第2話
私は深幸ちゃんと目を合わして二人で驚きました。桔梗さんはこちらを少し見ただけですぐに判別したのです。
式神、それが私の種族になるのでしょうか。
「何でもかんでも拾ってきたりするのは止めないけど、ちゃんと責任を取って飼いなさいよ」
「……あっ、ハイ分かりました」
桔梗さんは深幸ちゃんに気だるそうに注意していた。
いや私は捨て猫じゃないんですよ、確かに名前はまだ無いけど。ここで寝泊まり出来るのはありがたいですが飼われるつもりはありませんからね。
そして深幸ちゃんもハイって言わないでよ、師匠の言う事なら何でも肯定するんですか。
「あの私、名前や記憶が分からないんです。桔梗さんならどうにかしてくれると思ってここまで来ました」
このままだと深幸ちゃんは少し頼りないだろうと思い、仕方ないのでの自ら本題への軌道修正をした。どうにかしてくれると頼んだけど名前を付けてくれるのでしょうか。それとも私を式神と一瞬で見破ったのであれば、その手の知識に詳しいのかな。だとしたら新たな対処法を教えてくれるかもしれません。
「なんで私がわざわざそんな事しないといけないの……」
碁石を置く手を止めないでこちらへ見向きもせずに、こちらの要求は一蹴されてしまいました。
何か言い返そうとしましたがよく考えてみればそうかもしれません。ここは病院でもなければ、相談に乗ってもらえる教員がいるわけでもない。あえていうならば突然、目の前に現れる不思議なお屋敷とそこに住んでいる主人。初対面でいきなりなんとかしてくれと頼む方が無礼なのかもしれません。
「深幸からもお願いします。お姉ちゃんが式神と見抜いた桔梗様なら何とかして貰えないでしょうか」
深幸ちゃんは言葉を選んで頭を下げて頼み込んでいる。師匠の前だから真面目にしているのかもしれませんけど、彼女の姿に私は少し目が潤んでいます。
すると桔梗さんは碁石を持っていた手を止めて、こちらへ向き直し話し出した。
「先程も言いましたよね、責任をもって飼いなさいと」
その後に言葉は続きませんでした。そして桔梗さんからは何も言い返えさせないような気迫があります。なんでもない私がそう感じているのですから、弟子である深幸ちゃんには相当な重圧が掛かっているでしょう。
目をやると彼女の横顔は朔來先生に質問されていた時とは比べ物にならないくらい冷や汗を掻いていました。彼女からはすさまじい緊張と気分の沈みようがこちらに伝わってきます。
しかし深幸ちゃんは意を決したのか桔梗さんに言葉を返した。
「でもこのままじゃ、お姉ちゃんは消えちゃうかもしれません」
「でしょうね」
えっ……そうなんですか。それはもう決定事項なんですか。つい言葉をはさみそうになるのを押し殺して静かに驚いた。
私達の話は、またも桔梗さん軽くあしらわれてしまった。
「その娘はこのままだと消えます。けれどもそれは仕方ありません、それがその娘の寿命です。例外はありますが、どんな生き物にも寿命はあります。あなたはそれを分かっているはずです」
彼女は一度、死を覚悟した猫でした。気まぐれなのかもしれませんが、その命を拾い上げてくれたのは桔梗さんでした。今こうして深幸ちゃんと一緒に住んでいるのは、桔梗さんの言う責任なのでしょうか。
真っ向から論破されてしまった深幸ちゃんの顔は下に向いていました。心配になって肩に手を掛けると少し震えていました。そして彼女の瞳から頬を伝って雫は廊下に落ちた。
「深幸はお姉ちゃんにあんな思いはして欲しくないです」
深幸ちゃんのした経験を語れるのは特例でしょう。本当ならばそのまま消えて無くなるのを桔梗さんに助けて貰ったのですから、普通なら聞くことが出来ない話です。
しかし先程から当事者を外して二人で話していますが、私ってこのままだと消えてしまうのですね。どういう感覚なのかは分かりませんが、幼いけど妖怪ではある深幸ちゃんが涙するのだから言葉では表せないくらいなのでしょう。
彼女のすすり泣きを聞いていると桔梗さんがため息混じりに話し始めた。
「あなたの知らないだけで、こうしてる今も命が尽きている者がいるの。それなのになぜその娘だけ特別に扱うの?」
優しい口調ではあるがとても辛辣でもっともな意見でした。しかし桔梗さんが言っている事は私も気になっていました。
やがては同じく消えてしまう道を歩むからだとしても、なぜ深幸ちゃんはここまで必死になってくれているのかは分かりません。私は偶然に混沌の森で彼女と出会いましたが何か他に理由があるのでしょうか。
深幸ちゃんは少し黙った後、顔を上げて今までで一番大きな声で言った
「深幸はまたお姉ちゃんと遊びたいからです」
彼女の真っ直ぐな言葉に私も雫を廊下に落とした。




