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第13話

 翌日。今日のライブは夕方からだ。バイトは無いし、午前中は修行をすることにした。机いっぱいに蝋燭を並べる。その数五十本。

 俺は目を閉じて、昨夜瞑想した時の感覚を蘇らせた。ペンライトを握る右手に、呪力の光を集めて……

「タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!」

ビュオウッ!

 ペンライトの先から、台風の最中のような強風が巻き起こった。風は床に放置していたゴミを巻き上げながら机へと向かい、蝋燭の炎を根こそぎ刈り取った。

「す、すげえ……」

 いわちゃん、もえちゃん、りぃちゃん、そしてたまき様のアドバイスを取り入れた俺は、かなりの力を扱えるようになったみたいだ。敷金の危機を感じた俺は、部屋で風を扱うのは止めておくことにした。このくらいの威力があれば、人間相手なら十分だろう。

 代わりに、動きを止められる時間を延ばせるかやってみるか。右手を強く意識したまま、ペットボトルをぽんと放り……

「虎! 火! 人造! 繊維! 海女! 振動! 化繊!」

 ペットボトルは五秒くらい宙に浮いた後ぽとりと落ちた。うーん、五秒か。まだ心許ない。

「虎! 火! 人造! 繊維! 海女! 振動! 化繊!」

 俺は家を出るギリギリまで修行を続けた。


 本日もひゃっこのライブはパーフェクトだった。きっとワンマン前で忙しいだろうに、彼女達は一寸の疲れも見せない。まさにプロフェッショナルだ。いわちゃんの歌声は今日もエクセレントでオーサムだった。俺はいわちゃん推しで良かったとしみじみ思った。

 例によってチェキ券を買うため列に並んでいると、なんだか視線を感じる気がした。振り向いてみると、遠くに芦田さんが立っていた。また来てるのか、いやワンマン前だしこんなもんか? と思っていると、彼がニヤリと笑うのが見えた。ぞわり、と鳥肌が立った。なんかすごく、嫌な感じだ……。

「次の方ー? どうぞー」

 トリヤマさんの声にハッとする。順番が回ってきていたみたいだ。俺は慌てて財布を出した。

 チェキ券を購入し終えた俺は芦田マネージャーの姿を探してみたが、もうどこにもいなかった。


「ハルくん、今日も来てくれてありがとう」

 いわちゃんは昨日も会っていることをおくびにも出さずに迎えてくれる。なので俺も、

「いわちゃん、今日もいい歌声だったよ」

と当たり障りの無いことを言う。

「ハルくん、ちょっと疲れてない?」

 いわちゃんが俺の顔を覗き込んだ。家を出るまで修行してたから、多少の疲労はあったが、それを見抜くとは流石いわちゃんだ。

「大丈夫だよ。いわちゃんこそ、ワンマンの準備もあって大変なんじゃない?」

「私は平気。衣装着てる間は、疲れなんて感じないよ!」

 アイドルとして百点満点の答えに涙が出そうになる。

 お時間でーすとスタッフが告げた。離れがたかったが仕方ない。俺はいわちゃんからチェキを受け取りその場を後にした。チェキには「ハルくんファイト♡」と書かれていた。


 次の日は朝からバイトに行き、帰ってからはずっと修行をした。室内で風の呪文が使えない分、動きを止める呪文とバリアを主に練習したが、やっぱり成果が分かりづらい。次にいわちゃん達の家に行くのは三日後だから、その時に見てもらうことにしよう。

 瞑想も毎日続けている。"視える"光がだんだん強くなっているのを感じ、修行が身になっていることを実感できた。自分の呪力にある程度自信が持てるようにはなってきたが、芦田と対峙すると思うとまだ気が引ける。だってあのたまき様ですら敵わないというのだから。

 でもやれることはやっているし、芦田との対決だってまだ先のことだろう。焦る必要はない。それより、明日はひゃっこのライブがあるから寝ないとな。俺はベッドに体を投げだした。


 ひゃっこの一周年ワンマンライブまであと一週間となった。今日はワンマン前最後の現場だ。バイトの早番をこなした俺は、その足で会場に向かった。

 今日もひゃっこのライブはいとおかしであった。ひゃっこの辞書に「退屈」や「マンネリ」の文字こそ無し。いわちゃんはいみじくもあはれなる様なりければ俺はいとたふとしと思った。意味が分からない? 俺もだ。

 チェキ券を購入するため列に並んでいると、またしても視線を感じた。振り向くとやはりと言うべきか、芦田さんがいた。何が可笑しいのか、彼は笑いながらこちらを手を振っている。気味が悪くなった俺は、すぐに前に向き直った。


「ハルくんありがとう~!」

 今日もいわちゃんは満面の笑みで迎えてくれた。

「いわちゃん。ライブ楽しすぎて狂うかと思ったよ」

「アハハ、何それ」

 いわちゃんは歯を見せて笑った。

「調子はどう?」

 パシャパシャとチェキを撮られながらいわちゃんが聞いてきた。十中八九修行のことだろう。俺は

「順調だよ、たま……ちゃんのおかげで」

と答えた。

「……そっか。それなら良かった」

 ……あれ。たまちゃんの名前を出した瞬間、いわちゃんの表情が曇った気がした。

「ワンマンライブ、楽しみにしてて」

 そう言ったいわちゃんは、さっきまでの笑顔に戻っていた。

「うん、めちゃくちゃ楽しみだよ」

 お時間でーすとスタッフが告げた。寂しいが仕方ない。俺はいわちゃんからチェキを受け取って退出した。チェキには「無理しないでね♡」と書かれていた。

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