2-9. 銀のリング
慌てて右膝の擦り傷を両手で押さえる。皮膚が擦りむけて出血していた。急いで立ち上がろうとするが、右膝が痛みよろけてしまう。
〈早く立たないと、あの人達が!〉
──ガッ!
『!』
サバイバルナイフを持った中年の男性に左手で右腕を掴まれた。右腕が痛む程強く掴まれている。
『残念だったなぁ、ガキ。この部屋を知られたからには生かして帰すわけにはいかねぇんだぁ』
『オ、オレ……』
恐怖で体が震えてしまう……洞窟を通れば森から出られると思っていたと伝えなければいけないのに言葉が出てこない。
『ハハハッ、怖いよなぁ。そうだ! 生きて帰りたいのなら俺達と約束しようぜぇ? 誰にもこの部屋のことは言わないって、な』
中年の男性は深い笑みを浮かべながら、サバイバルナイフの刃を左の首筋に当ててきた。約束をすれば本当に逃してくれるのだろうか……今断れば間違いなく自分の命が危ない。
『い、言わな……』
『ダメよ、生かして帰す選択肢はないわ。ねぇ、僕、この部屋にある物を見てしまったわよね〜』
ロングドレスを着た女性は鋭い目つきでこちらを見ている。血が付いた銀のリングのことを言っているのだろうか。
『冗談ですよぉ、分かりやした。それじゃ、悪いなぁガキ』
サバイバルナイフの刃がゆっくりと皮膚に食い込み始める。
『っ!』
恐怖のあまり両目を閉じてしまう。
〈オレ……ここで……〉
──『あー、やっと見つけたぞ!』
〈え〉
ドアを塞ぐ中年の男性の後ろに、黒髪の青年が立っている。
『……』
森で助けてくれた青年だ。もう森にはいないのかと思っていたが、自分を捜していてくれたようだ。
『お兄さ……』
震えた声で話しかけようとした瞬間、黒髪の青年はドアの前にいた中年の男性を右手で退けてこちらへ歩み寄ってきた。
『おとうとぉぉおおお‼︎ 心配したんだぞ‼︎ 森で勝手に離れやがって‼︎』
……弟?
意味が分からずキョトンとする。自分は黒髪の青年の兄弟ではないのだが……。
『誰だぁ、お前?』
自分の左の首筋に当てていたサバイバルナイフを今度は黒髪の青年に向けている。驚いた自分は小さく首を振ってこちらに近づかないよう合図を送る。だが、黒髪の青年は歩いている足を止めようとしない。
〈お兄さん、来ちゃダメだ‼︎〉
『あぁぁあああ‼︎ そんなどーでもいい質問は後にしてくれ‼︎ 今は頼む、弟と感動の再会のハグをさせてくれぇええええ‼︎』
サバイバルナイフを見せても動じない黒髪の青年の勢いに押され、中年の男性は驚いた表情で自分から少し距離を空ける。その隙に黒髪の青年は自分に抱きついてきた。
『お、お兄さん、弟って……』
三人に聞こえないよう小声で黒髪の青年に話しかける。
『いいから、俺に合わせろ。分かったな』
自分の耳元で黒髪の青年はそう囁いた。




