二番書記は同級生?!
市蔵の事件以来、わたしは毎日猫の事務所におじゃましている。
――なぜなら、音子さんにわたしの不登校がバレてしまったからだ。
「三番書記くん、君は学校に行ってないだろう」
市蔵とパートナーになった日、お家に帰る直前に音子さんにそう言われ、わたしはびっくりして頭がまっ白になった。
「………どうしてそう思うんですか?」
「大人だからさ、わかるんだそういうことは」
わたしと音子さんに、慎司くんはびっくりしていない。
………まあ、そうだよね。去年まで小学校に通ってた慎司くんなら、わたしが昼間の公園に来られる理由をとっくにお見通しだと思っていたけれど。
これまでこの問題にふれなかったのは慎司くんの優しさだろう。この事務所に来た初めての日、そういえば慎司くんはわたしに悩みがあるはずだと言っていたっけ。きっと、その時にはもう気付いていたんだろう。
「して、三番書記くん!」
音子さんは大人だから、学校に行けていないわたしをしかるかな。学校に行けって言うかな。——でも、まだわたしは学校に行く勇気が持てない。だから、もうここに来るのを止めた方がいいかもしれない。
そう思うと辛くて、わたしはこぶしをにぎった。強くにぎりすぎた指先が食いこみ、手のひらが赤くはれた。けれど、次の音子さんのことばは
「たとえ日が昇っている時間であろうと、子どもが一人で過ごすのは危ないではないか!」
というわたしにとって意外なもので、音子さんはわたしが学校に行けない日はここにいてもいいと提案してくれた。
「この席、だれの?」
というわけで、今もわたしは市蔵といっしょに猫の事務所にいる。
事務所のなかには音子さんの机と、わたしがいつも使っている来客用のソファセットのほかにも、いくつか子ども用の机が並んでいた。
わたし用の机は現在準備中なので、慎司くんの机と、今わたしが指を差しているもう一つ。これはいったいだれのものだろう?李徴は四足歩行だから机は使えないだろうし。
「それは二番書記用の机だな」
「二番書記?」
「そう、新木知波。君と同じ学校に通っている、同学年の女の子だ」
「へえ!」
知波ちゃん、かあ……聞いたことない名前だ。
わたしのクラスにはいない名前だ。そうするとどこのクラスの子だろうか。これまでしゃべったことあるかなあ。
「会ってみたいなあ」
わたしは会ったことのない女の子に思いをはせる。
何が好きかな?仲良くなれるかな?パートナーはいったいどんな物語の怪異だろうか。
「学校に行けば会えるぞ?」
音子さんが言う。
「音子さん………」
わたしはほっぺをふくらませた。
「すまんすまん」
音子さんは悪びれる様子もなく、軽い口調でわたしに謝る。
――学校か。わたしって結局何日学校に行ってないんだっけ?
えっと、一回休んでから、久しぶり行った日にみんなの目がこわくて早退して、そうしてその日から今日まで休んでて――あれ?そもそもわたしってなんで学校を一回休んだんだっけ?
音子さんと二番書記の子の話をしてから数日後、夕方にお家のチャイムが鳴った。あいかわらずみやちゃんの部屋に入りびたっていたわたしを、めずらしくお母さんが呼ぶ。
「和風ー、学校の友だちが来ているから下りてらっしゃーい」
友だち?学校を休んでからけっこう経っているのに今さら来るなんてどうしたんだろう。
そうフシギに思いながらもわたしは階段を下りた。けれど――
「えっ?」
そこにいたのは全く知らない女の子だった。
「和風ちゃん、久しぶり!」
そういって私に手をふった女の子は、こちらににっこりと笑いかける。
リボンがついたツインテール。ぱっちりとしてつり上がった大きな目。背丈は小さいものの、一目見たらだれもが大人っぽいという印象を持つ女の子だ。小学校にはあまりいないふんいきで、もし会ったことがあったら覚えているはずだ。
じゃあ、この子はどうして会ったこともないわたしに、友だちのふりをして会いに来たのか。その理由がわからないわたしには女の子のかわいい笑顔がブキミに見えた。
「これ学校のプリント。先生から家の近いからってわたされたの」
「あ………ありがとう」
わたされたクリアファイルには学級通信とか算数の宿題とか、見覚えのある文字で書かれた紙がはさまれていた。
この字の書き方は確かにわたしの担任の先生のものだ。けど、知らない人が知っているものを持ってきたという事実は、ますますわたしに女の子の存在をブキミに感じさせる。
「わざわざ届けてくれて大変だったわね。外、暑かったでしょう?ジュース飲んでいかない?」
わたしがあなたはだれとなかなか言い出せずにいると、お母さんが女の子に言った。
「いいんですか!おじゃまします!」
女の子はジュースという単語に目をかがやかせ、クツをぬぎ始めた。
——ちょっと待って!
わたしは女の子のかたに手を伸ばす。
「あなた」
だれ、と聞こうとした時、女の子のランドセルから茶色いしっぽが生えた。生えたしっぽはうごめき、引っこみ、そうして小さな顔をのぞかせる。
「よう、和風!おれはごん!」
わたしの行き場のない手に、ごんは元気よくハイタッチをした。




