第4話
私はこの世界に来る前の全ての事を思い出した。しかしそれは決していい思い出では無かった。むしろ苛立ちの方が大きい、今更ながら無理に思い出す必要さえ無かったとさえ感じる。
「あの野郎、偉そうに上から目線で人に命令しやがって、どういう人生送ってたら、あんな人間になるんだ」
感情が高ぶって、つい声に出してしまった。でもこんな言葉にしただけでは足りないくらいでは私の怒りは収まらない。これはもう一発入れないと気が済まないでしょう。私は拳を突き出して来るべき日の準備をした。
「あの……お姉ちゃん、ちょっと落ち着いて」
荒れ狂っている私に深幸ちゃんが少し困った顔をしながら近づいてきた。どうやら心配してくれているみたいで申し訳なくなった私はとりあえず冷静になる事にした。
心が穏やかになると今度は別の感情が生まれた。今もこうして優しく宥めてくれている深幸ちゃんへの気持ちを改めて感じ先程のお礼を言った
「深幸ちゃん、ありがとうね。ここまで来たお陰で記憶を取り戻せたよ、名前に関してはまだ問題があるけどね。あとさっきは結果的に泣かせちゃってごめん。こんなお姉ちゃんでよかったらまた一緒に遊ぼうね」
私は彼女へ精一杯の笑顔を向けながら全ての気持ちを話した
しかし深幸ちゃんは何故か浮かない表情をしているけど、なんか変な事言ったかな。すると彼女は目を合わさず一言呟いた。
「前のお姉ちゃんの方が良かった……」
先程まで涙してくれたとは思えない言葉が返ってきて、私は稲妻に打たれたような衝撃を受けた。私は深幸ちゃんの肩を掴みながら理由を聞いた。
「えっなんで? 前と何が違うの?」
「いや、なんか……全体的に真逆というか……」
考えてみると記憶を取り戻したからと言って、これが本来の私なのかと問われれば難しい話かもしれません。それにこれまでの私は少し自信の無さそうな感じだったとも思います。
しかし今のこの私が普通だと思っている以上、何もする事が出来ないのです。だから深幸ちゃんには申し訳にないけど、このまま私を受け入れて欲しい。
「という事で、その可愛い尻尾の毛並みを確かめさせてください」
「何がという事なんですか! 絶対に嫌です!」
私は触らせてと言いながら捕まえようとして、それを必死で後ろを取らせないようにする深幸ちゃん。二人して所狭しとこの部屋の中でじゃれ合った。
その様子を見てなのか桔梗さんは扇を広げ口元を隠しながら笑っていて、こんな状態でも楽しんでいる様子だった。
「桔梗様、お姉ちゃんに何したんですか?」
深幸ちゃんが私から逃げ回りながら質問をしています。彼女が油断している内に手中に収めようとしますが、すばしっこくてなかなか事が出来ません。
「その娘こっちの世界に来る間に黒い隔たりみたいな物が記憶の中で出来ていたから、それを取っ払った感じかな」
あっけらかんと桔梗さんが答えていますがそんな事はお構いなしに狩猟を続けていた。
一頻り暴れまわった後、とうとう深幸ちゃんは私の手が届かない棚の上に登って降りて来なくなりました。
「ほらぁ、降りておいで。何もしないからぁ」
「ここまで追って来て、そんな訳ないでしょ!」
その時、後ろでガチャという音が聞こえた。
私は振り返るとコツコツ歩いてくる一人の男がいた。奴は綺麗に波打った茶髪を肩まで伸ばしていて、それを揺らしながらこちらへと近づいてくる。
私は奴の顔を睨んでいたが、そのまま何も臆することなく目の前まで来て右手を上げて軽い挨拶をして私に話し掛けた。
「こんな所にいたのか。まあいい、帰るぞ……」




