第5話
この男について私は幾つかの事を知っている。まずは少なくとも敵ではない、だけど私にとって良い奴という訳ではない。
なぜなら私はこの男によって召喚された式神だという事だからだ。つまり認めたくはないがこの男は私のご主人に当たる。
「いきなりすみません。あとコイツがお世話になりました」
私に指を差しながら男が軽くお辞儀をしている。
今しかないと思った私はそのまま男に殴りかかった。
私の鉄拳は交わされる事なく腹を一発殴ったが、そのまま腕を掴まれて体を引き寄せられた。
そして、とても冷たい目をしながら顔を近づけられて私に言った。
「これ以上迷惑をかけるな、帰るぞ」
「ちょっとお姉ちゃんを何処に連れていく気なんですか!?」
深幸ちゃんは大きな声で男を呼び止めた。
しかし男は立ち止まる事もなく淡々と話し始めた
「何処って……コイツがいた元の世界だよ。そもそも、あんた達だって分かってたんじゃないの? コイツがよそ者だって」
帰るって私、元の世界に帰れるのですか。と今までのわたしなら言っていましたでしょう。でも帰る相手がこの男なら別です、私は絶対に帰りたくありません。
「だとしても帰るならお姉ちゃんが選ぶ権利があるでしょ」
深幸ちゃんが私の気持ちを察してくれたのかこの男を説得してくれているが相手も一歩も引かずに持論を展開していく。
「コイツに決定権なんか無いんだよ。この式神は俺のなんだから、主人の言う事を守っていればいいんだよ」
それはなんというか、あまりにも不平等な意見でした。私は深幸ちゃんの顔を見ましたがこちらに目を合わせてくれなくなり、最終的には彼女は何も言い返さなくなりました。
おそらくですが、きっと道理は通ってるのでしょう。私が式神でこの男が主人である以上、他が口出しする事はないと。
「こっちの世界に迷惑を掛けたのは悪かった、それは反省する。だけどその後はそっちには関係のない話しだろ。俺はコイツを回収しに来ただけだから、用件はそれで終わり」
私の腕を無理やり掴みながら、また男は持論を語っていた。
でもどんなにこの男の言っている事が正しくても私は帰りたくないです。
前の世界では嫌な思い出しか無いけど、この世界での事はそれなりに楽しい思い出がたくさんあるんです。それをいきなりやってきた奴に邪魔されるのは納得がいきません。
「ほらよっと」
男はズボンのポケットから札を取り出してその場に投げた。するとその札は一瞬で大きくなり私達が通れるくらいの大きさになった。男がドアを開ける要領で奥に押すとこちらの世界とは全く違う景色が広がっていた。
「邪魔したな」
後ろを振り向いて軽く挨拶をしながら扉から出ようとしたその時、男が何かに頭をぶつけて後ろに下がった。何が起きたのか理解できていない男は頭をさすりながら原因を目の当たりにした。
「なんだ!? この壁は!?」
私も札の方を見ると先程、生成した扉の向こう側は景色が広がっていなくて黒い壁が出来ており、入る事が出来なくなっていた。男は慌てているのか私をつかんでいる手を離して、両手でその黒い壁を触っている。壁は硬い膜を張っていてこちらの力を跳ね除けるほどの弾力があるようです。
「あなたの世界との繋がりを一時的に封鎖させて頂きました」
そう言ったのは私達の後ろでくつろいでいる桔梗さんでした。
どうやったのかは分かりませんが、犯人自ら名乗り出るというのが、なんというかこの人らしいと感じがしました。何か理由があるのでしょうか、それともただの気まぐれかもしれませんね。
続けて桔梗さんは男に向かって話し続けた。
「あなた、物語に同じ能力者は現れないと思っているでしょ」




