雪が見える原因
「わたしが今の季節に雪が見えるのも、物語の怪異のせい………?」
慎司くんがうなづく。
「だから、オレたち書記は、変わった行動をしている子どもがいたら、物語の怪異に取りつかれていないかを確かめに行く」
昨日、慎司くんはわたしの前に急に現れた。今思えば、夏にマフラーを着けたわたしを見つけて、その理由を確かめるために李徴から飛び降りたんだろう。
――この数時間でずいぶんと変わってしまった、わたしの世界。
慎司くんと出会い、音子さんと話して、物語から生まれる怪異の存在を知った。
だから夏でも雪が降るのはおかしくなくて、きっとわたしの近くにも物語の怪異がいて――。もしかして、わたしがみんなに変な目で見られるのも――。
「そっか、わたしのせいじゃないんだ………」
最後に学校に行った日、クラスメイトがわたしを見てした、居心地が悪そうな顔を思い出す。
わたしになんて話しかけようか、話しかけないほうがいいか。何回かわたしの席に友だちが来ようとして、別の友だちに止められて――。わたしが一度学校を休んでから、周りの人はいつもそんな感じだった。
だからか、いつしかわたしは学校に行けなくなってしまった。………そういえば、久しぶりに学校に行った日だっただろうか、夏に降る雪が見え始めたのは――。
「全部、物語の怪異のせいなんだ………」
数年前、レオ姉が中学校に入った年の夏休みに、昔に流行ったアニメを見せてもらったことがあった。
なつかしいと楽しんでいるレオ姉の横で、わたしはうまくいかないコトをぜんぶ妖怪のせいにできたらどんなにいいだろうと考えていた。
「お前に雪が見えるのはおそらく、物語の怪異のせいだろう」
でも、本当にそんなことが起こるなんて――。コレがわたしのせいじゃないなんて――。じゃあ、雪が見えなくなれば、みんなから変な目で見られることもないし、またふつうに接してもらえるんだ!
ふと、希望が見えた気がした。
「——だが」
慎司くんが言う。
「本来、ふつうの人間は、自分に関わらない怪異が起こすトラブルを目視できない」
やっぱり、わたし自体もオカシいのだと。
わたしの姿にとまどう友だちの顔を思い出すと、胸がキュッとなる。——わたしってどこにいってもいらない子なのかな。
「だからこそ、お前が必要なんだ」
そう落ちこんでたのに、慎司くんは全く逆のことを言う。
「………わたしが、必要?」
目をかくす手を慎司くんが包み、ゆっくりと下した。
「お前みたいに怪異を発見できないオレたちは通常、トラブルに巻きこまれてそうな人に話しかけ、原因となる物語を特定する」
「それって、かなり時間がかからない?」
「これまではそうだった」
開けた視界のなかで、慎司くんはわたしの左目を指差す。
「だが、お前がいれば、すぐに原因を特定できるようになる」
わたしの入所に反対した慎司くんのことだ。きっと、欲しいのはわたし自身ではなく、わたしの目だけなのだろう。
「だから、この件にはお前が欲しい」
人を指で差す行為はイケナイことだってよく聞くけど、――だれかが、こんなにもわたしだけを見てくれるなら、オカシくても、イケナくても、なんだっていい。
わたしはもう左目をかくすことなく、慎司くんを見つめる。
「この怪異、原因となる物語の見当がついているのに、ただでさえ見えない怪異自体の動きが素早くて、何度も取りのがしているんだ。——協力してくれるか?」
慎司くんがわたしを見る目のどこにも、同情も、とまどいもない。——わたしを通してだれかを見ることもない。
ただただ、わたしだけを真っ直ぐに見つめる目。わたしにはその目が久しぶりで、すごくすごくうれしかった。




