いざ、公園へ!
一たいぼくは、なぜこうみんなにいやがられるのだろう。
いつからぼくは、こうして空へのぼっているのだろう。
つい最近のような気もするし、ずっとこうしているような気もする。
――ああ、今夜もたくさんの羽虫が、ぼくののどの中でひどくもがいている。
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音子さんと別れた後、わたしたちは李徴に乗って再びあの公園にもどってきた。
それにしてもこんなに近くで日々物語の怪異が発生しているなんて!わたしはワクワクする気持ちが止められなかった。
「行こう慎司くん!」
「ちょっと待て」
走り出しそうなわたしのカタをつかみ、慎司くんがストップをかける。わたしは走り出したい気持ちをにがすように、自由なうでをぐるぐると回した。
「落ち着け。そして資料をよく見ろ」
慎司くんにうながされ、わたしはさっき音子さんからもらった紙にあらためて目を通す。
なになに。発生場所はこの公園で、事件の内容はかまいたちに似ていること。——これはさっき聞いたことだ。そして、発生時間は――
「日没から夜明けまで!?」
公園の時計を見上げると、時刻は午後2時を過ぎたころ。だけど、慎司くんが指差す先には今よりも4時間以上もあとの時間が書かれていた。
「今回の物語の怪異は、いつも夜中に確認されている」
私から回収した資料を折りたたみ、慎司くんがポケットから別の紙を取り出した。
どうやらこの公園のマップみたいだ。見るとこれまで怪異が発生した場所に赤い丸が付けられている。
「だからオレたちは公園から人が居なくなった時間からこの丸が付いた場所を中心に物語の怪異を探す。けど、この件は23時までに切り上げる必要がある」
「23時?事件の発生は明け方までなのに、なんで?」
素直に疑問に思ったことを聞くと、慎司くんから予想外な返答があった。
「その時間以後の子どもの外出が禁止されているからだ。未成年には夜間外出制限がある。聞いたことないか?」
え、とわたしは思わず声を上げる。
夜間外出制限と口にする、目の前のカミの毛の白い男の子。そのカレの見た目はどう見ても校則を守ってなさそうなのに、夜になったら帰りなさい、なんてお母さんみたいなことを言うなんて――。
その似合わない姿になんだかわたしは笑ってしまった。
「慎司くんってカミの毛染めているのに、町のルールは守るんだね」
そう思わず言ってしまったわたしに、慎司くんがおどろいた顔をする。
「お前、やっぱり………」
そうつぶやいて慎司くんがしゃべらなくなってしまった。
そういえば、昨日もこんなおどろいた目で見られたような………。なんとなく気まずくなった空気をかえたくて、わたしは大きな声を出す。
「そ!そういえば!木にかまいたちみたいなキズがつけられてるんだっけ?しかもケガをした子もいるんだよね!実は本物のかまいたちのしわざだったりし――」
「いや、それはない」
あまりの素早い否定にわたしは慎司くんの顔を見つめる。なんでそんなにはっきりちがうって言えるんだろう?
頭の上に???が浮かべたわたしの困った顔を見て、ため息をつきながら慎司くんが言う。
「いるんだよ、そういうの分かるやつが」
「ソウユウノワカルヤツ?」
「………京都の方に陰陽師が」
「お、陰陽師!!!」
陰陽師といえば、おいのりやうらないをする人だ。安倍晴明という平安時代の人が有名で、呪術に興味を持つ友だちが将来なりたいお仕事として書いていたのを見たことがある。
「陰陽師の人って、今もいるんですね!」
それは、ぜひ会ってみたい!そうだ、陰陽師にあこがれている友だちもいっしょに会いに行けないかなあ………。
そう考えて、目をキラキラさせたわたしに慎司くんがくぎをさす。
「——ほかのやつには言うなよ」
わたしはギクッとしてかたをゆらした。
――慎司くん、カンが良すぎる。
わたしの様子にまたため息をつく慎司くん。やっぱり他の人に言っちゃダメなことだったか。というかこんなフシギなお話、そもそも信じてもらう方が難しいかも。しょんぼり。
「陰陽師、会いたかったなあ………」
「オレも会ったことがないからよく知らないが、京都にはまだいるらしい」
慎司くんも会ったことがないんだ。なんか意外だ。
「京都って、修学旅行で行くところだよね?猫の事務所って全国にあるの?」
似たようなものがなと言う慎司くんの足元では、わたしたちの会話にあきた李徴があくびをしながら寝転がっている。
公園から神社まで、あんなスピードで往復したんだもん。さすがにつかれちゃったのかな?わたしは先ほどの空の旅を思い返した。
京都って遠いらしいけど、李徴に乗ればすぐにたどりつけるんだろうか。猫の事務所で働いてたら、いつか陰陽師の人にも会えるかなあ。
「で、その陰陽師が、この公園に怪異が出ると言った」
いきなりの陰陽師の登場で、すっかりちがう方向にいっちゃった話を慎司くんがもどす。
「——だが、くわしいことまではうらないきれない」
「そうなんだ?」
へえ、うらないって案外不便なんだ。わたしはまだ見ぬ京都の方向をぼんやりとながめる。
「そこで、お前の目が必要になる。」
「わたしの目?」
――陰陽師でもうらなえないことに、なんでわたしが必要なんだろう。
理由がわからないわたしに、慎司くんが自分のカミをつまんで問う。
「オレのカミの色は?」
「白!」
「不正解」
慎司くんは上着のポケットから学生証を取り出した。
資料、地図、学生証。次々と取り出されるモノの多さにおどろく。まるで、慎司くんのポケットは四次元ポケットみたいだ。
「し!慎司くんって中学生なの、で、すか?!」
学生証の表紙に書かれている学校名は、この地域で一番頭のいい中学校だった。
——慎司くんって年上なんだ!やっぱり、敬語でお話した方がいいのかなあ。
話し方を迷っているわたしを気にもせず、慎司くんがとあるページを開く。そこには慎司くんの写真がはってあって――
「カミの毛が黒い!」
思わずわたしは慎司くんの手から学生証を取り、カレとカレの写真を見比べてしまう。どちらの顔立ちも慎司くんそのものだが、でも目の前の慎司くんのカミはどう見ても黒には見えない。
「最初、この暑い日にマフラーをつけているお前を見て、ただ物語の怪異が起こすトラブルに巻き込まれているやつだと思った。——けれど昨日、」
慎司くんの指からはなれたカミは風をまとい、ふんわりと空に浮かぶ。
「お前はこのカミを白いと言った」
――その色は降り積もる雪と見分けがつかないくらいに、白い。
「でも、だって、今も白いじゃない」
わたしは信じられなくて慎司くんに言い返す。
「本来、他人からは白に見えないはずなんだ。——写真のように、周りの人間と同じように」
「………音子さんも?」
「音子さんも、だ」
わたしはなんだかこわくなって自分の左目を手のひらでかくした。それでも慎司くんのカミはとても黒には見えない。
「……ほかの人には写真と同じで黒に見えているの?」
「そうだ。本来、物語の怪異が起こしたトラブルは、怪異に取りつかれた人間か、自然物にしか作用しない」
ほかの人に見えない現象。でも、なぜか自分だけはオカシイと感じてしまう変わったコト。あれ?それって、もしかして――。
「わたしが今の季節に雪が見えるのも、物語の怪異のせい………?」




