想をする、最近はすっかり馴染んできたルーティーンをこなした。
さて、そろそろ寝るかとスマホを確認すると、いわちゃんからメッセージが届いていた。なんだろう、と即確認するとそこには
『たまき様が帰ってこない。明日みんなで探しに行くから手伝って』
と書かれていた。




