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白いカミの男の子

 みやちゃんとお話ができなくなって、わたしはいつも通りお外に出た。けれど、毎日学校を休んでいるわたしは一人でできる遊びをやり尽くしてしまって、ヒマを持て余していた。


「今日はどうしようかな」


 わたしはもう小学5年生だ。学校に行けなくなって、最初こそ公園をひとりじめできるめったにない機会をめいっぱい楽しんだ。それに飽きてからは苦手だった逆上がりの練習をしたり、タブレットで勉強をしたり、ひさしぶりにアリの観察をしたりもした。けれど、もうそろそろこの公園でできることはやり尽くした気がする。


「どこか探検しようかな?でも先生から学区から出るな~って言われてるし………」


 その時、どこからかチャイムが鳴った。


 キンコンカンコンという聞きなれた音にわたしの体は思わず飛び跳ね、口元のマフラーをにぎりしめた。ドキドキと心臓が鳴りひびくのをなだめるように、お気に入りの星型のワッペンをなでていたら少し心が落ち着いてくる。


 冷静になってみると、今聞いたチャイムの音はわたしの学校の音とは少しちがうことに気がついた。


「そういえば、レオ姉の高校って歩いて行けるところって言ってたっけ………」


 レオ姉とは、近所に住む高校生のお姉さんのことだ。わたしが一年生の時に登校班の班長をしていた女の子で、小学校を卒業した今も家が近いから仲良くしてくれている。


 高校の制服を見せに来てくれたとき、春から通う高校はお家からすごく近いんだよとレオ姉は言っていた。それから忙しいのかぜんぜん会えてないけど、思い出したら久しぶりにレオ姉に会いたくなってきた。


「行っちゃおうかな。………会えないかもだけど」


 私はマフラーを羽ばたかせ、チャイムの鳴った方向に歩き出した。


 目的の高校は意外とあっさり見つけることができた。歩いている途中でレオ姉と同じ制服を着た女の子を見つけたからだ。


 最初はぽつぽつとしかいなかった制服が、高校に近づくにつれてどんどんと増えていった。わたしはなんだか推理ゲームをしているみたいでわくわくした。こんなに早く見つけられるなんて、もしかしたらわたし、探偵に向いているのかも。


 わたしはかけてないメガネを人差し指でクイッと持ち上げ、道を急いだ。


 高校の前まで行くと生徒がどんどん下校していく姿が見えた。


 高校ってもしかして小学校より下校時間早いのかな。けれど、まだレオ姉の姿はまだ見えない。私はいったん通学路が見える場所で待つことにした。


 校門から数分奥に進むと公園があった。通学路にもなっているようで、高校生のグループが一緒に歩いているようだった。お家に帰る方向にも重なる道で、ここならレオ姉が通る可能性だって高い。わたしはこの公園でしばらく待ってみることに決めた。


 この公園は普段使っている公園よりもかなり広かった。けれど、見たことがあるような遊具がぜんぜんない。


「おかしいなあ、入り口に公園ってちゃんと書いてあったのに」


 近所の公園とちがう様子に私は気になって奥へ奥へと歩を進めた。


 公園には広くてにぎやかで人がいっぱいいるのに、わたしが進む方向はどんどん人が居なくなっていた。でも、なぜだかわたしの足はその方向に進み続けた。


 階段を上り、低い木々を抜けると、それは急に現れた。


「なあに、この石?」


 目の前には六角形の石が2段に重なり、上段には絵が彫られていた。しかし、その全体は雪におおわれて見ることができない。この道中ですっかり探偵気分になっていたわたしは、あごに手を当てて得意げに推理を始める。


「人が居ない丘。意味ありげに彫られた絵。なんか悪魔を呼び出す特別なサイダン、だったりして?」


 そんなわけないか――とは思いながらも、用心しつつ周囲を回ってその石にだんだんと近づく。近づいて観察してみると何かが石に描かれているのが見えた。わたしが手前の石に足を乗せ、絵を隠す雪を払おうとしたとき、ふいに目の前にカゲが差した。


「わあ?!」


 思わずのけ反ったわたしの目の前に真っ白なかみをした男の子が現れた。彼のかみは雪のように真っ白でふわふわしていた。思わずその美しさに目をうばわれて――


「白くて、きれい。」


言ってしまった。その時、彼の大きな目がわたしを見つめた。


 男の子の登場はまさに「降り立つ」という言葉がぴったりだった。どこからともなく、急に上から降ってきた。その美しさもあって、まるで人ではないみたい。この子、どこから降りてきたんだろう。


「何よ!危ないじゃない!」


 わたしは男の子に向かって叫んだ。男の子が立っている場所は先ほどまでわたしが手を置いていた場所だ。わたしがどかなければ今ごろふんづけられていただろう。わたしは怒りをこめた目で男の子をにらんだ。


「おいお前、なぜマフラーをしている。」

「はあ?」


 男の子はわたしの怒りを無視して、マフラーについて聞いてきた。


「なんでって、雪が降ってるからで——」


 思わず口から出てしまった言葉に、わたしはしまったと思った。


 なんで夏なのにマフラーを着けているのか。


 それは、お母さんからも、お父さんからも、会う人みんなに聞かれてきたコトだ。


「だって、雪が降ってるんだもん」


 その度にこう答えていたけれど、だれもわたしの言うことなんて信じてくれなかった。それでも本当のことだからとわたしが言い続けていると、いつしかみんな気まずそうな顔をして目をそらすのだ。


 ——この男の子はわたしのマフラーについてなんて言うのだろう。わたしははずかしくてにげ出したくなった。けど、


「雪——、お前にはここに雪が見えるのか」


男の子の反応は今までのだれともちがうものだった。


「……だって、ここにあるでしょ?」


 男の子の足元の雪をすくい上げ、わたしはカレの前に差し出す。


「あなたにも見えるの?」

「いや、見えない。けど、見なければいけない」


 ——どういうことだろう?私がさらに質問をしようとしたとき、


「和風ちゃん!」


後ろからレオ姉がわたしを呼んだ。


「レオ姉~!」


 すごいぐうぜんだ!確かにレオ姉に会うためにここに来たけれど、まさか本当に会えるだなんて!


 わたしはうれしくて、レオ姉にかけよって抱き着く。


「レオ姉、なんでここに?もう学校終わったの?」


 見上げるレオ姉の顔は真っ青で、まるで寒さにこごえているみたい。レオ姉にもこの雪が見えているのかな?


「今週はテスト期間で、友だちが公園にマフラーつけた女の子がいるって写真送ってきて。顔見たら和風ちゃんだったから。どうしたの?なにかあったの?」


 レオ姉がわたしに合わせてしゃがみ、ぐっと目線が近くなる。レオ姉はやっぱりわたしだけを見てくれる。そう思うとほっぺにそえられた手の温かさになぜだか泣きたくなった。


「おい、お前」


 後ろから先ほどの男の子の声が聞こえた。


 レオ姉に会えたことですっかり忘れていた!男の子はなぜこの雪を見えなくちゃいけないのだろう。


「ねえ――」

「明日もこの時間にこの場所に来い。」


 ふり返るわたしにそう言い残し、すでに男の子はいなくなっていた。

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