あなたが空を飛ぶ理由
さっきの女の子はどこに行ったんだろう。また追いかけっこしたいなあ。
そう考えながらふわふわと飛んでいたぼくに、あるものが急に現れた。
けれど、今度のそれは虫取りアミじゃなくて――空にかかげられた青白い、星もようのマフラーだった。
「よだか!これ見て!」
よだかに向かってかかげたこのマフラーは、最近毎日着けているお気に入りのものだ。
雪が降り始めてからはいつも着けてたものだけど、さっきまでは何時間もよだかを探し回るうちに暑くなって一回外していた。
そして、このマフラーには星形の青いワッペンが付けてあった。だからよだかはこれに食いつくにちがいない。
ビュンッ!
「うわっ!!」
よだかが目にも止まらぬ速さで私のマフラーをめがけて飛び込んできた。——思った通りだ。
「だいじょうぶか?」
よだかの勢いに思わずたおれそうになったわたしの背中を、慎司くんが支えてくれた。
「——お前の予想はしっかり当たったみたいだな」
報告書を読み返すと、よだかにおそわれた子は星のマークのものを必ずどこかに身に付けていた。それも、青い色のモノをだ。
物語で、遠くの遠くの空の向うを目指したよだか。お日さまのところにも、お星さまのところにも、連れてってもらえなくて、そしていつしかよだか自身のからだが青い美しい光になり、物語は終わった。
でもこのよだかは、まだからだが青く燃えていないし、今もまだ何かを探して夜の空を飛びつづけていた。だから、わたしはこの子が空の向うに連れてってもらうために、星を探して夜に飛びつづけているのだと考えた。
だから青い星のワッペンが付いたこのマフラーになら、きっと飛びこんでくるんじゃないか。そう思って、よだかに見えるように空に掲げた。——結果は上々だ。わたしはマフラーを慎司くんにわたした。
「それにしても、さっきお前——」
毛糸にからまってもごもごするよだかをマフラーごと虫カゴに押しこんだ慎司くんが、クックックと静かに笑い声をもらす。
「スペインの闘牛士みたいだったな」
「なによお!」
からかわれたと思ったわたしは思わず不満の声をもらす。
「悪い。期待以上の働きだった。がんばったな」
そう楽しそうに笑って、慎司くんがわたしの走り回ってボサボサになったかみを整えてくれる。その手が温かくて、しばらくわたしは慎司くんのされるがままになった。
「——じゃあ、こいつを音子さんまで届けてくるから。もう夜もおそいし、お前は早く休めよ?」
あの大とり物の後、慎司くんはわたしをお家まで送り届けてくれた。
夜はすっかり月が空のてっぺんに近づく時間なのに、まだまだ帰る気はないようだ。
わたしには子どもは早くねろって小言を言うくせに、自分はこれから猫の事務所の事務所に行くんだってえ。慎司くんだってレオ姉と比べればまだまだ子どものくせにさあ。
「もうすぐ23時になるよ~?いいの~?」
さっきからかわれた仕返しにわたしは慎司くんに軽口をやり返す。
「問題ない。だって――」
よだかを抱えていない方の手で慎司くんが乱れたかみをかき上げる。
黒い夜空に浮かぶ雪のような一房のカミ。
「こんなカミ色のやつはルールを守らない。そうだろう?」
そう言って慎司くんは楽しそうにほほ笑んだ。昼間でも美しいカミは、月の光を反射してさらに美しくかがやいていた。
翌日、わたしはまた猫の事務所に向かった。昨日つかまえたよだかに会うためだ。
前に慎司くんと行った招き猫の神社までは遠いし、慎司くんも学校に行っている時間だろう。だか、今日は音子さんに習った方法で、一人で事務所に行ってみることにした。
「本当に、こんなことで猫の事務所にだどりつけるのかなあ」
今、わたしがいるのはお家に一番近い神社の入り口。つまり、鳥居のある場所だ。
わたしは受け取ったメモを見ながら、昨日の音子さんのことばを思い出す。
「いいかい、三番書記くん。この事務所に出入りするには、主に3つの方法がある」
1つは、物語の怪異といっしょに鳥居をくぐる。
2つ目は、物語の怪異に関わっている時にお願いをしながらくぐる。
3つ目は、道順に従ってくぐる、だ。
3つ目の方法は、この前慎司くんとくぐった時のやり方だ。なんで鳥居をぐるぐるさせられたのかフシギに思っていたけど、あれには意味があったらしい。
音子さんにいわく、現実ではない空間——いわゆる異界に入るには一定の手順が必要らしい。
「フシギなことを起こすには、それを呼び起こすレイギが必要だ」
——って。………それはふつうの生活をしてれば、フシギなことに出会わないわけだよなあ。
そう考えながら鳥居を手順通りにくぐり、また、とぷんと顔が何かに包まれる感覚。
——きた。
日常のすぐ近くで、わたしの知らない世界がまだこんなに広がっているんだ。




