第6話
桔梗さんの言っている事はよく分かりませんでしたが、能力者って何かしらの種族という意味なのでしょうか。
足を崩していた桔梗さんは立ち上がり男をしばらく見た後、何か納得したような顔を示していた。
「初めまして私は九條桔梗と申します」
桔梗さんは丁寧に自己紹介をにこやかな顔で男に言った。
ちなみに私の場合は名前が無いのでこういう事が出来なくて不便なんですが、これは解決するのでしょうか。
「縁史……」
この男、もとい縁史はボソリと言うだけでそれ以上は語らなかった。そもそもここに長居する予定は無く、私を回収したら元の世界に帰る予定だったのでとても不機嫌そうに言っています。
「あら、いい名前じゃない。でもこういう時に上の名前も合わせて答えないのはちょっと可愛く無いわね」
神経を逆撫でするような言い回しで桔梗さんは挑発するが、縁史は目を合わせず聞き流しているようだった。
二人ともその後は無言のままでその場の空気は重たくなっていった。そんな中で縁史が最初に口火を切った
「あんた、さっき俺に『同じ能力者は現れない』って言ったよな」
いきなり無礼な言葉遣いで話し始める縁史に対して、ええ言ったわよと余裕のある返事をする桔梗さん。そして縁史がこれまた横柄な態度で話し続ける。
「という事は、あんたは俺と同じ符術使いなのか?」
式神である私を生み出したという縁史は何かしらの能力を持っている。そして、それが符術という物らしい。
先程、縁史が作ったあっちの世界に戻るための扉を閉鎖した桔梗さんは同じ能力を持っていると考えたのでしょう。
私は桔梗さんの方へ顔を向けて答えを待ちました。しかし桔梗さんは、少し長めのため息をこぼして話し出した。
「聞けば教えてもらえると思ったの? 自ら手の内をひけらかすなんて愚策だわ」
そうでした、桔梗さんはこういう人でした。
それを聞いた縁史は大きく眉間にシワを寄せていた。
おまけに『俺と同じ符術使いなのか』と言って愚策をやらかしてるから余計に苛ついてるでしょうね。
冷静を装ってはいるが奥歯を噛んで顔を歪めてる縁史を見て私は気分が良かった。
「そうね、あえて言うなら縁史くんの能力よりも上位互換って感じかしら……」
「……だとしたら厄介だな。あんたから見れば俺なんて半端者だからな」
勝てる相手じゃないと思ったのか意外とあっさり自分の力量を認めた縁史だった。
状況を落ち着いて分析した結果、無駄な戦闘は避けると判断したのですかね。
桔梗さんに退路を絶たれた今は新たな方法を模索するしかないかもしれません。
「あら? 私がさっき言ったこと本当に信じてくれたの? なんだ結構かわいい所あるじゃない」
今まで長々と話していた内容をひっくり返した桔梗さんの言葉に耳を疑った。
もう私は能力以前に桔梗さんの事が分からなくなりました。
ていうか深幸ちゃん、よくこんな人を師匠にしているね。私は深幸ちゃんの顔を見ると目が合った。そして彼女にぎこちない笑顔を返された。きっと苦労してるんだろうな。
「……嘘なのかよ。じゃあどこまで本当なんだ!」
とうとう縁史は声を荒らげ問い詰めだした。そりゃそうでしょう、ここまで転がされたら仕方ないかもしれません。
「所詮、能力なんて相手に見せない限り基本は自己申告なのよ。だけどそれは本当かもしれないし、嘘かもしれないし」
もはや桔梗さんの話し方は興奮している縁史を諭しているようでした。これはもう全てに置いて一枚上手だと私は思った。
「それに戦う相手の情報を信じてどうするの? 相手を倒した後、その知識って何の意味も無いでしょ?」
確かに一度戦った相手が蘇らない限り再戦は無いに等しいでしょう。もしかしたら勝負に置いて傾向と対策なんて物は無いのかもしれません。
そしてここで重要なのは、桔梗さんは相手に負ける気は無くて勝つ前提で話を進めているという事。
「さて、試してみる?」
柔らかい口調だけど桔梗さんの一言でピンと空気が張り詰めて私は思わず身構えた。
ここまで勝っている事は何ひとつ無い縁史に誘いの合図が出ましたがどうするのでしょうか。
ぐぅ~~~~~
しかし、こんな緊張感の中で私の腹の虫が大きく鳴り響いた。
そういえばここに来るまで何も食べていませんでした。みんなの視線が私のお腹に注目が集まる。あまり恥ずかしさで誤魔化す事も出来ず、ただただ顔が赤くするだけでした。
「腹が減っては戦が出来ぬ、という事かしら」
桔梗さんはクスっと笑いながら一時休戦を提案してくれました。




