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第11話

 二日後、俺はいわちゃん達のマンションに来ていた。九階の最奥の部屋の呼び鈴を、例によって三回鳴らす。ガチャッとドアが開いた。が、そこには誰もいなかった。

 不思議に思って立ち尽くしていると、奥からたまき様の声がした。

「何してるの、坊や。早くお入り」

「えっ、あっ、お邪魔します……」

 リビングに入ると、たまき様が一人でワインを嗜んでいた。

「あれっ、たまき様だけですか?」

「何、不満なの?」

 たまき様がジロリと俺を睨む。

「いえ、そんなことはありません!」

「まぁ、いいけど。他の子達はレッスンに行ってるわ」

「たまき様は行かなくていいんですか?」

「わたくしには必要無いもの」

 たまき様はワインを一口飲んで悠然と笑った。確かに"たまちゃん"は歌もダンスも完璧だしな……と、俺は納得することにした。

「そういえばさっき、ドアが勝手に開いたんですけど……あれってたまき様の力ですか?」

「そうよ」

 たまき様はドヤ顔で言った。

「すごい、そんなことまでできるんですね! 他にはどんなことができるんですか?」

 俺の賛辞に気を良くしたのか、たまき様はワインをあおると語り始めた。

「わたくしができることは大きく分けて二つ。変化変化(へんげ)と手を触れずに物に干渉することよ。まず変化だけれど、これはわたくし自身と、わたくしが触れたものを別の姿に変えることができるの。命を持たない物を生物に変えることはできないけれど、逆ならできるわ。次に手から離れた物への干渉……これ、すご~く難しいのよ。うちの兄や姉でもできないくらいね。でもわたくしはできる。イメージとしては、自分の四肢を延長させられるみたいなもの……って言ったら伝わるかしら。実際に伸びるわけではないけれど、伸びて触ったのと同じように影響を与えられるって感じね」

 ほら、とたまき様は左手をワインボトルにかざした。するとワインボトルが勝手に持ち上がり、中身をなみなみとグラスに注いだ。

「すげえ……!」

「でしょう? まぁあんまりにも難しくて半径五メートルくらいが関の山だし、たまに失敗するするけど……」

 後半小声でもにょもにょ言ってたのは聞こえていないフリをしてあげることにした。

「さすがたまき様! 玉藻前様のご子孫なだけありますね!」

「うふふ、そうでしょ」

 たまき様は気分良さげにワインを一口飲んだ。

「でもそれなら、芦田……さんに干渉して大事な物を返してもらえるのでは?」

 するとたまき様は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「そんなの、とっくに試したわよ。でも、指一本動かすのに精一杯だったわ」

「そんなに……芦田さんは強いんですか……?」

「ええ。呪力も強ければ使うセンスにも秀でている。今の坊やじゃ逆立ちしたって敵いっこないわよ」

 たまき様の言葉がズシンとのしかかる。

「……でも、力になりたいんです」

「ふふ、そんなにあの子にゾッコンなのね。坊やのオタク根性、嫌いじゃないわよ」

 たまき様は珍しく優しい笑顔を見せた。

 俺は改めてたまき様に力を使うコツを聞いてみることにした。また、キューンとしてドカーンとか言われるかと思ったが、俺の予想は良い意味で裏切られた。

「もう聞いてるかもしれないけれど、坊やの力はわたくし達が使う妖力と違って、精神力を呪力に変換してるの。だから、土台の精神力が足りなくちゃ安定しないわ。まずは毎日三十分、瞑想なさい。余計な考え事をしないで、精神の質を上げるの。ここに強い意志……まぁ、気持ちね。それを絡めて呪力として練り上げる」

 具体的なアドバイスをもらえたことに驚いた。しかし、精神力の鍛え方が分かったのは大きい。正直"いわちゃんのために頑張る"だけでは限界があると思っていたのでありがたかった。

 たまき様は続ける。

「呪力の質が高まれば、その存在がハッキリ捕らえられる。目には見えないけれど"視える"ようになるの。そうすればかなり扱いやすくなるはずよ。力を出力するコツはあの子達が教えてた通りで問題ないわ。あとは頑張りなさい」

「ありがとうございます……!」

 俺は深々と頭を下げた。瞑想、精神の質を上げる、呪力を"視る"……簡単ではやさそうだが、道筋が見えたことが俺の心を奮い立たせた。

「いいのよ。坊やにはわたくし達の切り札になってもらわないと困るんだから」

 たまき様は妖しげな笑みを浮かべるとワインをあおった。

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