わたしにぴったりな事件
「みやちゃんただいまー!」
夕ご飯を食べたわたしはみやちゃんの部屋に向かい、ノックをしてドアを開ける。
「——って、お部屋暗っ?!」
電気、電気——と、スイッチを探すわたしの背中に、みやちゃんが声をかける。
「おかえり、お姉ちゃん」
――よかった。今のみやちゃんはお話しできるみやちゃんのようだ。
「どうしよう。どうすればつかまえられると思う?」
わたしは物置からゲットした戦利品をリュックにつめこみながら、今日の出来事を簡単にみやちゃんに話した。
今回の怪異が現れるのは、決まって日がしずんでからだ。いつもなら今の時間からわたしたち子どもが遠くの公園に行くのは難しい。
「だから慎司くんがおむかえに来てくれるんだって」
音子さんはこの事件を「わたしにぴったりな事件」って言ってたけど、夜に発生する事件が小学生にぴったりっていったいどういうコトなんだろう?——まあ、後で慎司くんに聞けばいいか。
「慎司くんにはね、おむかえはこの部屋の窓に、ってお願いしといたの」
どうしてこの部屋にと思っているのだろう。みやちゃんが首をかしげている。
わたしはみやちゃんが昨日みぞれをながめていた窓を指差した。
「わたしの部屋ってベランダがないでしょう?でも、みやちゃんの部屋はベッドから外が見られるように日の当たる部屋になったじゃない。だから、この部屋の窓からなら外に出れるかなって」
だからお願い!とわたしはみやちゃんに手を合わせる。
「もしお母さんがわたしを探してたら、みやちゃんといっしょに寝ちゃったことにして!」
そう言いながら、わたしはみやちゃんの横に自分の部屋から持ってきた布団をつめる。
これならわたしがみやちゃんの横で寝ているように見えるだろう。おやすみした後の暗い部屋ならなおさらだ。
あれ?でも、今の時間はみやちゃんが起きてるのになんでお部屋の電気が点いてなかったんだろう?ふと、そう思ったとき
――コツンッ!
窓の外で音が聞こえた。
音の方向に振り向くと、李徴の背に乗った慎司くんが窓の外にいた。
慎司くん、もう着いたんだ!わたしはあわてて用意していたリュックをしょってベランダに飛び出る。
「みやちゃん、いってきます!」
ベランダのさくは、わたしのこしよりも少し高い。足が雪ですべらないように、ゆっくりとエアコンの室外機に上り、手すりに足をかけたとき、慎司くんが手を差し出してくれた。
「慎司くん、ありが――」
お礼を言おうと慎司くんを見たら、目線が合わない。そっか、慎司くんも――
「あの部屋は?」
――わたしじゃなくて、みやちゃんを見るんだ。
「………妹」
なんだか空が急に寒くなった気がする。はき出したため息は白く、わたしはマフラーを結び直した。
公園に着く直前に慎司くんがわたしに聞いた。
空をかける李徴の速さで、お家はすっかり見えなくなっていた。
「親には言ったか?」
「言ってないよ。」
「心配はしないか?」
「うん、だいじょうぶ」
わたしがいなくても、お家にはみやちゃんがいる。だからか、もともとお母さんもお父さんも、わたしにあまり話しかけないし、それに――。
「最近はみやちゃんの部屋にいるよっていうとほっといてくれるの」
「………そうか」
足の下で明かりの灯ったお家が並んでいる。窓からこぼれる光の一つ一つがあったかくて、やさしくて、まぶしかった。
わたしは思わず左目をこすった。昼間は速いと感じた李徴のスピードも、今はなぜかすごく遅く感じた。
「ところで、ソレ。何に使うつもりなんだ?」
すっかり辺りが暗くなった公園に、わたしたちは改めて降り立った。
物語の怪異をつかまえるというのに、なぜだか慎司くんの荷物は少ない。対してわたしは大荷物で、慎司くんは理解できないという顔をしている。
「ソレってコレのこと?」
わたしは小学生の夏のおとも、虫取りアミと虫カゴを慎司くんに向かってかかげた。
「なんで虫取りアミなんか持ってきたんだ?」
「かまいたち、虫取りアミでつかまえられないかなっと思って」
慎司くんと一回解散した後、わたしは合流するまでの間にかまいたちについて一応調べていた。
かまいたいちとは、するどい鎌で切ったような傷ができる現象で、昔はイタチのしわざと信じられていたらしい。タブレットで「かまいたち」と画像で検索すると、カマの爪を持つイタチのイラストが何枚か出てきた。
一応かまいたちに使うつもりで持ってきたはいいものの、イタチくらいの大きさのモノをつかまえるのは大変そうだ。わたしはチャンスをにがさないよう、虫取りアミを持って準備運動を始める。
「言っただろう。オレたちがつかまえるのはかまいたちじゃない」
一方、地図と報告書の最終確認する慎司くんはいたって冷静で、となりでブンブン虫取りアミの素振りをするわたしにあきれている。
なによお、かまいたちよりも先に慎司くんの頭をゲットしちゃおうか?!わたしは素振りのスピードをさらに加速させた。
「それに、音子さんはこの件がお前にぴったりだと言った」
「そう!」
そういえば、とわたしはさっきから疑問に思ってたことを口にする。
「そのぴったりってどういう意味?」
怪異に合う人合わない人とかあるのかな? パーはグーよりも強い的な?この場合、虫取りアミを持つ私はパーの側にちがいない。
「これまでの報告と音子さんの言葉から考えると――」
なぜか慎司くんはわたしの質問には答えてくれない。あれ?素振りの音がうるさくて聞こえなかったのかな?
「ねえ!わたしにぴったりってどういう意味?」
わたしは虫取りアミを振り回すのを一旦止めて、慎司くんに呼びかける。
「今日オレたちがつかまえるのは『よだかの星』のよだかだ」
けど、慎司くんはまたわたしの質問をスルーする。
なにそれ!わたしが不満です~って顔でふくれたほっぺを主張すると、慎司くんはチラッとわたしを見てまた無視を決めこみ、そのまま話を進めた。
ちぇっ、ケチ!いったいなんなのよう!わたしはふくらんだほっぺをさらにふくらませた。




